富士フイルム「X-M5」レビュー 小型軽量ボディは好印象も、EVFはやはり欲しい

2025年1月8日(水)11時0分 マイナビニュース



廉価ながら高性能でつくりのよいモデルが相次いでディスコンとなり、ちょっと寂しい状況の続いていた富士フイルムXシリーズのミラーレス。ようやくその後継と述べてよいモデルが登場しました。その名も「X-M5」。Xシリーズの新しいセグメントとなるミラーレスです。ファインダーを省き、Vlogモードを搭載するなど、動画撮影をかなり意識したつくりとなっていますが、果たして静止画撮影に関して写真愛好家の期待に沿うカメラとなっているでしょうか。じっくりチェックしたいと思います。
Xシリーズの中でもコンパクトなボディは好印象
まず手に取って驚くのは、コンパクトで軽量なこと。ファインダーを搭載していないこともありますが、切り詰めたタイトなボディシェイプで、APS-Cフォーマットのミラーレスとしては小型軽量な部類に入ります。キットレンズで沈胴タイプの「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」や、パンケーキタイプの「XF23mmF2 R WR」などの組み合わせであれば、バッグの片隅など楽々入ってしまうほどで、持ち運びは苦になりません。
コンパクトなボディゆえ一層目立つのが、トップカバーにある2つのアナログダイヤル。シャッターボタン側にモードダイヤルを、反対側にフィルムシミュレーションダイヤルを配置します。なかでもフィルムシミュレーションダイヤルは、先に発売した「X-T50」で初搭載したもので、直感的そして速やかにミュレーションが設定できとても便利。本モデルのメインターゲットとするビギナーやライトユーザーでも、手軽にフィルムシミュレーションの多彩な仕上がりが楽しめそうです。搭載するシミュレーションは全部で20モード。そのうち「ACROS」と「モノクロ」はYe(イエロー)/R(レッド)/G(グリーン)のフィルターを付加したものも選択できます。
一方、モードダイヤルには前述のように動画撮影に軸足を置くカメラらしく、Vlogモードを搭載。細かな設定なしに動画撮影が楽しめますので、日々の出来事をインターネットで発信したい人だけでなく、記録して残しておきたい人にも便利に思えます。ちなみに液晶モニター(3インチ/104万ドット)は、自撮りを考慮したバリアングルタイプとなります。
撮影時のAFフレームの移動のほか、メニューの選択や決定などフォーカスレバーで行うのは「X-T50」や「X-E4」などと同様。ボディサイズが小さいので十字キーが置けなかったということもあるかと思いますが、おかげでカメラ背面部はスッキリ。従来からのXシリーズユーザーなら違和感なく操作でき、Xシリーズのカメラを使ったことのない新しいユーザーでも慣れるのに時間は要しないと思われます。
そのほか外観上の特徴として、シャッターボタンに他社のデジタル一眼レフ、ミラーレスでは見かける機会の少ないケーブルレリーズ用のメスネジが切られていることも挙げられます。先ほど動画撮影に軸足を置くと述べましたが、これは静止画撮影を意識したつくりであるとともに、往年の写真愛好家にとっては懐かしく感じられるものです。しかもケーブルレリーズは、電気的な信号でシャッターを切るリモートレリーズにくらべ廉価なのも嬉しい部分。三脚にカメラをセットして撮影することの多いユーザーは、ケーブルレリーズをバッグのポケットなどに忍ばせておくことをおすすめします。

AF性能は上々も、EVFがないので激しく動く被写体は苦手
キーデバイスは、有効2610万画素 裏面照射型X-Trans CMOS 4センサーを採用。富士フイルム独自のカラーフィルター配列によりモアレ、偽色の発生を抑制できるため、ローパスフィルターレスとしており、高い解像感が得られます。X-Trans CMOSセンサーとしては、現在上位モデルは第5世代と言われるX-Trans CMOS 5センサーを採用していますが、それよりも一世代前のものとなります。ただし、その分性能的に熟れたセンサーと述べてよいものです。画像処理エンジンは動画機能の充実もあり、より高速の処理を行う最新のX-Processor 5を採用。省電力化にも貢献しています。なお、センサーシフト式の手ブレ補正機構は残念ながら搭載していません。
充実した被写体検出AFも忘れてはならないところです。人物/動物/鳥/クルマ/バイク/自転車/航空機/電車/昆虫/ドローンに対応。ディープラーニング技術により精度は高く、一度被写体を捕捉するとトラッキングを開始しファインダー内を追い続けます。明るい屋外など、被写体の状況やピントが合っているか否か液晶モニターでは見えづらく判断しづらいこともありますが、そのような時は被写体検出AFを積極的に活用するとよいでしょう。そうでなくても、X-M5の想定するユーザー層を考えたとき、被写体検出AFは心強い味方になってくれそうです。
アルゴリズムの進化による動体への追従性向上もトピックとなります。コンテニュアスAFによる動く被写体へのピント精度も信頼できるものです。ファインダーがないカメラですので、撮影に適した動体と言えば、比較的ゆっくりと動く被写体、あるいは鉄道のように動くルートが決まっておりカメラを固定して撮影できる被写体となります。作例撮影では、いずれの場合も正確にピントを合わせ続けてくれました。
なお、このカメラが苦手としているのが、激しく動きまわる被写体。これはAFの性能というよりは、ファインダーが搭載されていないことに起因するもので、サッカーのような動きが速くカメラで追うのが難しい被写体の撮影は厳しいことが多いと言えます。実際、撮影では正確にAFフレームを被写体に重ねることができず、ピントの甘い写真を撮ってしまうことが多々ありました。前述の被写体検出AFを使えばよい場合もありますが、例えば複数の人物が画面内にいる場合、条件によってピントを合わせたい人物でなく他の人物にピントを合わせてしまうことがありますので、使用する際はその旨留意しておく必要があるでしょう。
シャッター方式は、メカニカルシャッター(MS)、電子シャッター(ES)、電子先幕シャッター(EF)に加え、1/4000秒まではメカニカルシャッターでそれより高速側は電子シャッターとする「メカニカル+電子 (M・E)」、1/2000秒までは電子先幕シャッターでそれより高速側はメカニカルシャッターとする「電子先幕+メカニカル(EF・M)」も搭載しています。実はこの2つのシャッター方式、以前からXシリーズには採用されているもので、なかでもポートレートなど絞りを開いて撮るような条件では「メカニカル+電子」を設定しておけば、メカニカルシャッターと電子シャッターの切り替えがシームレスに行われるため、便利な機能と言えます。ちなみに、メカニカルシャッターおよび電子先幕シャッター選択時の最高速は1/4000秒、電子シャッターは1/32000秒となります。デフォルトのシャッター方式はメカニカルシャッターとなります。
同じく以前からXシリーズに搭載されている機能で、X-M5ユーザーは知っておきたい機能として「プリ撮影」があります。これは、シャッターボタンの半押し状態から全押しすると、その直前の画像も記録するもの。電子シャッター選択時に有効で、1.25倍のクロップでは最高30コマ、クロップなしでは最高20コマをさかのぼって記録できます。昆虫や鳥の飛び立つ一瞬、ミルククラウンができる瞬間など、シャッタータイミングを逃しやすい被写体の撮影に効果的な機能と言えます。なお、電子シャッターのローリングシャッター歪みは、被写体の動きの速さによっては若干目立つこともありますが、このクラスのカメラとしては悪くないように思えます。
撮影を楽しむ機能が充実している「X-M5」ですが、その最たるものがアドバンストフィルター機能と言えるでしょう。さまざまな効果が撮影時に付加でき、特徴的でユニークな仕上がりが得られます。この機能自体は古くからあるものですが、スマートフォンで撮影した画像をアプリを使い誰でも簡単にいじれるようになった今こそミラーレスでも見直されてもよさそうな機能です。搭載するフィルターは全部で8つ。トイカメラ/ミニチュア/ポップカラー/ハイキー/ローキー/ダイナミックトーン/ソフトフォーカス/パートカラー(レッド/オレンジ/イエロー/グリーン/ブルー/パープル)となります。なお「FUJIFILM XApp」アプリをインストールしたスマートフォンやタブレットであれば、X-M5からの画像の転送やカメラのリモート操作も可能になります。
動画機能についても少し触れておきます。最高画質は6.2K/30P、そのほか4K/60Pでの撮影に対応しています。また、スマートフォンでの閲覧やSNSなどへのアップを考慮した、9:16の縦構図のショート動画撮影モードも搭載しています。このカメラを使って動画撮影を楽しみたいと考える人に最も琴線に触れる部分かもしれません。TikTokをはじめ、今やSNSでは縦位置動画が一般的ですが、それに応えたものといえます。記録時間は15/30/60秒から選べます。また、撮影者の顔の前に被写体を置いたような場合、ピントが顔から手前の被写体に滑らかに切り替わる「商品撮影モード」や、人物の背景を自然な感じにボカす「背景ボケモード」、3段階でレベルの設定できる「美肌モード」など、動画撮影を楽しむのにあると便利な機能が充実しているのも本モデルならでは。動画愛好家の方々は積極的に活用してほしい機能です。
前述したように、静止画撮影で有効なセンサーシフト方式の手ブレ補正機構は残念ながら省略されていますが、動画用の電子式ブレ補正機能はしっかり搭載しています。別売のグリップ「TG-BT1」をカメラに装着して歩きながら撮影したり、ぐっと被写体に寄ったとき、あるいは望遠レンズを使用した撮影など、心強い味方となるはずです。冷却ファン「FAN-001」の装着が可能なのもX-M5の特徴のひとつ。長時間の撮影や夏場など高温環境での動画撮影で、イメージセンサーなどから発生する熱を抑えるアクセサリーです。電源はカメラ側から給電されますので、使用の際はバッテリーを多めに持ち歩くとよいと思われます。
X-M5は写真を手軽に、そして緩く楽しむには必要にして十分なカメラだと思われます。上位モデルと同等の機能を搭載し、そしてコンパクト。富士フィルムミラーレスの売りでもあるフィルムシミュレーションも思いついたときに素速く設定することが可能。被写体認識AFによってピントも大きく外れることはなく、とにかく撮影することが楽しいカメラに仕上がっています。価格も比較的手の出しやすいもので、今後人気を博しそうです。
願わくは、もう少し静止画撮影寄りのつくりで、電子ビューファインダーを搭載するモデル、つまりいつの間にかカタログから消えてしまった「X-E4」の後継モデルもメーカーには検討してほしく思えます。X-M5は実質X-E4の後継モデルだから名前の数字がシリーズ初号モデルでありながら“5”なんだよと言わずに、正真正銘の“X-E5”の登場を強くお願いしたいところ。本モデルを見るたびに、またシャッターを切るたびに、私個人はそう思わずにはいられませんでした。
著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら

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