「Xperia 1 VII」から見えるソニーのスマホ戦略 Xperia 10シリーズをあえて同時期に発売しないワケ

2025年5月17日(土)6時5分 ITmedia Mobile

ソニーは、フラグシップモデルのXperia 1 VIIを発表した。大手3キャリアとソニー自身が販売する。発売は6月上旬を予定。KDDIやソフトバンクは6月5日と案内している

 ソニーは、Xperiaシリーズの最新モデル「Xperia 1 VII」を発表した。同モデルは、Xperiaのフラグシップモデルという位置付け。前モデルの「Xperia 1 VI」から超広角カメラを強化し、これとAIを組み合わせた「AIカメラワーク」や「オートフレーミング」といった新しい動画撮影機能を搭載した。こうしたリアルタイム処理を行うAIを「Xperia Intelligence」と名付け、ユーザーに訴求していく。
 ソニー全体の戦略にのっとり、クリエイター向けという色合いを濃くしているXperiaだが、前モデルのXperia 1 VIでは、その声に応える形でディスプレイ比率を変更するなどのリニューアルを行った。Xperia 1 VIIでもその方針は踏襲。ラインアップ全体の整理も行い、より利益率を高める方向にかじを切っている。ここでは、Xperia 1 VIIや秋の投入が予告されている「Xperia 10 VII」から見えてきた、ソニーのスマホ戦略を読み解いていきたい。
●超広角カメラを刷新、Xperia Intelligenceで動画撮影に新体験も
 ディスプレイ比率を一般的なスマホに近い19.5:9に変更したり、カメラのユーザーインタフェースを大きく刷新したりと、フルモデルチェンジを果たしたXperia 1 VI。後継機にあたるXperia 1 VIIでも、その路線は踏襲されている。一方で、音楽再生にはWalkmanで培った技術を本格的に取り入れ、音質を向上。カメラも超広角カメラのセンサーを1/1.56型まで大型化して、ゆがみの少ない画質を実現している。
 また、この超広角カメラとAIを組み合わせることで、動画撮影に新たな機能を搭載した。1つがAIカメラワーク。被写体の姿勢を推定して動きを追い続けることで、プロが撮ったかのようなカメラワークを実現する機能だ。超広角カメラの画角を生かして広めに記録しておき、人物などのロックした被写体の動きに合わせて切り出すことで、こうした撮影を可能にした。
 もう1つの機能が、オートフレーミング。こちらも、被写体を追い続けて一部をクロップするという点はAIカメラワークと同じだが、どちらかといえば、舞台上の人などを撮ることが想定されており、超広角で撮った全体の映像と、人物などをフィーチャーした寄りの映像の両方を記録できる。
 横位置で撮りながら、人物全体を写す縦動画も同時に記録でき、その動きにもきちんと追従する。広めに写しておくだけで、あらかじめ設定した人物をきちんと追い続けてくれるため、画面を凝視する必要がない。動画として思い出を残しつつ、肉眼でそのシーンを見たいというニーズを満たす機能だ。単純な画質向上ではなく、使い勝手や撮影のしやすさにAIを活用した、面白い事例といえる。
 こうしたAIを、ソニーは「Xperia Intelligence」と呼ぶ。といっても、iPhoneに搭載された「Apple Intelligence」のように、文章や画像を作成できる生成AIではなく、カメラやディスプレイ、音楽などの各機能を補完するためのもの。従来のXperiaにもさまざまなAIが搭載されており、カメラの「瞳AF」や高速なオートフォーカスのための被写体推定などに活用されていたが、Xperia Intelligenceはそれらを含めてXperiaのAIとしてリブランディングしたものになる。
 Xperia Intelligenceという形で自社の守備範囲をきっちり定めたことで、それ以外のAIはプラットフォームを開発するGoogleに任せる方針が以前より明確になった。Xperia 1 VIIも「Gemini」を内蔵しており、「かこって検索」も利用可能。Googleフォトを使えば、「編集マジック」も利用できる。あえてGoogleと競合するようなAIは実装せず、自社の強みであるカメラや音楽、ディスプレイにAI開発のリソースを集約するというのが、AIスマホ時代のソニーの戦略といえる。
●リニューアルに成功したXperia 1 VI、Xperia 10は発売時期を見直す
 2024年にXperia 5シリーズの投入をやめ、ハイエンドモデルをXperia 1シリーズに一本化したことや、端末のフルモデルチェンジを行ったことが評価され、2024年に発売されたXperia 1 VIIは、「『Xperia 1 V』比で、120%の販売数を記録することができた」(ソニーマーケティング モバイルビジネス 執行役員 本部長 大澤斉氏)と販売は好調だったようだ。大澤氏も、「この数から、幅広いお客さまに受け入れられたと認識している」と語る。
 Xperia 1 VIIがXperia 1 VIの基本コンセプトを踏襲しているのは、そのためだ。「クリエイターを中心に、商品や体験をきちんと使っていただける方に使っていただくのが第一目標。そのお客さまにご満足いただける商品を提供するのが基本戦略」だと語る。好評だったコンセプトは維持しつつも、動画性能の向上や音楽再生の高音質化を図った狙いもここにある。
 一方で、2024年はXperia 1 VIと同時に発表されたXperia 10シリーズの投入は、秋に先延ばしされたようだ。ソニーによると、「市場動向や社内的な開発の面で総合的に判断した」という。上記のように、2024年はXperia 5シリーズが発売されず、ラインアップが2機種に絞られていた。ソニーとして、秋冬の商戦期に向けた端末が不在になっていた格好だ。同時期に投入すると、ミッドレンジモデルに注目が集まりづらくなる面もあるため、あえて発売時期を変更したようにも見える。
 ソニーでXperiaの開発チーム率いるモバイルコミュニケーションズ事業部 事業部長 大島正昭氏は「モバイルコミュニケーション事業の運営をより効率的にするということで、サイクルの見直しを行っている」と話す。「Xperia 10シリーズは感動体験の入口として、大事に捉えている」(同)というように、ミッドレンジモデルはより幅広いユーザーを狙える。時期を分散させたことで、これまで以上にXperia 10シリーズの販売に力を入れていく可能性がある。
 前モデル比120%と好評だったXperia 1 VIだが、ソニー全体では販売台数が低下しているのも事実。大澤氏も「実際、一元的に見ると、シェアは下がっている」と認める。調査会社MM総研が5月に発表した『2024年度通期 国内携帯電話端末の出荷台数調査』では、ソニーがトップ6のメーカーから外れ、「その他」にまとめられるようになってしまった。
 2023年度の同調査ではスマホで5位、携帯電話端末全体でも6位に入っていたが、Xiaomiやレノボ傘下になったFCNTにポジションを奪われている。フラグシップモデルの販売が伸びた半面、その他の端末の売れ行きが鈍ってしまった格好だ。ただし、これは、ソニーが販売面での戦術を変え、いたずらに数だけを追わなくなったことの結果だという。
●過去モデルを引きずらない利益重視の販売戦略、2機種の好調を維持できるか
 シェアが低下した大きな要因の1つが、過去モデルの値引き販売を抑えたことだ。大澤氏は、「2025年度は商品ミックスを大きく改善して、ほぼ新商品の販売だけにシフトできた」と語る。コストをかけて開発した製品が、当初の価格で販売できれば、そのぶん利益率は高まる。「新商品を(型落ちのモデルより)数多く販売した方が、利益重視の方針に近いアウトプットを出せる」(同)というわけだ。
 大澤氏は、「絶対数だけで見るとシェアが落ちたように見えるが、構成比が変わっているので、利益という意味では大きく改善できた」と語る。Xperia 5シリーズの投入をやめ、ハイエンドモデルをXperia 1 VIに集約したことも、利益率を上げる上で効果があったはずだ。Xperia 1と5では、共通する仕様も多いが、筐体や基板などの設計は大きく異なる。ゼロから2台のハイエンドモデルを開発し、売れ行きが分散してしまうのは効率が悪い。その意味では、ソニーのスマホ事業がより筋肉質になったと捉えることができる。
 とはいえ、あまり生産台数が少なすぎると、部材などの調達コストなども上がってしまい、価格の上昇によって販売台数のさらなる低下を招くという悪循環に陥りかねない。先に挙げたMM総研のデータを見ると、6位でシェア1.4%の京セラですら、1年間の出荷台数は133.5万台にとどまる。ソニーの場合、中国・香港や台湾などを中心に海外でもXperiaを販売しているため、国内だけの数字では判断できないものの、最も比率の高い日本市場でこれ以上販売数が落ちるのは避けたいはずだ。
 その意味では、Xperia 1 VIで販売台数が2割増しになったことはソニーにとって朗報といえるが、ラインアップを2機種絞った2年目にこの勢いを維持できるかどうかが今後の焦点になる。Xperia 1 VIと同程度か、販売数を拡大できれば成功と見ていいだろう。また、販売台数を稼ぐのと同時に、Xperia 1シリーズにステップアップしてもらうユーザーを増やすという点では、今後投入されるXperia 10 VII(仮)の重要性も高い。
 ソニーは、2024年9月に開催した説明会で、Xperia 10 VIが前モデル比で130%と売れ行きが伸びていることを明かしているが、Xperia 10 VIは直近の販売動向でも、好調さを維持している。オンラインショップかつ1キャリア限定だが、ドコモの販売ランキングではトップ10の常連。4月28日〜5月4日の期間は、セールの影響で順位が2位に浮上した。秋に投入すると予告しているXperia 10 VII(仮)が、これを上回れるのか。その動向にも、注目が集まる。

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