岡山の森、現代アートで観光振興…初の芸術祭を12市町村で開催

2024年10月22日(火)5時0分 読売新聞

自作「山に響くこだま」の前に立つジェンチョン・リョウさん

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 現代美術の第一線で活躍する美術家が参加する「森の芸術祭 晴れの国・岡山」が、11月24日まで岡山県北部の12市町村を舞台に開かれている。初開催の美の祭典は、アートの力で山間部の自然豊かな土地に隠れた「資産」の掘り起こしを試みる。地域の活性化と観光誘客が期待されている。(大阪文化部 森田睦)

 作家選びなど芸術祭の構成を担当するアートディレクターには、金沢21世紀美術館の長谷川祐子館長が就き、12か国・地域から42組43人の作家が参加した。写真家で映画監督の蜷川実花さん、アルゼンチン出身のレアンドロ・エルリッヒさんら気鋭ばかりだ。

 県土の約70%を覆う森林にちなんだ作品が目立つ。南アフリカ出身のビアンカ・ボンディさんは、草木やコケで部屋中を満たし、津山市の旧病院の洋館を植物の匂いが充満する森の空間へと変えた。

 錯覚を利用して現実認識に気づきを与える作品で知られるエルリッヒさんは、造木を天井から逆さにつって、床に敷き詰めた鏡に映したインスタレーションを奈義町で制作。緑に囲まれた空間は、見過ごされがちな恵まれた自然を強調している。

 鏡野町を象徴する鳥「ヤマセミ」の巨大彫刻(高さ約6・5メートル)の中にコブシの木を植えた、台湾のジェンチョン・リョウさんの作品も同様だ。

 地球の創造物と共作するように、鍾乳洞でインスタレーションを展開したのは、蜷川さんのチームとアルバニア出身のアンリ・サラさん。

 蜷川さんらは、満奇洞まきどう(新見市)の赤色にライトアップされた泉に、無数の彼岸花の造花を散らし、幻想的な風景を作り出した。サラさんの作品では、全長約1200メートルの井倉洞(同)で光と楽器の音を携えて洞窟探検をするような鑑賞体験が味わえる。

 食もアートに取り入れた。アルゼンチン出身のリクリット・ティラヴァニさんは、地元のシェフらと協働し、地物を使った弁当を作った。津山市の大名庭園「衆楽園」で提供し、食と文化資源を溶け込ませる作品として発表している。

 自然、観光地、食など地元の素材を絡めて、「岡山ならでは」の作品をちりばめている。活性化のタネを発掘する地方型芸術祭の王道と言える。長谷川さんは「アートは土地の物語を見つけたり、魅力を可視化したりできる。見逃していた資源に気づき、生きるための『新しい資本』を作るヒントにもなった」と胸を張った。

 会場の岡山県北部は、岡山市や倉敷市といった県南部に比べ、産業が乏しく、過疎化が著しい。「森の芸術祭」は、多くの過疎地域での芸術祭と同様に、観光誘客の期待を背負っている。

 伊原木隆太知事は「交通の便が良くない地域だが、成功する可能性はあると思った」と話す。世界中から70万人を超える人が瀬戸内海の島々を訪れる3年に1度の「瀬戸内国際芸術祭」などの成功例が後押しとなったという。しかし、継続的な開催については「来場者数や評判、地元へのインパクトを見て、総合的に判断したい」と慎重だ。

 実際に単発で終わった芸術祭もある。茨城県北芸術祭(2016年)が一例で、「持続的な地域の発展にとって真に効果的であったかどうか曖昧」というのが理由だった。

 たしかに芸術祭は一過性のイベントだ。「ハレ(非日常)」の効果を、いかに開催期間以外の「ケ(日常)」に波及させられるか。芸術祭の成否のカギは、閉幕後にもあると言える。

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