明大などが軟骨魚類の苦味受容体を発見 - 脊椎動物の苦味感覚の起源とは?

2024年4月11日(木)6時45分 マイナビニュース

明治大学(明大)と国立遺伝学研究所(遺伝研)は4月9日、これまで苦味を検知する受容体を持たないと考えられていた「軟骨魚類」のサメやエイが苦味受容体遺伝子を持つことを発見し、脊椎動物の苦味受容体の進化的起源が従来説よりも古く、「有顎類」(脊椎動物の下位分類群の1つで、上顎と下顎からなるアゴを持つことを特徴とする)の共通の祖先まで遡れることを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、明大 研究・知財戦略機構の糸井川壮大研究員(日本学術振興会特別研究員PD)、同・大学 農学部 農芸化学科 食品機能化学研究室の戸田安香特任講師、同・石丸喜朗教授、遺伝研 分子生命史研究室の工樂樹洋教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ヒトを含めた生物に関する全般を扱う学術誌「Current Biology」に掲載された。
味覚には甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5種類があることはよく知られている。このうち、甘味やうま味などは、身体に必要な成分を摂取しやすくするための嗜好性の味覚だが、苦味はその逆で、主に有害物質を摂取してしまう危険性を回避するための忌避性の味覚である(現代では苦味があっても毒物では無いことがわかっているものも多く、そうした飲食物を好きな人も多い)。
脊椎動物では、苦味は膜タンパク質の「Gタンパク質共役型受容体」(GPCR)の一種である「T2R」によって検知される。脊椎動物は、T2Rを含めて6種類の「GPCR型化学感覚受容体」を持っており、その内訳は、2種類の味覚受容体(T1RとT2R)と4種類の嗅覚受容体(OR、TAAR、V1R、V2R)。
これらの受容体のうち、T2Rを除く5種類の受容体は有顎類に広く見られるが、T2Rだけはこれまで硬骨脊椎動物でのみ確認されていた。そのため、T2Rの起源はほかの化学感覚受容体よりも遅く、硬骨脊椎動物の共通祖先にあると考えられてきた。
しかし脊椎動物の進化過程で、「条鰭(じょうき)類」(硬骨脊椎動物の下位分類群の1つで、ハイギョとシーラカンスを除く全硬骨魚類を含む)よりも早期に分岐した軟骨魚類や円口類に本当にT2Rが存在しないのかは、これまでゲノム情報の集積が不十分だったため、十分な調査がなされていない状況だったという。そこで研究チームは今回、近年の充実した軟骨魚類・円口類のゲノム情報からT2Rを作る遺伝子である「TAS2R」を網羅的に探索することにしたとする。
探索の結果、ゲノム配列に対する相同性検索を繰り返し行うことによって、これまでTAS2Rを持たないと考えられていた軟骨魚類にも、同遺伝子が存在することが発見された。今回発見されたTAS2Rは、軟骨魚類に固有の遺伝子であり、TAS2Rの進化の中でも初期に誕生したものであることが示唆されたという。また、条鰭類や四肢動物が一般的に複数のTAS2R遺伝子を持つのに対して、軟骨魚類はどの種も最大で1つしかTAS2Rを持たないことも明らかにされた。
次に、培養細胞を用いて、軟骨魚類T2R受容体がどのような化学物質を受容するのかが調べられた。すると、サメとエイのどちらのT2Rも数種類の苦味物質によって活性化されることが判明。また、イヌザメとアカエイではTAS2Rが口腔に分布する味蕾に発現していることも確かめられた。これらのことから、サメやエイでも硬骨脊椎動物と同様にT2Rが口腔での有害物質の検知に用いられていることが考えられるとする。
今回の発見により、T2Rが従来考えられていたよりも進化的に早期に分岐した「有顎類の共通祖先」で出現したことが解明された。同じGPCR型味覚受容体である甘味・うま味受容体T1Rも有顎類の共通祖先で生じたことから、顎の獲得と咀嚼行動の進化という脊椎動物の摂食行動に関わる重要な進化イベントと連動して、嗜好性・忌避性双方の味覚受容体の多様化が起こったと考えられるという。研究チームは、今後もさまざまな脊椎動物を対象に研究を進め、味覚の多様性と進化の仕組みを明らかにしていきたいと考えているとした。

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