核融合研など、惑星磁気圏で観測される「コーラス放射」の発生条件を究明

2024年2月19日(月)16時40分 マイナビニュース

核融合研究所(核融合研)と東京大学(東大)の両者は2月16日、「人工磁気圏」RT-1装置を使った実験により、リング電流が作り出す「ダイポール磁場」中のプラズマが、地球や木星などの惑星の磁気圏で一般的に観測される現象である「コーラス放射」を自発的に作り出すことを発見し、そして同放射が発生するために必要な条件を明らかにしたことを共同で発表した。
同成果は、東大大学院 新領域創成科学研究科/核融合研の齋藤晴彦准教授、同・西浦正樹客員准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)で観測されるホイッスラーモード・コーラス放射は、オーロラや宇宙天気とも関わる重要な波だ。同放射は、主にこれまで宇宙探査機による観測や理論・シミュレーションによって活発に研究されてきた。しかし惑星磁気圏は巨大なシステムであり、全体を理解することは容易ではなく、ましてそれを制御するなどは、少なくとも現在の人類の技術では不可能である。
そこで多くの研究者は、複雑で巨大な自然界の性質を単純化して抜き出すことで、人間の手で制御可能な環境を実験室に作り出し、さまざまな実験を行ってきた。コーラス放射の理解に関しても、観測や理論とは相補的な役割が実験には期待されているというが、実験室に磁気圏の環境を作り出すことは容易なことではない。そのため、ダイポール磁場中に同放射を作り出すことでその詳細を調べるという実験は、これまで実現できていなかったとする。そこで研究チームは今回、RT-1装置を用いて、ホイッスラーモード・コーラス放射の実験室研究の実現を試みたという。
RT-1は、重量110kgの超伝導コイルを磁気浮上させてその磁場によりプラズマを閉じ込めることで、惑星磁気圏型のダイポール磁場を実験室に作り出す“人工磁気圏”を作り出す装置。これは、コイルを支えるための支持構造の無い運転を実現し、地上にありながら惑星磁気圏に近い環境でプラズマを生成できることを特徴としている。今回の研究では、RT-1の真空容器に水素ガスを封入してマイクロ波を入射し、主に電子を加熱することで高性能の水素プラズマを生成したとする。
今回の実験では、さまざまな状態のプラズマを作った上で、磁場や電場の波がどのように発生するかが調べられた。その結果、プラズマ中に高いエネルギーを持つ高温電子が存在する時、プラズマが自発的にコーラス放射状のホイッスラー波を作り出すことが判明したという。
また、コーラス放射の発生とプラズマの密度および高温電子の状態に注目し、プラズマが作る同放射の波の強さと発生頻度を計測したとのこと。その結果、放射の発生はプラズマの圧力を担う高温電子の増大により駆動され、さらにプラズマ全体の密度を向上させることで、同放射の発生を抑制する効果があることが明らかにされた。つまり同放射は、シンプルなダイポール磁場と高温電子を持つプラズマが作り出す普遍的な現象であることが突き止められたのである。なお、同実験で明らかにされた出現条件や波の伝わり方などの性質は、ジオスペースで観測される同放射の理解に寄与する可能性があるとしている。
ジオスペースにおいては、太陽表面の爆発現象であるフレアが起こると磁気嵐が発生し、電磁場が大きく変動することで大量の高エネルギー粒子が作られることがわかっている。それによって人工衛星が故障したり、オゾン層が影響を受けたりするだけでなく、地上でも電力や通信網に障害が発生したりする場合があることも知られる。通信や放送、気性など、人工衛星によって多くのことが支えられている現代社会において、宇宙天気現象の理解は重要さを増しているものの、未解明の機構や現象が今もって多いのが現状だといい、今回の研究成果は、宇宙天気の諸現象の機構を解明する上で役立つことが期待されるとする。
また、エネルギー問題の解決を目指す核融合プラズマの分野では、波との相互作用による粒子の損失や構造形成は、中心的な研究課題の1つだ。自発励起される波動とプラズマの複雑な相互作用を正確に理解することは、核融合を実現するために必要不可欠だ。周波数の変化を伴う波動現象は核融合を目指す高温プラズマでも広く観測され、コーラス放射と共通した物理機構の存在が示されている。今回の研究によって得られた成果は、核融合プラズマと宇宙プラズマに共通する物理現象の理解に向けた一歩であり、研究チームは今後、両分野が協力を深めながら研究が進展することが期待されるとしている。

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