NIMSとJST、熱電材料と磁性材料の積層で“横型”熱電効果を従来の倍に

2024年3月8日(金)21時23分 マイナビニュース

物質・材料研究機構(NIMS)と科学技術振興機構(JST)の両者は3月7日、熱電材料と磁性材料を積層したシンプルな構造を用いることで、熱流と直交方向に電界を生む“横型”熱電効果を増大できることを実証したと共同で発表した。
同成果は、NIMS 若手国際研究センターの周偉男ICYSリサーチフェロー、NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター 磁気機能デバイスグループの桜庭裕弥グループリーダー、同・センター スピンエネルギーグループの内田健一上席グループリーダー、同・センター ナノ組織解析グループの佐々木泰祐グループリーダーらの共同研究チームによるもの。研究は、JST 戦略的創造研究推進事業ERATO「内田磁性熱動体プロジェクト」の一環として行われた。詳細は、多様の分野の基礎から応用までを扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「Advanced Science」に掲載された。
材料に温度勾配が生じた時、温度勾配と平行な方向に電界が生じる“縦型”熱電現象である「ゼーベック効果」を利用した熱電発電技術は、モジュールの低コスト化が難しく、大面積化も困難なために広い熱源を活用できず、また耐久性やフレキシビリティを上げにくいといった課題を抱えている。
その問題を解決し得る手段の1つが、磁性材料において生じる「異常ネルンスト効果」などの横型熱電効果。同効果による電界は温度勾配と垂直な方向に現れるため、熱源の表面に沿う材料を直列接続する極めて単純な構造で出力電圧・電力の増強が可能だという。しかし、これまでのところ異常ネルンスト効果の熱電能の大きさは10μV/Kにも満たず、熱電材料のゼーベック効果の熱電能と比べてまだ小さいことが課題だったとのこと。
その解決のため、研究チームが2021年に考案したのが、磁性材料と熱電材料を組み合わせるという新しいアプローチで、「ゼーベック駆動横型磁気熱電効果」(STTG)という新原理により、最大82μV/Kという巨大な横熱電能を報告。これは、異常ネルンスト効果による横熱電能より約1桁大きな値であると同時に、ゼーベック効果による縦熱電能に匹敵する性能だとする。
STTGは磁性材料と熱電材料の間に電気的な絶縁体を挟んだ上で、両端部のみを電気的に接合して閉回路構造を構築することにより、熱電材料の大きなゼーベック効果を駆動力としたキャリアが、磁性材料中でその異常ホール効果によって横熱電能に変換するという仕組みだ。しかし、その複雑な閉回路構造を、実用的な熱電発電モジュールや熱流センサに応用することは困難なため、実用に向いたシンプルな構造で熱電能を高める必要があった。そこで研究チームは今回、磁性材料と熱電材料とを絶縁体を介さず直接接触させた極めてシンプルな二層構造でも、STTGによって横熱電能を飛躍的に増大させることが可能であることを実験的に実証することにしたという。
磁性材料の異常ネルンスト効果による横熱電能の一部は、材料自体のゼーベック電界が磁性材料の磁化に由来する「異常ホール効果」によって横方向へ変換されることから生じる。一般的に磁性金属材料のゼーベック効果は小さい。そのため、大きな同効果を持つ熱電材料を磁性材料に電気的に積層すれば、二層構造の複合材料における同効果が、磁性材料単体よりも増大することが予想されたとする。
それに対し、熱電材料自身は磁化に由来した横熱電能を示さないため、複合化によって横熱電能を小さくしてしまう逆の効果も生じさせる。そのせめぎ合いの中で横熱電能を増幅させるには、熱電材料と磁性材料の各物性値を考慮した理論モデル上で横熱電能を算出し、最適な膜厚比率に基づいた設計を行う必要があるとする。
今回の研究では、この理論モデルでのシミュレーションにより、二層構造の横熱電能がある厚さの比でピークを取り、磁性材料単体よりも遥かに大きい横熱電能を実現できることが予測された。それを実験的に検証するため、ゼーベック係数の大きなn型シリコン(厚さ20μm)を熱電材料として、その直上に大きな異常ホール効果を示すことで知られる磁性材料鉄・ガリウム(Fe-Ga)合金の薄膜が、厚さ20〜500nmという異なる膜厚で成膜された二層構造が作られた。
試料の観察の結果、設計通りの膜厚と平坦性の高さが確認されたという。試料の横熱電能が系統的に評価されたところ、予測した膜厚に対する傾向がよく再現され、最適な厚さの比を持つ試料においては、15.2μV/Kもの横熱電能が観測された。これはFe-Ga合金薄膜単体の異常ネルンスト効果の横熱電能(2.4μV/K)の6倍となる大きな値。また、現在までに報告されている中で、室温における最大の異常ネルンスト効果を記録したワイル半金属「Co2MnGa」(8μV/K)と比べてもおよそ2倍だったとする。
研究チームは今後、さまざまな材料を用いさらなる性能向上を目指すともに実応用に向けた研究を加速していくとしている。

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