「まぶしい夜景がうらやましい」北朝鮮、中国に憧れる若者たちを警戒

2025年5月14日(水)9時29分 デイリーNKジャパン

「あの光に惑わされるな」


北朝鮮は現在、平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)市の郊外および隣接する義州(ウィジュ)郡において、2023年7月の水害で甚大な被害を受けた地域に大規模な温室農場を建設中だ。


この工事には、全国から動員された突撃隊(事実上半強制の建設ボランティア)が参加しているが、当局はその動向を強く懸念している。なぜそこまで警戒するのか。現地のデイリーNK内部情報筋がその内情を明らかにした。


朝鮮労働党中央宣伝扇動部は、「強者の自尊心を守り、われわれすべてが自らの力で国家復興の道を切り開こう」と題する講演資料を作成し、温室農場建設に参加する突撃隊の政治部に配布。この資料に基づいた講演会が先月下旬に現地で実施されたという。


資料には、「青年たちは絶対に他人の力を信じてはならない」「鴨緑江の向こうに見える華やかな中国の明かりや資本主義の風景に惑わされるな」などの言葉が並んでいた。情報筋によれば、これは「国境地帯で働く青年突撃隊員たちに対し、思想的な覚醒を促す意図」によるものである。



実際、温室農場の建設現場は、鴨緑江を挟んで中国と対峙する国境地帯に位置している。こうした環境下では、青年たちが日常的に中国側の明かりや様子を目にすることになるため、当局は思想の弛緩や資本主義への幻想を非常に警戒しているとみられる。


幹部らは、実際に一部の青年たちから以下のような声が上がっていると指摘している。


「中国の夜景は毎日見ても本当に美しい」
「夜間作業の時に中国を見渡すと、心まで明るくなり、つらさを感じない」
「中国は電気が余っていて、夜でも昼のように明るい。うらやましい限りだ」


こうした発言に対し、政治部の幹部は「これは『強者の自尊心』とはまったく相容れない態度である」と強く批判したという。


北朝鮮の国営メディアは、しばしば平壌の高層マンション群の夜景や繁華街のライトアップされた様子を誇らしげに報じているが、実態としてそれは全国の中でもごく一部に過ぎない。大多数の地域では、日が暮れれば街は闇に包まれる。これは深刻な電力難の影響によるものだ。


温室建設が進められている地域の対岸に位置するのは、中国・遼寧省の丹東市の郊外であり、「まばゆく光り輝く」都市ではないにせよ、家々には明かりが灯り、街灯も整然と点いている。


北朝鮮の地方から動員された若者たちにとっては、それでも十分に眩しく映るだろう。そこに憧れを抱くのも無理はなく、なかには抑えきれない好奇心から川を渡ろうとする者もいる。


講演資料にはさらに、「自らの技術で切り開く自力強国・自力繁栄の道こそが真の復興の道である」「他人をうらやむのではなく、わが力でわがものを創造すべきである」といった表現も盛り込まれていた。


情報筋は次のように述べている。


金正恩同志が強調されたように、革命の未来を担う青年たちが党の革命思想で武装する機会とすることが今回の講演の目的である」
「資本主義の幻想に惑わされず、24時間自分の力を信じ、無から有を創り出し、自分と集団、そして国家を愛し、国家の復興を誇りとせよという点が終始一貫して強調された」


特に、講演を主導した突撃隊政治部の幹部らは、「今回の温室農場建設事業は、単なる平安北道の経済建設ではなく、青年突撃隊員を未来の幹部候補および主力軍として育成する国家的重要事業である」とし、「建設の成果以上に、青年たちが思想的にいかに鍛えられるかが重要である」と繰り返し強調したという。


この講演はおよそ45分にわたって行われ、終了後には10人ずつのグループに分かれて討論が実施された。そこで青年たちは、自身の誤りや迷いを吐露し、再び決意を固めるよう促されたという。


情報筋は、「全国から集められた突撃隊員たちが、目の前の中国の華やかな光景に幻想を抱き、思想的に揺らぎ、脱北する恐れがあることを国家も把握している」としたうえで、
「そのような事態を事前に防ぐ盾(防波堤)として、この講演会が組織されたのである」と説明した。


とはいえ、今の若者世代は、こうしたお仕着せの思想教育を極端に嫌う世代でもある。いくら上から思想を語っても、馬耳東風で受け流す者は多いだろう。表面上は従順に振る舞っても、機会があれば鴨緑江の向こう側へ——その誘惑を抑えきれない青年たちが出てくる可能性は高い。

デイリーNKジャパン

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