東大、有機半導体の電子ドーピングを安定化し大気下の寿命を100倍向上へ

2024年5月22日(水)17時11分 マイナビニュース

東京大学(東大)は5月21日、還元剤と分子性カチオンが協奏的に作用することで、有機半導体に電子とさまざまな分子性カチオンを導入することが可能な、安定性の非常に高い「電子ドーピング」技術を開発したことを発表した。
さらに、導入する分子性カチオンを自在に探索できるようになったことで、ドーピング状態の寿命を従来の手法より100倍程度向上させる材料を発見したことも併せて発表された。
同成果は、東大大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻の竹谷純一教授(物質・材料研究機構(NIMS) ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA) NIMS招聘研究員(クロスアポイントメント)兼任)、NIMS MANAの山下侑主任研究員(東大大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 客員連携研究員兼任)らが酸化する国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学に関する全般を含めた学術誌「Communications Materials」に掲載された。
有機半導体はインクジェットなどの低コスト印刷によって作ることができ、フレキシブルなセンサや電子回路、太陽電池などの光・電子デバイスを製造可能なことから、非常に期待されている次世代のエレクトロニクス材料である。高度なデバイスの作製には、半導体に負電荷である電子を導入するn型、正電荷であるホールを導入するp型のドーピング制御が必要。しかし、有機半導体のドーピング、特に電子ドーピングでは安定性が低いことが課題となっている。
そうした中、研究チームはこれまでの研究でイオン交換を用いられたp型ホールドーピングの安定化を報告した。しかし、そのアプローチが電子ドーピングに対しても有効なのかどうかはよくわかっていなかったという。そこで今回の研究では、還元剤と分子性カチオンを用いて、安定性の高い電子ドーピング手法を開発することにしたとする。
従来手法の電子ドーピングは、還元剤である「コバルトセン」などを有機半導体薄膜に導入することで行われていたが、材料の不安定性に由来してコバルトセンの場合には大気下では1分程度で失活してしまうという。そこで今回の研究では、コバルトセンに加え、安定な分子性カチオンを含む塩を溶かした溶液を用いてドーピング処理を行うことにしたとする。また、有機半導体としてはπ共役を有する高分子が用いられることになった。
今回の手法では、まずコバルトセンから有機半導体に電子が移動する還元反応が生じ、負に帯電した有機半導体とコバルトセンに由来するカチオンがイオン対を形成。そして、コバルトセン由来のカチオンは添加された他の安定な分子性カチオンに自発的に交換される。これにより、安定な分子性カチオンを有機半導体薄膜に導入する電子ドーピング技術が実現された。
続いて、開発された手法によりさまざまな分子性カチオンを導入することが可能になったことから、その特長を活かしてドーピング状態の安定性を向上させる材料の探索が行われた結果、安定性を著しく向上させる分子性カチオンとして「dMesIM+」が見出された。
そして、ドーピングされた薄膜の光吸収が、大気下において繰り返し測定が行われると、従来手法よりもドーピング状態の寿命が100倍ほど長くなることも判明。この長寿命はdMesIM+が安定な分子性カチオンであることに加え、失活を促進する水がdMesIM+を導入した薄膜には吸着しにくいことに由来することが考えられるとしている。その要因には、dMesIM+が疎水性の高い分子であること、dMesIM+が導入された薄膜がX線散乱測定から示される特徴的なパッキング構造を有することが寄与していることが推測されるとした。
今回の研究により、n型電子ドーピング状態を著しく安定化させる分子性カチオンを容易に探索し、活用できるようになった。ドーピングされた薄膜では仕事関数が3.9eV程度と小さいことも確認されている。このことは、今回の手法が強力なドーピングであり、多くの有機半導体に適用可能であることが示されているという。今後、今回の手法による高性能な有機半導体デバイスの開発が進展することが期待できるとしている。

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