実験室で「ブラックホール爆弾」の実証に成功 50年来の理論を実現 英国チームが発表

2025年5月29日(木)8時5分 ITmedia NEWS

 英サウサンプトン大学と英グラスゴー大学などに所属する研究者らが発表した論文「Creation of a black hole bomb instability in an electromagnetic system」は、「ブラックホール爆弾」(Black Hole Bomb)として知られる物理現象を初めて実験室で実証することに成功した研究報告だ。
 今回の実験は、1971年に物理学者のヤコフ・ゼルドビッチが理論的に予測した現象を約50年の時を経て実証したもの。ゼルドビッチの理論とは、普通、物体に光や電磁波を当てると吸収してしまうものだが、その物体が十分速く回転していると吸収されずに逆に電磁波を増幅して送り返すことができるという現象だ。これは回転するブラックホールからエネルギーを取り出せるという「ペンローズ過程」の理論に基づいている。
 この現象は1972年に「ブラックホール爆弾」という概念に発展した。ブラックホール爆弾とは、回転するブラックホールからエネルギーを抽出する理論的な仕組みを示す。
 その仕組みとは次のようなものだ。回転するブラックホールの周囲に反射鏡を設置し、そこに波を発射する。波は超放射現象によって増幅されてブラックホールから戻ってくるが、反射鏡によって再びブラックホールに向かって反射される。この過程が繰り返されることで波は指数関数的に増幅され、最終的には極めて強力な(爆弾が爆発したかのように)エネルギーとして放出される。
 今回研究チームが作った装置は、中央に回転するアルミニウムの円筒があり、その周りを3つの電磁コイルが取り囲む構造になっている。これらの電磁コイルに電流を流すことで回転する磁場を作り出し、中の円筒に作用させる。
 実験は2つの異なる条件で実施。まず円筒の回転速度を一定に固定した条件下で、ゼルドビッチ理論の検証を行った。円筒が磁場と同じ方向に回転し、その回転速度が特定の閾値を超えると、従来の物理常識に反する現象を観測した。
 通常であれば電磁波は円筒によって吸収されるはずだが、この特殊な条件下では逆に電磁波が増幅されて出力されたのだ。測定できた最大増幅率は入力信号の17.6倍に達し、ゼルドビッチの理論予測を明確に裏付ける結果となった。
 次に、回路の抵抗値を下げて全体の損失を減らした実験を実施した。この条件では、外部からの電気信号を完全に停止し、回路内に存在するわずかな電気的ノイズだけを元として実験を継続した。
 すると、システムは自発的に電磁波を生成し始め、その強度は時間とともに指数関数的に増加していった。これは、回転するブラックホールと反射鏡の間で波が何度も増幅を繰り返し強力なエネルギーを放出する「ブラックホール爆弾」の実験的再現といえる。
 Source and Image Credits: Cromb, Marion, et al. “Creation of a black hole bomb instability in an electromagnetic system.” arXiv preprint arXiv:2503.24034 (2025).
 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2

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