北朝鮮「韓流コンテンツを流通させたら死刑」反動思想文化排撃法の全文公開

2023年3月23日(木)18時2分 デイリーNKジャパン

北朝鮮で2020年12月に開催された最高人民会議常任委員会第14期第12回総会では、「反動思想文化排撃法」が採択された。次々に流入する韓流コンテンツ、それに影響を受けた韓国式の言葉遣いや歌い方、ライフスタイルなどを、極刑で押さえつけようというものだ。


その全文がようやく明らかになった。


デイリーNKと、韓国のNGOである「成功的な統一を作っていく人々」(PSCORE)は、21日にスイス・ジュネーブで開かれた北朝鮮における人権に関する国連調査委員会の設立10周年行事で、この法律の全文を公開した。


今回公開したものは、昨年8月19日に最高人民会議常任委員会命令第1028号で修正、補充されたもので、4章41条からなり、用語として「禁止」が14回、「遮断」と「処罰」が12回も登場させるほど、海外情報や文化コンテンツの流入に神経を尖らせ、なんとかして取り締まろうとしている様子が垣間見える。


第1章(1〜7条)には、反動思想文化排撃法の定義と目的など基本事項が、第2章(8〜14条)には、反動思想文化の流入ルートの遮断義務が明記されている。また、第3章(15〜26条)は伝播メディアを列挙し、反動思想文化の視聴・流布行為を禁ずる内容が盛り込まれ、最も比重の大きい第4章(27〜40条)は違反者に与える処罰の内容が列記されている。


流入が止まらない韓流コンテンツ


同法は、第1章「反動思想文化排撃法の基本」で、反動思想文化について「人民大衆の革命的思想意識、階級意識を麻痺させ、社会を変質・堕落させる傀儡(韓国)出版物をはじめとする敵対勢力の腐敗した思想文化と、われわれのものではないあらゆる不健全で異色的な思想文化」と定義している。韓国の映画、ドラマ、ニュースなどを含む外部コンテンツすべてを、反動思想文化と規定しているのだ。


そして5条(教養事業強化の原則)では、「国家は、敵の思想文化的浸透策動が日々狡猾かつ悪質に行われている条件下で、人民に対する思想教養をさらに強化し、彼らが反動的な思想文化に染まらないようにする」とした。流入が止まらない海外からの文化コンテンツが国民に多大な影響を与えているのが政治的負担になっていることが、同法制定の背景にあることを認めた形だ。


7条(反動思想文化排撃秩序違反者に対する処罰原則)で「国家は、反動思想文化を流入、視聴、流布する行為を犯した者に対しては、いかなる階層の誰であれ、理由の如何にかかわらず、厳重性に応じて極刑に至るまでの厳しい法的制裁を加える」とし、聖域のない強力な処罰を予告した。


最高刑は死刑も一部で減刑


4章の最初の条項のである27条(傀儡思想文化伝播罪)は、韓国映画や録画物などを流入、流布した場合に受ける処罰の内容を含んでいる。


「傀儡の映画や録画物、編集物、図書、歌、絵、写真などを見たり聞いたり、保管した者、または傀儡の歌、絵、写真、図案などを流入、流布した者は、5年以上10年以下の労働教化刑に処す」と明記。また28条(敵対国思想文化伝播罪)は、「敵対国の映画、録画物、編集物、書籍を流入させたり、流布した者は、5年以下の労働教化刑に処す」と規定している。


(参考資料:反動思想文化排撃法の全文)


27条も28条も、コンテンツを見たり聞いたりした場合よりも流入・流布に加担した場合の量刑が重くなっており、最高で死刑に処される。これは29条(性録画物、色情、および迷信伝播罪)も同様だ。


それ以外でも、32条(傀儡文化再現罪)は「傀儡式に話したり、傀儡式に文章を書いたり、傀儡唱法で歌を歌ったり、傀儡書体で印刷物を作った者は、労働鍛錬刑に処す。罪状の重い場合には、2年以下の労働教化刑に処す」と規定している。


ここ最近やり玉に挙げられているのが、韓国式の言葉遣いや歌い方などだが、最近制定された「平壌文化語保護法」は、この法をベースにして、処罰をさらに強化したものとみられる。


朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、法制定直後の2020年12月、「反社会主義思想文化の流入・流布行為を徹底的に防ぎ、われわれの思想、精神、文化を堅固に守って思想陣地、革命陣地、階級陣地をさらに強化する上で、すべての機関、企業所、団体と公民が必ず守らなければならない準則を定めた」と伝えるにとどまり、その具体的な内容は明らかにしなかった。他の法律が定められた場合においても、同国で一般的に見られる現象だ。


デイリーNKは2021年1月に北朝鮮が発行した反動思想文化排撃法の説明資料を入手し、法違反時の量刑などに関する具体的な内容を報道した。ただし、今回入手した反動思想文化排撃法の全文は、2021年に入手した説明資料と一部違いがあることが確認された。


2021年当時の説明資料には27条などの最高刑が「5年から15年までの労働教化刑」となっていたが、今回入手したものには「5年以上10年以下の労働教化刑」、「罪状が重い場合には10年以上の労働教化刑」と明記され、量刑が多少修正されている。


また、2021年に入手した説明資料27条には「南朝鮮の映画や録画物、編集物、書籍を流入、流布した場合には、程度に応じて無期労働教化刑または死刑に処し、集団的にそれを視聴、閲覧するように組織したり、助長した場合には死刑に処する」と書かれていたが、今回入手したものの27条には死刑に関する内容は含まれていなかった。北朝鮮が2022年8月に同法を改正し、一部条項を修正・補完したとみられるが、改正の背景は明らかにされていない。


未成年者が同法に違反して逮捕、収監される事例があまりにも多かったため、法適用が一部緩和されたが、これと関係する可能性も考えられる。

デイリーNKジャパン

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