〈初週82万本売上〉リメイク版『ドラクエ3』は空前の大ヒットを記録! …それでも否定的なファンが後を絶たない“納得の理由”とは
2024年11月30日(土)7時0分 文春オンライン
2024年11月14日、HD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(以下、HD-2D版『ドラクエ3』と表記)が発売された。本作は1988年に発売された同名タイトルのリメイク版で、日本国内ではスマッシュヒットを記録している。
評価は上々で、世界のレビューを集積するサイト MetacriticではPS5版が84点 を記録(記事執筆時点)。PCゲーム販売プラットフォームのSteamでも売上上位に入るほか、 ピーク時の同時接続者数は4万5357人 を記録した。
売上も見事である。 ファミ通.com によると、日本国内のパッケージ版の初週本数は約82万本と大ヒットだ。
他の有名作品と比較しても頭一つ抜けた売上
直近のスクウェア・エニックスのリメイク作品と比較すると、『ファイナルファンタジーVII リバース』が約26万本、『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』が約11万本と、飛び抜けた記録になっている(どちらもファミ通集計の国内初週販売本数)。
現在はDL版も普及しているため、HD-2D版『ドラクエ3』は日本国内だけでも100万本を軽く越えているだろう。本作を楽しんでいる人の声もたくさん聞こえてくる。
一方、ユーザーのすべてが満足しているかというと微妙なところである。 Steamのユーザーレビューは「賛否両論」 に留まっているし(記事執筆時点)、不満を口にする人もしばしば見るからだ。
なぜ、ここまで大ヒットになっているHD-2D版『ドラクエ3』に不満を持つ人が出るのか? 要因のひとつは、「ドラゴンクエスト」(以下、「ドラクエ」と表記)シリーズのあり方が変化しつつあるからではないか。
「ドラクエ」がヒット作になった理由
「ドラクエ」シリーズは“日本の国民的RPG”といっても過言ではないだろう。
1986年に初代が発売されてから徐々に人気を獲得し、ファミコンの『ドラクエ3』ではいよいよ社会現象になった。発売日にはゲームショップに行列ができ、ニュースになっていたようだ(念のため説明すると、昔は物理媒体を買うのが基本だったので店に行く必要があったうえ、ゲーム専門のショップがたくさんあった)。
「ドラクエ」シリーズの功績は、日本にコンピュータRPGを広めた点といえよう。『ウルティマ』や『ウィザードリィ』から多大な影響を受けているのだが、それを知らずとも楽しめたのが重要だった。RPGといえば、いまやコンピュータ(ゲーム機)で遊ぶのが当たり前だが、その元祖はテーブルトークRPG(卓上で遊ぶボードゲームのようなRPG)だとされている。「ドラクエ」はそれまでの海外のRPGの文脈を知らずとも楽しめる作品に仕上げ、雑誌上で大きく宣伝し、日本に広めたわけだ。
もちろん「ドラクエ」シリーズはいまも人気があるのだが、昔と今ではゲーム業界も大きく様代わりしている。
日本のRPGが黄金期を迎えていたころは、北米やヨーロッパの作品に注目するゲーマーも多くはなかった。「洋ゲー」などという言葉があったように、日本のゲームが中心にあって、周縁に海外のゲームもあるという認識だったといえる。
もちろん現在も日本はゲーム業界にとって重要な地域だし、有名な開発会社が多数ある。とはいえ、北米やヨーロッパで作られたゲームは、いまや人気の大作タイトルとして日本国内でも当たり前に受け入れられるようになった。あるいはいままでゲームと縁遠かった国もスマートフォンの普及でゲーマーが増えたりと、海外市場が非常に大きな存在になっている。
リメイク版への不満はなぜ生まれたのか
RPGというジャンルも変化している。「ドラクエ」シリーズのような日本で発達した作品はJRPG(日本のRPG)と捉えられており、レトロで懐かしい存在といえる。一方で、いまや当たり前になっているのはオープンワールドRPG。「ドラクエ」シリーズと同じく古典的なRPGといえる「ポケモン」シリーズですらオープンワールドRPGへと変化を遂げた。
あくまで筆者の私見だが、スマートフォンで大きく普及したいわゆるソーシャルゲームもRPGの一種だと捉えることもできる。たいていのソーシャルゲームにはRPG要素(育成と収集)が欠かせず、現在その遊びを担っている一大ジャンルといえるのではないか。
いずれにせよ、「ドラクエ」シリーズが置かれている状況は今と昔では異なる。かつてはゲームの王様だったし、世相的にもRPGというジャンル自体が大人気だった。1988年に発売されたゲームをリメイクするとなると、その時代の違いを考慮して変更を加えなければならない。
昔を懐かしむ人に楽しんでもらうのはもちろん、海外進出をするための変更を加える必要がある。かつ、ナンバリングの「ドラクエ」シリーズは発売期間が空いているため、若年層向けにもアピールする必要がある。
スクウェア・エニックスは世界的企業なのでこれは当然なのだが、これは「1988年当時の国内向けRPG」にメスを入れることでもあり、それが一部ユーザーの不満に繋がっていく。
海外展開を意識した“ジェンダー配慮”に生みの親が苦言
海外展開をするうえで、HD-2D版『ドラクエ3』はジェンダーに対する配慮を行っている。
本作では最初に勇者の設定を行うのだが、性別を決めるのではなく、「ルックスA」、「ルックスB」と見た目を決めるような文言に変更された。そして、これに対して一部のユーザーから反発が起こっている。
性別ではなく見た目を選ぶというのは、昨今のゲーム業界ではスタンダードなものである。これによって男女に限らない性別の人も違和感なく選べるようになるのだが、古いゲームゆえにその姿勢を受け入れない人もいたわけだ。
また、性的な表現の変更もあった。本作ではルックスB(過去作では女性)の戦士がビキニアーマーを装着しているのだが、HD-2D版になるにあたりインナーが追加されており露出が控えめになっている。これは単純にビジュアルの調整がいまいちで、配慮のための強引な修正に見えてしまったのもよくなかった。
いずれにせよ、リメイクにおいて「原作と違う」ことはそれだけで反発を呼びうるのである。日本にRPGを広めた「ドラクエ」シリーズは保守的なJRPGになっており、なおさらセンシティブな問題になっていく。
何より、「日本の国民的RPG」が「世界向けのRPG」に修正されるとなると、ゲームのアイデンティティすら揺らぐと不安に感じる人もいるだろう。あくまで国内の絶対的な存在でいてほしい、という気持ちも理解できなくもない。それだけならまだしも、「ドラクエ」の熱狂的ファンであれば自身のアイデンティティにも繋がりうる。
しかし、前述のようにいまやゲームは世界に売るべき状況になっているわけだ。スクウェア・エニックスとしては変更を通さざるを得ないだろう。
一方、「ドラクエ」シリーズ生みの親である堀井雄二氏は、ジェンダー配慮に対して苦言を呈している。
〈「男女にしていったい誰が文句を言うんだろう。分からない」
産経新聞 ドラクエ3リメーク版の「性別撤廃」に"生みの親"井雄二氏が苦言「誰か文句言う?」 より〉
世界向けのJRPGになりたいのかどうか、うまく足踏みが揃っていないような状況といえる。
国産のRPG体験も変化。当然ながら「ドラクエ」も変わらざるを得ない
ゲーム内容の変化も注目すべきだろう。前述のようにRPG自体もかなり変化しており、古典的なRPGはややニッチなジャンルといえる。
国内開発のライバルも方向性を変えている。たとえば、同じスクウェア・エニックスの『ファイナルファンタジーXVI』はアクションRPGに舵を切っているし、“大人向けのストーリー”を自称している。
任天堂は2024年11月に『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』を発売しているが、これは古典的なRPGの部類といえる。とはいえ、コマンド選択式のバトルでもアクション要素を入れていたり、メインクエストとサブクエストで物語進行を区切ったりと、現代風の装いは身につけている。何より物語のテーマが「繋がりと分断」であり、明らかにSNS時代を意識している。
では、HD-2D版『ドラクエ3』はどうなのか? こちらもゲーム内に手を加えており、ゲームバランスを緩和しつつ、育成と収集を楽しむ方向に舵を切っている。
オートセーブや地図が追加されたので難易度はかなり低下しているうえ、周囲を探索すれば装備や道具が手に入る。また、町中やダンジョンにいる「はぐれモンスター」を見つけて仲間にするといった収集・育成の要素が増えているわけだ。
ザコ敵が2回行動をしたりとゲームバランスの調整もされているものの、新職業である「まもの使い」がかなり強いうえ仲間も全般的にインフレ気味なので、かなりプレイヤー有利になったといえる。
このような調整は「保守的でありながらも現代的なRPGの遊び」と評することができるのだが、難易度が高い昔の冒険を求めていた人からは不満が出る可能性も十分にある。前述のように、ゲームのアイデンティティにも繋がる話だ。
たとえば、ファミリーコンピュータ版『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』は終盤のゲームバランスが取れておらず、ラストダンジョン前のザコが恐ろしく強かった。しかし、その難しさこそが思い出になっているのだと主張する人もいるわけだ。
ノスタルジーは強い。HD-2D版『ドラクエ3』は過去の、それも約36年前の思い出に手を加えようとする作品なわけで、不満をなくすほうが難しい。違う層にアピールすることを考えると、ある程度の反発はあって当然ともいえる。違いは些細に見えても、それが偉大な国民的RPGに対する否定的な意見とも捉えられかねない。
「ドラゴンクエスト12」はどうなるのか
何より、「ドラクエ」シリーズを続けるのであれば、今後は変化を絶対に避けられないのである。
残念なことに、「ドラクエ」シリーズのキャラクターデザインを担当した鳥山明氏、サウンドを担当したすぎやまこういち氏は既に亡くなっている。堀井雄二氏は現役で70歳のいまも引退は考えていないようだが、次の世代へバトンタッチせざるを得ないときがいずれ来る。
変化には痛みが伴う。日本でコンピュータRPGを広めた「ドラクエ」シリーズともなれば、その立ち位置を少し変えるだけでも違和感を覚える人が出てくる。ましてや保守的なRPGを求めるファンも多いとなれば、HD-2D版『ドラクエ3』程度の変更も不満となるわけだ。
現在は『ドラゴンクエスト12 選ばれし運命の炎』が開発中だが、これがどういった方向性の作品になるかは注目を集めるだろう。保守的で古典的なJRPGとして突き進むのか、それとも世界でも受け入れられるJRPGを目指していくのか。いま国民的RPGの転換点が近づいているのだろう。
(渡邉 卓也)