窓辺の小石 第154回 副操縦士は宇宙士官候補生

2024年2月23日(金)23時33分 マイナビニュース

Windows用のキーボードに「Copilotキー」が入るらしい。マイクロソフトによれば30年ぶりに新しいキーが追加されることになるという。30年前のキー追加とは、1994年にMicrosoft Natural Keyboardに搭載され、「Hardware Design Guide for Windows 95」(PC-95と呼ばれる)で定義された「Windowsロゴキー」(Winキー)と、「Windowsアプリケーションキー」(Appsキー)のことを指す。
Winキーは単独で押すとスタートメニューを表示するが、CtrlやAlt、Shiftキーと同じく「修飾キー」(Modifier Key)であり、非修飾キー(ファイナルキーと呼ばれる)と組み合わせることでさまざまな機能を実現できる。30年前にWinキーが導入されたことで、標準的なWindowsマシン用のキーボードは、多数のキー組み合わせを持てるようになり、多くの機能をキーボードから実行できるようになった。Windowsの多くのキーボードショートカットがWinキーに割り当てられ、ユーザーやアプリが使うCtrl、Altキーを使うキーボードショートカットをWindowsが使ってしまこともなくなった。30年前のWinキーの追加には大きな意味があったわけだ。
修飾キーは最低でもファイナルキーとの同時押しがあり、さらに修飾キーを同時に使うこともできる。このとき、片手でファイナルキーを押し、もう一方の手で修飾キーを押す。修飾キーとはこうした押し方をするため、原則左右に配置されていることが好ましい。多数の修飾キーを持っていた1978年のスペースカデットキーボードでも、修飾キーはフルキー部の左右両端の下段にまとめている。PC-95でも左右のWinキーに異なるスキャンコードが割り当ててあり、CtrlキーやAltキーのように左右独立したキーとして最下段に配置される(写真01)。
日本語対応のキーボードでは、スペースキーの回りは混み合っている。スペースキーの右側には「変換」、「カタカナ/ひらがな」キーが置かれる。なので、右側にCtrlキー、Altキーがある日本語キーボードはあるが、両側にWinキーのあるキーボードは少数派である。あったとしても、Fnキーを併用する場合が多い。Fnキーを併用してCtrlキーやAltキーにWinキーを割り当てられると修飾キーとしては、ほとんど使い物にならない。
Winキーを修飾キーとするWindowsのキーボードショートカットは、Windows 8で多数定義されたが、Windows 10、Windows 11で割り当て直しが行われた。Windows 8.xから10はデスクトップ環境が大きく代わったために仕方がない部分があるが、Windows 10とWindows 11では、大半は同じものの、Win+Cのように「コルタナ音声入力」(Windows 10)、「Teamsチャット」(Windows 11 Ver.21H2)、「Copilot起動」(Windows 11 Ver.23H2)と割り当てが迷走するものもある。Win+CをCopilot起動に割り当てた上、さらにCopilot起動専用のキーが作られた。
そのCopilotキーだが、写真などを見るとキーボードの最下段右側に配置されている。どこに置かれるのかはメーカー次第だというが前述のように日本語キーボードでは最下段はすし詰め状態である。
スキャンコードなどの詳細は発表されていないが、少なくとも2024年1月に発行されたUSB-IF(USB Implementers Forum)の「HID Usage Table for Universal Serial Bus Ver.1.5」には、キー(Keyboard/Keypad PageのUsage ID)の追加はない。今後、追加される可能性もあるが、これから標準化では遅すぎるような気もする。
USBキーボードは、HIDのKeyboard Deviceだけでなく、Consumer Deviceとしても動作するものが多い。キーボードのメディア再生機能などは、論理的にはキーではなくConsumer Deviceのボタンである。
Consumer Deviceには「AC Search」というUsage IDを持つボタンがあり、キーボードから送出するとタスクバーの検索アイコンが開く。Copilotボタンの発表Blog記事には、「(Copilotが)有効になっていない場合に、Copilotキーを押すとWindows Searchが起動されます」とあり、もしかしたら、AC Searchボタンを使い、USB仕様の変更を行わずにWindows側だけで実装しているのかもしれない。
「キーボードにおよそ30年ぶりに大きな変更が加えられた」というのであれば、Winキーと同じくUSBの新しいキー(Usage ID)として定義してほしかったところ。もし、CopilotキーがAC Searchボタンなら、単にキートップのデザインを決めただけでしかない。
USBキーボードの修飾キーは仕様上、通常キーとは別扱いされていて、ユーザーレベルでの修飾キーの追加は困難である。CopilotキーをWinキーのように修飾キーとしても使える新規キーとして追加してくれたなら、衝突しがちなホットキーの割り当てがラクになり、Space Cadetキーボードに近づくこともできた。そういうわけで副操縦士(Copilot)は宇宙士官候補生に落第したようである。
今回のタイトルネタは、Space Cadetキーボードからロバート・A・ハイラインの「SPACE CADET」(邦題、栄光のスペースアカデミー。1987年)である。ちなみにSpace Cadetキーボードはこの小説とは直接の関係はない。タイトルが直訳でないのは、先に創元推理文庫で「宇宙士官候補生」(1984年。ゴードン・R・ディクスン。原題HOME FROM THE SHORE)が出版されていたから。邦題にちなんで「栄光のスペースキー」という案もあったのだが、対象がWinキーやCopilotキーなのでやめることにした。

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