都立大、安全を意識しすぎる障害物回避が柔軟性を低下させる可能性を確認

2024年4月22日(月)17時19分 マイナビニュース

東京都立大学(都立大)は4月19日、段差をまたぐ行動の柔軟性を、同じ動作を複数回実行した際に見られる関節間の連動性として定量的に評価する「Uncontrolled manifold(UCM)解析」を用いて、健常若齢者21名と65歳以上の健常高齢者26名を対象とし実験した結果、関節間の連動性と段差をまたぐ際の足の高さの間には、負の相関があることを発見したことを発表した。
同成果は、都立大大学院 人間健康科学研究科の樋口貴広教授、同・須田祐貴大学院生(日本学術振興会特別研究員(DC2))、同・中村高仁大学院生、同・坂崎純太郎大学院生、同・大学 大学教育センターの児玉謙太郎准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、スポーツ、身体活動、アクティブな生活などに関する全般を扱う学術誌「Front. Sports Act. Living」に掲載された。
人類は四足歩行の動物から進化し、前足を腕としたため、四足歩行に比べて転倒リスクの高い二足歩行を行うようになった。そのため、加齢によって足腰の筋肉が衰えてくるようになると、ちょっとした路面の凹凸などにもつまずいて転倒してしまう危険性が高くなり、またぐほどの段差にもなるとさらに転倒を注意する必要が出てくる。
一部の高齢者は、段差との衝突リスクを最小限に減らすために、段差をまたぐ際に足を必要以上に高く上げる行動(保守的な方略)をとることが知られている。確かに、こうした方略は衝突回避には有益だが、高い段差でも低い段差でも同じように足を高く上げることで回避できてしまうため、日常生活場面で動きを調整する機会がなくなってしまうという。
研究チームでは、そのような行動を継続していくことが、加齢に伴って柔軟に動きを変化させる能力が低下する一因になるのではないかと考えているとする。そこで今回の研究では、実験として健常な若齢者と高齢者を対象に、高さ8cmの段差を繰り返しまたいでもらい、全身の関節角度と地面とつま先の高さを測定し、この測定した関節角度にUCM解析を適用し、動きの柔軟性を関節間の連動性として定量化することにしたという。
今回の実験では、歩行スピードやまたぎ方は、特に意識することなく自然な振る舞いとされた。そして、参加者に反射マーカーが取り付けられ、三次元動作解析装置を用いてまたぐ際の全身の関節角度と地面とつま先の高さを測定。この測定された関節角度に対してUCM解析が適用され、動きの柔軟性を関節間の連動性として定量化が行われた。
UCM解析は、複数回の試行から得られる関節角度の分散を、動作の目的となるつま先の高さに影響を与える分散(VORT)と、影響与えない分散(VUCM)の2つに分解する。つまり、VUCMが大きい=さまざまなパターンの動きを柔軟に活用していると捉えることができ、VORTが大きい=動作の正確性が低いと捉えられるという。実際には、これら2つの分散から「シナジーインデックス(ΔV)」が算出され、評価が行われた。なおシナジーインデックスとは、UCM解析から得られる関節間の連動性を示す値のことを指す。
シナジーインデックスが段差またぎ動作時に算出されたところ、高齢者は若齢者と比較して低下していることが判明。この結果から、高齢者は段差またぎ時に動きの柔軟性が低下していることが示唆された。さらに、年齢に関わらず、段差をまたぐ際の下肢の挙上高とシナジーインデックスが負の相関関係にあることも明らかにされた。この結果は、安全を意識した保守的な方略を採る人ほど、動きの柔軟性が低下していることが示されたとする。
足を高く上げることは、一見すると段差との衝突リスクを低下させる適応的な方略とも考えられるが、こうした方略を採るにも関わらず、段差またぎ場面でつまずくケースや転倒するケースが少なくない。今回の研究成果により、この矛盾の背景として、安全性を意識しすぎることが、動きの柔軟性の低さにつながっている可能性が示唆された。安全な段差またぎ動作は、いつも同じ動きでは実現できない。常に不意の変化に対応できる姿勢を取る必要があるという。なお、日常的に同じ動きを繰り返すことは、結果的に柔軟性を低下させる一因となる可能性もあるとしている。また今回の研究成果は、柔軟性低下から脱却するリハビリテーション方法の開発につながることも期待されるとしている。

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