「近づく者は撃て」穀物盗難が相次ぎ緊張する北朝鮮の農場

2023年10月20日(金)6時11分 デイリーNKジャパン

北朝鮮では現在、コメやトウモロコシの収穫、脱穀作業が盛んに行われている。農場の周辺には、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の武装した兵士が警備に当たっている。たかが穀物なのになぜそこまでの厳戒態勢となるのか。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が説明する。


北朝鮮当局は、実弾を所持した兵士を今月初めから農場周辺で警備に当たらせると同時に、農民が夜間に農場に接近することを禁止した。「近づく者があれば撃て」ということだ。


農場の幹部といえども、夜間には一切近寄れない。これは、窃盗を防ぐためだ。今のところ、銃撃された人はいないようだ。



農場での窃盗はかなり深刻な状況だ。当局は、国営米屋こと「糧穀販売所」で販売するため、農場で収穫された穀物を強制的に買い上げる。この価格が安いため、農民は穀物を隠し持ち、より高く買ってくれる市場に販売する。


また、収穫に動員された都市部の住民が、そのついでに穀物を盗む事例も相次いでいる。さらには、夜間に農場を襲撃して収穫を奪っていく集団もいる。


道内の价川(ケチョン)では、収穫直前になされた調査で25トンに達すると見られたトウモロコシの収穫量が、実際には21万トンに満たなかったことが発覚するなど、予想と実際の収穫の量に大きな差が出る農場が相次ぎ、大問題になっている。


窃盗が相次ぐ原因は上述の買取価格の安さに加え、深刻な食糧難、物価の高騰、そして借金の問題もある。


農民は春先にトンジュ(金主、ニューリッチ)から借金をして肥料などを買い込み、秋の収穫の分配で返済するが、農民の手に渡るのは、実際の収穫の3割に満たない。これでは借金が返せないため、収穫物を盗み、高く売り払うというわけだ。


そればかりか、農場の警備に当たっている兵士たちも、盗みに加わっている。夜間に誰もいない間に、作物を盗むのだ。末端の兵士たちは、農場から供給される軍糧米に頼って生きているが、輸送過程での横流しが深刻で、兵舎に届く頃にその量はすっかり減ってしまっている。その穴埋めのため、周囲の農場を襲うこともしばしばあるが、農場の夜間警備となれば、作物を盗むのに絶好の機会だ。


農民たちは「軍人に銃を与えて農場を守らせているのに、彼らがコメを盗むのにちょうどいい条件を与えている」と不満を述べている。


北朝鮮の農業がこの体たらくなのは、集団農業と過度の収奪という、農民のやる気を削ぐシステムに問題の根本があるが、それだけにとどまらない。北朝鮮社会の様々な矛盾が複雑に絡み合い、一朝一夕で解決できるものではないのだ。

デイリーNKジャパン

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