ダークパターン対策には法規制だけでは不十分 - ダークパターンに関するシンポジウム開催
2025年2月19日(水)6時0分 マイナビニュース
● 理事のカライスコス氏と関係省庁から参加の2氏による基調講演
デジタル政策フォーラムとダークパターン対策協会は2月14日、「ダークパターン問題とその対策 - デジタル空間における消費者の信頼(トラスト)獲得のために -」というテーマで、共催シンポジウムをオンライン開催した。
ダークパターン対策協会は、誠実なWebサイトを審査、認定するための制度「NDD(Non-Deceptive Design)認定制度」を運用する事業体として、2024年10月2日に設立された団体。NDD認定制度は2025年7月の運用開始を予定しており、現在は本認定を取得するために準拠すべき「ダークパターン対策ガイドラインver1.0」を公開している。
今回のシンポジウムは、ダークパターンの実態とその影響について、具体的な対策や今後の方向性について議論するために開催された。なお本シンポジウムの内容は、後日アーカイブ配信が行われる予定だ。
○理事のカライスコス氏と関係省庁から参加の2氏による基調講演
まず、ダークパターン対策協会 理事で龍谷大学 法学部 教授のカライスコス アントニオス氏が、「ダークパターン被害の現状とNDD認定制度について」と題し、ダークパターンの定義や具体例を紹介。ダークパターン対策協会がNDD認定制度を策定することで、消費者が安心してインターネットを使えるようにすることを目指していることを説明した。
続いて、消費者庁 新未来創造戦略本部次長 黒木理恵氏と総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 利用環境課長 大内康次氏による特別基調講演が行われた。
消費者庁の黒木氏は「消費者法制度のパラダイムシフトとデジタル時代の新たな信頼の構築について」と題し、消費者庁が行っている消費者法制度のパラダイムシフトの議論の中から、ダークパターンに関するトピックを紹介した。
「リアルの場では、百貨店への出店やテレビCMなど、色々なハードルをクリアしてきていることが個々の消費者の信頼に繋がっている面があります。これに対し、デジタル取引の特性として、そもそも時間や空間、資材等の物理的な障壁がほとんどありません。それに加えて、いわゆるダークパターンと言われるものが消費者の意思を歪めることがあります。そういう中で、消費者が頼れる、自分の判断をするときに助けになるといった新たな信頼をどうやって作っていくのかは喫緊の課題であり、重要な問題だと考えています」(黒木氏)
総務省の大内氏は「スマートフォン プライバシー セキュリティ イニシアティブとダークパターン対策」と題した講演を行った。総務省は、利用者情報に関するワーキンググループにおいて、「スマートフォン プライバシー セキュリティ イニシアティブ(SPSI)」の策定・見直しを行っている。直近の改訂では、データ保護の観点から分類している欧州データ保護会議(EDPB)によるガイドライン等も参照の上、「ダークパターン回避の対応」を具体例とともに明記している。
「ダークパターンを含めてSPSIを最新の状況にアップデートして関係者の皆さんにお示しをすることで、少しでも全体の対策の底上げにつながるといったことを期待しております。また、民間からダークパターンに関する取り組みや、その同意取得のあり方に関する様々な検討、議論が行われていることは我々としても大歓迎ですので、連携しながら対応を進めていきたいと考えております」(大内氏)
●国内でのダークパターン対策に関するパネルディスカッション
○国内でのダークパターン対策に関するパネルディスカッション
続いて、黒木氏/大内氏/カライスコス氏、そしてデジタル政策フォーラムフェロー 一般社団法人EC ネットワーク理事の沢田登志子氏により、「デジタル空間における消費者の信頼(トラスト)獲得のために」と題したパネルディスカッションが行われた。ファシリテーターは同協会 事務局長の石村卓也氏が務めた。
最初のトピックは、ダークパターンが生み出された背景や要因について。ダークパターン自体はデジタル化の前から存在しているが、沢田氏は「EC市場の競争激化も背景にある」と指摘した。
「ECはリアルに比べると参入が容易と言われています。消費者は価格を含めて様々な情報を簡単に比較することができるため、ECサイトは消費者が他のページに移動しないようにタイムセールやカウントダウンタイマーなどの工夫をします。消費者はそれが真実かどうかは問題にしませんが、必要以上に煽られた場合は次回以降利用しない可能性があります。つまり、マーケティング施策、手法としては諸刃の刃だと考えています」(沢田氏)
続いて、海外と日本における法規制の違いについて。カライスコス氏は、海外では包括的かつ分野横断的な規制が行われているとして、EUの不公正取引方法指令(UCPD)やデジタルサービス法(DSA)/アメリカの連邦取引委員会法(FTC)などを紹介した。一方、日本では特定商取引法/景品表示法/個人情報保護法など、個別の法律による局所的な規制に留まっていると説明した。
黒木氏は、包括的な規定のあり方や位置付けを議論する必要性があると述べる。
「デジタルの取引の分野で注目していかなければいけないという問題意識は、海外も日本も一緒だと思いますが、それを踏まえた上で、日本の状況に合わせてどういう規律を考え、組み合わせていけば有効に機能するのかということはちゃんと考えていかないといけないのであって、コピペすればいいということではないかなと思っています」(黒木氏)
大内氏は、電気通信事業法を例に挙げ、EUの動向を参考にしつつ日本独自の文脈で規制を導入してきた経緯を説明する。
「例えば電気通信事業法は、その裏側にある価値観として、憲法に書いてある通信の秘密や個人情報の表現の自由をある程度ふまえながら作った規制です。私見ですが、お互いに参照し合うことでひとつの効果を生み出すことも日本ならではのやり方なのではと考えています」(大内氏)
沢田氏は、日本では包括的な規制が難しい理由として「つけ込み型勧誘」(消費者の合理的判断ができない事情を不当に利用する行為)に関する包括的な規定を消費者契約法の改正に入れることがうまく行かなかった事例を挙げた。
「日本の事業者は行政に対して、細かいガイダンスを求める傾向があります。裁判規範であっても、何がOKで何がNGかということを求めます。ダークパターンに関しても、同様のことが想像できます。実は、個別法で海外のダークパターンはカバーされているようにも思っています。包括的な一般規定を置いた上で、実際にどうだったら執行するかしないかという基準として、民間の自主規制ルール、ガイドラインのようなものをフル活用するという組み合わせが一番良いのではと個人的には思っています」(沢田氏)
続いて、ダークパターン問題における課題として、石村氏は「日本においてまだ包括的な法規制がない」「世の中のすべてのダークパターンを取り締まり、悪質な事業者を完全に排除することはできない」「ダークパターンとそうではないものの線引きの難しさ」の3つを挙げ、見解を尋ねた。
カライスコス氏は、「少なくとも当面の間は包括的な法規制が実現するのは難しい」と述べ、「日本流のあり方としては、既存の法制度の中で民間での取り組みが加わること。つまり、NDD認定制度が必要」だと解決策を提示した。NDD認定制度の運用が将来的に法整備へと結びつくとの考えだ。
カライスコス氏は「ガイドラインはどんどんバージョンアップしていくことを想定していまして、関係省庁の皆様にフィードバックをしながら、必要な部分については法整備がされていくことを期待しております。」と述べた。
沢田氏は、「認定を受ける事業者がメリットを感じなければ普及しない。特に良いお取り組みをされてるところにはゴールド認定を出すとか、検索で有利になるとか、そういうインセンティブをつけられる制度設計が必要」との考えを示した。
また、悪質な事業者の排除について沢田氏は、「悪質な事業者は、信頼性があるかどうかを気にしない消費者を狙ってきます。NDD認定ロゴマークを気にするような消費者は引っかからずに済むかもしれませんが、気にしないタイプは引き続き引っかかってしまいます。であれば、悪質な事業者を排除するためには、民間の努力云々ではなく法執行しかないと考えています」との考えを述べ、日本の個別法でカバーできるダークパターンもあるので執行できるのではないかと話した。
「全てを取り締まることはできないなどと諦めず、警察とも連携していただいて、消費者庁、総務省にはぜひとも悪質な事業者の排除を全力で行っていただきたいと思います。加えて、プラットフォームとの連携も必須になってくるかと思います。で、消費者に関しては、ダークパターンかどうかを見分けるというよりは、詐欺かどうかを見分ける方が先決ではないかなと思っております」(沢田氏)
消費者のリテラシー向上については、黒木氏が意見を述べる。
「消費者教育はもちろん大事です。ただ、ダークパターンに関してはここからが詐欺で法律違反だということが、すべてにおいてわかるわけではありません。『これがダークパターンと言われるようなものだ』と一人ひとりが認識する取り組みも重要かと思います。やはり認定制度のようなものがあって、それにより安心するといったことからお伝えをしていくことが効果的な方法ではないかと思っています」(黒木氏)
なお、ダークパターン対策協会は消費者向けのコンテンツをWebサイトに掲載している。今後も、消費者団体/事業者/教育現場向けに啓発資料やコンテンツを提供し、NDD認定マークの普及活動というのも注力していく予定があるそうだ。
本パネルディスカッションでは、ダークパターン対策には法規制だけでなく、民間の自主規制や啓発活動、消費者教育、官民の連携などが重要であるとの認識が示された。
ダークパターン対策協会は「ダークパターン対策ガイドラインver1.0」について、2025年3月5日まで意見公募を行っている。また、ガイドラインと認定制度についてのオンライン説明会を月2回開催することを発表している。
著者 : 鈴木朋子 すずきともこ ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー。スマホやSNSなど、身近なITサービス全般に関する記事を執筆。なかでもSNSに関しては、コンシューマーからビジネスまで広く取材を行い、最新トレンドを知るジャーナリストとして定評がある。また、安全なIT活用をサポートするスマホ安全アドバイザーとして記事執筆や講演も行う。著書は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)、『インターネットサバイバル 全3巻』(日本図書センター)など。 この著者の記事一覧はこちら