『光る君へ』ロスの私。6年前に光源氏を演じた舞台、その実現までの道のりを思い出す
2024年12月25日(水)11時0分 婦人公論.jp
(写真提供◎越乃さん 以下すべて)
100年を超える歴史を持ちながら常に進化し続ける「タカラヅカ」。そのなかで各組の生徒たちをまとめ、引っ張っていく存在が「組長」。史上最年少で月組の組長を務めた越乃リュウさんが、宝塚時代の思い出や学び、日常を綴ります。第88回は「観世能楽堂公演」のお話です。
(写真提供◎越乃さん 以下すべて)
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前回「宝塚元男役、偶然「ハローキティ新幹線」に乗った。キティちゃんは猫じゃない? ついついリボンを頭ではなく蝶ネクタイにしてしまう…」はこちら
私の大挑戦
『光る君へ』が終わりました。
すっかり『光る君へ』ロスです。
今から6年前、舞台で光源氏を演じたことがありました。
芸能生活25周年を迎えた年に、記念の何かをしたいと思い、私が選んだ舞台は能楽堂でした。
GINZA SIX観世能楽堂。
この舞台で演じてみたい!
今まで日本物にあまり興味のなかった私が、なぜお能の舞台の能楽堂でやりたいと思ったのか、その経緯は忘れてしまいましたが、ここでやる!という強い決意は覚えています。
宝塚時代、お稽古場も劇場も、演じる演目も役も、衣装も靴も小道具もすべて与えられていました。
演者は与えられた役を演じ、与えられたことを精一杯やるだけです。
今まで当たり前だったそのことがどれだけありがたく、すごいことだったかを退団してから知りました。
1から作る能楽堂の舞台。
とんでもない場所で、私の大挑戦が始まりました。
ぼんやりと源氏物語がやってみたいというのは思っていました。
しかし、誰と?
演出は?
衣装は?
そもそも能楽堂は借りられるのか??
そんな山のように出てくるいろいろな問題を1つずつクリアしていく中で、どうしてもクリアできない問題がありました。
それは、演出家問題でした。
一番大事な演出を誰にお願いしようかと思ったとき、ふっと思い浮かべたのが宝塚歌劇団の演出家、齋藤吉正先生でした。
先生が仕掛けてくる独特の世界観が好きでした。
守備範囲の広い齋藤先生なら面白いものを作ってくれるかもしれない。
そう思うやいなや、速攻で劇団に電話をしていました。
ところがその時期、先生は月組公演を控えていて難しいとの事...。
しかし、自分の中で齋藤先生にお願いしたい!と盛り上がった気持ちを0には出来ず、どうしても諦めきれなかった私は、また再び自分で直談判を。
猛アタックをかけ、思いの丈を劇団に伝えお返事を待つことに。
今でもはっきり思い出せます
それから何日が過ぎたでしょう。
大概しつこい私ですが、これはさすがに諦めなくてはだめなのかなと思い始めていた頃、忘れもしない、仕事で東京駅に向かうタクシーの中でその連絡はきました。
「越乃さんお待たせしました。一緒にいいものを作りましょう!」
藤壺役の大鳥れいさん
劇団からの連絡に、タクシーの中で大泣きしました。
そのときの場所も、つられて泣いているマネージャーと、何だかわからないながらも一緒に喜んでくれたタクシーの運転手さんのことも、今でもはっきり思い出せます。
与えられたことをするのではなく、自分で考え動いたことが、私には初めてのことだったように思います。
出演者には、心強い同期2人にお願いし、振り付けは大好きなKAZUMI-BOY先生にお願いしました。
衣装は以前からお付き合いのあった、明治大正時代のアンティーク着物をリメイクし「伝統と創造」をテーマに国内外で活動されている美・JAPONの小林栄子さんにお願いしました。
能楽堂なのに、歌舞伎舞台の皆様にも大変お世話になりました。
当日のロビーには、ふるさと新潟のよいものを皆様に知ってほしいと、新潟の企業様とコラボレーションして作った商品が並び、リーダーの煌月爽矢さん(今は中原由貴さん)と貴澄隼人さんをはじめとする宝塚時代の下級生たち10人が、販売やチケットもぎりや舞台袖のお世話までお手伝いしてくれました。
これからも続く長い旅路
たくさんのたくさんの方のお力をお借りして0から作り上げた舞台に、齋藤先生は「瀏覇(りゅうは)」というタイトルを付けてくれました。
最初はピンとこなかったタイトルですが、退団して何かがそぎ落ち原点に帰った今の私に「瀏」はとても相応しい言葉だと先生は言いました。
「覇」は勝利、極みを意味するそうです。
観世能楽堂で元タカラジェンヌがこのような公演をするのは初めてだったようです
リュウはリュウ(瀏)を極める(覇)
何にも極めてもなく勝利もしてない私ですが、この鍛錬はこれからも続く長い旅路です。
忘れられない風景
源氏物語という言葉に触れる度、サブリミナルのようにふっと思い出す風景。
齋藤先生、KAZUM-BOY先生、仲間たち、お世話になった皆様、能楽堂から見た景色。
世間知らずだった私の原点。
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