中小でもできる!ITブランディング 第25回 ネットとリアルのブランディングで統一感を演出、顧客の信頼向上へ~中央化工機の古市部長

2024年5月16日(木)13時0分 マイナビニュース

自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や物価の上昇などが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。この連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。
第25回は、振動ミルや振動乾燥機などを手掛ける中央化工機(愛知県 豊明市)を取り上げる。同社は色使いなどを通じて、インターネットとリアルで統一感を演出したブランディングを実施。顧客からの信頼を高めている。社員が自社の強みを顧客にアピールできるよう、社内向けの「インナーブランディング」にも力を入れる。古市信成セールスエンジニアリング部長は「先端素材を取り扱う当社にとって、ブランディングを通じて取引先や潜在顧客の信頼を得るのは重要だ」と話す。聞き手はZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。
中央化工機 セールスエンジニアリング部 部長 古市信成氏
2005年に中央化工機株式会社に入社。セールスエンジニアリング部東京SE課に配属。電機、電子部品、医薬品、食品会社への営業に従事。2024年にセールスエンジニアリング部の部長に就任。
○ポイント
①ブランディングは顧客や潜在顧客からの信頼を得る有力な手段
②インナーブランディングを重視して自社の強みを発信、リピート客増につなげる
③ブランディングは経営者が主導しなければ進まない
④HPとユニフォームの色使いなど自社ブランドに統一感をもたせ、顧客の信頼感高める
本村:御社は振動ミルなどの製造・販売を手掛けています。概要を教えてください。
古市:当社は工業用アルコールなどを蒸留する化学プラントの蒸留装置のほか、振動ミル(粉砕機)、振動乾燥機などの製造と販売を手掛けています。1950年に創業し、現在は100人ほどの従業員がいます。主力の振動ミルや振動乾燥機は振動の技術を使って、金属やセラミック、薬品などを粉砕したり、乾燥させたりする機械です。
振動ミルは粉砕容器の中にボールなどの粉砕媒体を入れ,ミルに振動を加えて金属や薬品などを粉にする機械です。短時間で微粉砕ができる上、中粉砕から微粉砕まで幅の広い粉砕ができるのが特徴です。
水分を含んだ金属は、振動乾燥機で乾かします。金属の粉などに熱を加えて乾燥させる場合、その間に粉が固まってしまうことが多くあります。このため、粉に振動を加えてほぐしながら乾かすわけです。また、原料を撹拌(かくはん)羽根で乾燥させると、粉と攪拌羽根がこすれて異物が入りやすくなります。振動だけで乾燥させると、こうした異物が混入しづらいという利点があります。
本村:振動させることで質の高い製品ができるわけですね。御社の強みを教えてください。
古市:当社の強みの一つは、市場占有率の高さです。例えば振動ミルと振動乾燥機の国内生産では、80%以上のシェアがあります。販売先は電子部品、製薬、食品などで、商社などを介さずに直接販売できます。また、自社工場で製造している振動乾燥機などは溶接などの構造が強固で、自らの振動に耐え得る頑丈な構造になっています。迅速に部品を交換できることも特徴です。
本村:専門的な機械を取り扱っている御社にとって、企業ブランディングはどのような意義があるのでしょうか。
古市:一般の方が当社の商品を見る機会はほとんどありません。当社が製造する振動ミルや振動乾燥機などは、セキュリティの高い医薬品や半導体の工場のクリーンルームなどにあり、許可を得て入らなければ見られないからです。
ブランディングは社内外の方々に当社のことを知ってもらい、信頼感を高めるものです。当社の場合は一般の方々の認知度が低いことに加えて、社内の従業員も自社の強みを十分に理解できていません。ブランディングはこうした状況を改善できる可能性を秘めています。
本村:一般の方の認知度が低いのは、B to B企業にはよくあることかもしれません。御社の場合、商品のことを知ってもらいたい潜在顧客にも認知度が低いということなのでしょうか。
古市:事業分野が専門的であるため、メディアから取材してもらうチャンスは多くありません。そのため、潜在顧客の認知度も低いと思います。先端技術に関わっており、顧客の社内でも情報共有が少ないのが現状です。大学教授らとも積極的に情報交換をしてきませんでしたから、大学の研究室や学生にもあまり知られていません。
本村:御社ばかりでなく、中小やB to B企業のブランディングは難しいと言われます。
古市:中小企業は大企業に比べると、資金も人材も不足しています。当社も最初は「ブランディングは大企業がやるべきもので、中小には必要ない」などと思っていました。こうした考えを持つ中小企業は多く、ブランディングに悪影響を及ぼしていると思います。
当社の場合は、そのような考え方を変えるきっかけがありました。ホームページを刷新する際、依頼した会社の担当者に「御社のカラーは何色ですか」と聞かれ、答えられなかったのです。変わらなければならないと思いました。
しかし、いざブランディングをやろうと思っても、どうしたらよいか分かりません。社内にはブランディングに詳しい人材がいませんでした。そこで外部の講師に依頼し、役職者向けに5回講義をしてもらいました。そのときに、ブラディングは企業の規模を問わず必要であること、レストランなどは規模が小さくともブランディングに力を入れていることなどを学びました。
本村:具体的にはどんな話を聞いたのですか。また、講義を受けた後、御社ではどのようなことをしていますか。
古市:従業員に企業理念や強みなどの理解を深める、「インナーブランディング」の進め方について5回ほど話を聞きました。当時はインナーブランディングという言葉も知りませんでした。
現在は、社内を8つのグループに分けて、中央化工機の商品の良いところは何かなどについてそれぞれの考えを発言してもらう会を、毎月1回、1時間半ほど開催しています。
本村:ブランディングというと、通常は社外向けに実施する場合が多いように思います。一方で御社は、社内への浸透や社員の理解促進など、社内からしっかり発信していくことに重きを置いているように見えます。
古市:当社の場合、専門的かつ先端技術に関連した商品を扱っていますので、社内で自社の強みや商品について理解を深めればリピート客が増えると考えています。反対に、社員が商品の良さを説明できなかったり、良いモノを作れなかったりすれば、顧客からの信頼を失いかねません。
本村:社内が整っていないうちに、外向けだけのブランディングを強化すれば、バランスが崩れることもあるかもしれませんね。社内理解と社外理解の両方をやっていくことが大事だと思います。御社のブランディングでの成功例を教えて下さい。
古市:当社の場合、ITやインターネットとリアルの両方で統一感をもってブランディングを実施していることが相乗効果を生んでいます。ホームページはデザイン会社に頼んで、コーポレートカラーの赤と青、白を基調としたシンプルな色使いにしました。若い女性社員が製造現場で働いているインタビューも写真付きで掲載しました。
リアルでは、ブランディングのために会社のロゴやユニフォームを赤と青をモチーフにしたものに変え、統一感を持たせました。昨年は社屋を新たに建設したほか、工場も改装しました。
私たちは半導体やスマートフォンなどに使う先端素材を加工する機械を作っています。お客様が来られた際に整理整頓された新しいオフィスや工場を見てもらうことは、大きなメリットになります。経営陣からはこうした会社の姿勢を従業員に伝えていきます。自社の価値やブランドが高まれば、社員も誇りを持って仕事ができます。
このような取り組みの結果、何人ものお客様から「こうした会社なら良い製品をつくってもらえる」「会社として信頼感がある」といった言葉をいただきました。採用面でもプラスの影響がありました。ホームページの女性社員のインタビュー記事などを読んで、機械加工の製造現場に女性社員が入社してくれました。
本村:ブランディングの失敗例を教えて下さい。
古市:ブランディングの講師の話を聞いた担当者らに対して、学んだことを従業員にも広めるよう経営陣から指示していました。しかし、担当者が自身の仕事で忙しいこともあり、この試みは予定から1年近く遅れてしまいました。インナーブランディングはトップダウンで日程を定めれば良かったと思います。 
本村:Zenkenのサイトに御社が掲載されています。
古市:Zenkenのサイトからの当社のホームページへの流入が、月平均で50件程度あり、多くの問い合わせにつながっています。当社は製造業ですから、問い合わせから成約まで時間がかかる場合がほとんどです。しかし、Zenkenのサイトから問い合わせをしてくれる潜在顧客は明確な目的意識を持っている方が多いため、成約につながりやすいように思います。
(編集協力 P&Rコンサルティング)
本村 丹努琉(もとむら・たつる)
Zenken株式会社 取締役 eマーケティング事業本部長
通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部(現:グローバルニッチトップ事業部)」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。

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