韓国がG7サミットの正式メンバーに加わることは日本の国益にかなうのか

2023年5月18日(木)6時0分 JBpress

(宇山 卓栄:著作家)


「招待国枠」での韓国の参加は2回目

 5月19〜21日の日程で主要7カ国首脳会議(G7サミット)が広島市で開かれます。G7サミットには、メンバーの7カ国のほかに、「招待国枠」というものがあります。「招待国枠」にどの国を招待するかは、議長国の裁量によって決められます。

 今回のサミットは日本が議長国なので、日本が招待国を決めました。招待国はインド、インドネシア、オーストラリア、韓国、クック諸島、コモロ、ブラジル、ベトナムの8カ国です。

 韓国は、2021年6月に、英国のコーンウォールで開催されたG7サミットに、招待国として初参加しました。当時の文在寅大統領は「韓国の国際的地位はG7諸国と肩を並べるものとなった」と強調して、国内向けに喧伝していました。

 この時のサミットで、韓国政府は首脳の集合写真を加工して、公式SNSに掲載したことが話題になりました。端に立っていた南アフリカ首脳の姿をカットして、文在寅大統領が中央に近い立ち位置になるように写真を加工した上で、韓国政府は「この位置、この姿が大韓民国の地位だ。私たちはここまで来た」などと伝えていました。

 その韓国にとっては、今回が2回目の「招待国枠」参加になります。

 過去に、韓国をG7の正式メンバーに加えようとする提案がなされたことがあります。2020年のG7サミットはコロナ禍のためオンラインでの開催となりましたが、議長国だった米国のトランプ大統領が事前に、韓国、オーストラリア、インド、ロシアをメンバーに加える提案をしていました。この時、ドイツ、英国、カナダ、日本が反対しています。

 2021年のG7サミットでも、議長国英国のジョンソン首相が韓国、オーストラリア、インドをメンバーに加えることを提案しましたが、日本が反対しています。日本としては、竹島問題や歴史認識問題の対立で関係が冷え込んでいた韓国を正式メンバーに迎え入れ、協調して行くのは難しいことも理由の一つだったと考えられます。

 しかし、状況は大きく変わりました。


日本が認めれば韓国の正式メンバー入りも

 今や岸田首相は5月7日に訪韓し、「(日韓両国の)関係を強化し新しい時代を切り開きたい」などと述べるなど、韓国との協調に前向きです。日本が韓国を正式メンバーとして認めれば、韓国はG7に加わることになるでしょう。その可能性が高まっていると言えます。

 特に、英米は中国や北朝鮮の脅威に対抗するためにも、韓国との協調が欠かせないという立場で一貫しています。

 G7の加入には、明確な基準はありません。メンバーである7カ国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)の同意さえあれば、新たな国の加入が認められます。

 もともとG7は、米国が友好国を集めて、共産主義に対抗し、オイルショックの混乱を乗り切るために、連携しようとしたことがはじまりです。

 1973年のオイルショックについて協議するために、英国、米国、西ドイツ、フランスの財務大臣が集まりました。さらに、米国から、この4カ国に日本を加えるよう提案があり、受け入れられました。これが「原5カ国」、つまりG7の原形となった会議体です。

 1975年、フランスで、この5カ国で第1回目のサミットが開催されます。ところが、イタリアの首相アルド・モロは自国が外されたことに不満を抱き、第1回会議に乗り込んで来たので、5カ国は渋々、イタリアの加入を認めます。さらに、翌年、米国がカナダの加入を提案し、これが認められて「G7」となります。

 冷戦終結後、ロシアも加わり「G8」となりましたが、2014年のロシアのクリミア侵攻で、ロシアは除外され、再び、「G7」となります。


各国首脳を原爆資料館に案内

 このように、各国の加入(除外)の経緯を見ても、加入国の同意さえあれば、さらに言うと各国首脳の同意さえあれば、新たな国が今後、加入することは充分にあり得ます。

 岸田首相は19日に、G7各国の首脳を原爆資料館に案内するとともに、韓国をはじめとする招待国の首脳を、21日に案内する予定と伝えられています。

 さらに、岸田首相は韓国の尹錫悦大統領と、平和記念公園にある「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」にも立ち寄る予定と言われています。韓国の大統領が平和記念公園や原爆資料館を訪れるのは初めてです。


韓国王族も原爆の犠牲に

 李氏朝鮮王の高宗の兄の孫で、李公の公位を引き継いだ李鍝(イウ)という朝鮮王族がいました。李鍝は日本陸軍に所属し、中佐として広島に赴任しました。李鍝は1945年8月6日、司令部へ出勤する途中、被爆し、死去しました。李鍝だけではなく、多くの在日朝鮮人も原爆の犠牲になったのです。

 戦前、朝鮮王族と日本皇族や華族は縁戚関係を結びました。そして、同じ教育を受け、軍人として共に先の戦争を戦いました。

 2018年、韓国の人気音楽グループBTS防弾少年団)のメンバーが「原爆Tシャツ」を着用していたことで騒ぎになりました。しかし、韓国人にとっても、原爆投下は大きな悲劇をもたらしました。自分たちの国の王族が原爆で死んだことを知っていれば、原爆をファッションにするなどできるはずがありません。


日韓の間には未解決の問題が残ったまま

 3月に、尹政権は元徴用工訴訟問題で、日本企業の賠償支払いを韓国の財団が肩代わりするという「解決策」を提示しました。岸田首相はこれを受け入れ、徴用工問題解決に向けて、両国政府が合意した形になっています。

 しかし、実際には、肩代わりした後で日本企業へ支払いを求める権利(求償権)は放棄されていません。また、尹政権は、これを「解決策」と言っていますが、「日本人が韓国人を強制徴用し、不法行為を働いた」という主張自体は変えていません。

 この問題は実質的には何ら解決されていないのです。そのほかにも、竹島、韓国海軍による海上自衛隊機へのレーダー照射など、未解決の問題が山積みです。

 こういう問題が置き去りにされて、韓国がG7に加入することが日本の国益にかなうのか。慎重の上にも慎重を期して判断しなければならないと思います。

筆者:宇山 卓栄

JBpress

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