「制裁ですべてが足りない」北朝鮮国内から悲鳴…食糧危機の懸念も
2019年5月13日(月)6時10分 デイリーNKジャパン
国連の世界食糧計画(WFP)と食糧農業機関(FAO)は3日に発表した報告書「北朝鮮の食糧安全保障評価」で、「長期間の日照りと異常高温、頻繁な洪水、農業生産に必要な要素の制限」などが原因となり、北朝鮮の昨年の農業に著しい影響が出たとしている。
また、異常気象に加えて、国際社会の厳しい制裁により農業資材まで輸入ができなくなっていることが、北朝鮮の農業に悪影響を与えたということだ。報告書によると、肥料として使われるリン酸塩と炭酸カルシウムの昨年の供給量は、過去5年間の平均と比べてそれぞれ7割、5割減少している。
様々な悪材料が重なり、今年の収穫はこの10年で最も少なくなり、国際社会の支援がなければ、1990年代後半に北朝鮮を襲った未曾有の食糧危機「苦難の行軍」が再び起きるのではないかという懸念が高まっている。
デイリーNKの取材によれば、北朝鮮の農村からは、窮状を訴える声が次々に上がっている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の中国との国境にほど近い地域に住む住民は、次のように窮状を訴える。
「土地に栄養がないので肥料を使わなければならないのに、制裁の対象になったから大変だ」
一時期、品薄となっていた稲の苗代を寒さから守るビニール膜は入荷するようになったが、今度は肥料が手に入らなくなったという。中国の税関が「肥料は化学物質で作ったものだ」と言って、北朝鮮への輸出を認めないのだ。つまり、制裁対象の品目ということだ。
情報筋は具体的な肥料の種類に言及していないが、肥料の中には爆薬への転用が可能なものも存在する。ちなみに北朝鮮当局は近年、国内での爆弾テロの発生を恐れて窒素肥料の製造を制限するようになっている。
一方、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が訴えるのは、人手不足だ。
農業機械や燃料が不足する北朝鮮で、田植えは都市住民を大量に動員し人海戦術で行われる。ところが、平原(ピョンウォン)、文徳(ムンドク)、肅川(スクチョン)などの穀倉地帯の協同農場では、今年は動員される人員が例年の半分にも満たないのではないかという懸念が広がっている。
農村支援に動員された人々は、食べ物を自分で準備していかなければならないことになっているが、その準備ができずに動員を避けようとする人が多いというのだ。
当局は、是が非でも都市住民を農村支援に引きずり出そうとしている。
平安南道の農村経理委員会の労働部は、各工場や企業所、学校が計画された農村支援労力を守ろうとしないため、非常対策委員会を作った。工場、企業所、学校に対して実態調査を行い、朝鮮労働党平安南道委員会が割り当てた数だけの人員を送り出せなければ、党や司法機関による処罰を行うという。
しかし、今年の北朝鮮は制裁による経済難に加え、様々な政治イベント、建設工事への動員が頻繁に行われ、国民の間に不満が渦巻いていると言われている。当局も強硬な姿勢で通すのは難しいかもしれない。
人手不足に加え道内の一部地域では、肥料不足で稲の苗が発育不良に陥る現象が起きている。
「5月に田植えをするには、3月からビニール膜をかぶせた苗床で苗を育てるが、ビニール膜が不足したため、寒さにやられてきちんと育っていない」「肥料と堆肥が不足していることも、重要な原因の一つ」(情報筋)
文徳の協同農場からは、昨年も農業資材の不足を訴える声が上がっていたが、今年は昨年以上にひどいようだ。