「永遠に不滅の存在」を消しにかかる金正恩に戸惑う北朝鮮国民
北朝鮮の各地に立てられている「永生塔」と呼ばれるオベリスク。大抵次のような文句が刻み込まれている。
「偉大なる金日成同志と金正日同志は永遠にわれわれと共にいらっしゃる」
故金日成主席と故金正日総書記を祀ったもので、全国に5175基あることが確認されている。これと同様のスローガンが消されつつあるとの情報が伝わってきた。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、当局の指示に基づき今月からスローガンの削除が始まったと伝えた。今月11日、情報筋の勤め先の工場の会議室の側面にかけられていたスローガンが次のようなものに変更されていることに気づいたという。
「全党と全社会を金正恩同志の思想で染め上げよう!」
毎月4月15日は故金日成氏の生誕記念日で「太陽節」と呼ばれていたが、当局は今年からこの「太陽節」という言葉の使用を禁止した。それに伴う変更と思われるが、情報筋によると、あまりの大きな変化にこの指示が飲み込めていない人もいるという。
「(故金日成氏である)太陽を消して、自身(金正恩氏)がチュチェ(主体)朝鮮の太陽として収まっているのを見て、呆れ返る空気だ」(情報筋)
神聖不可侵で、唯一無二の神のような存在を押しのけ、その場に自分が収まるというのだから、北朝鮮国民が唖然とするのは無理もない。
同様の情報は他の地方からも届いている。
両江道(リャンガンド)の情報筋は、今月13日に地元の軍事動員部(兵役を司る役所)の前を通りかかった際に、スローガンがかけ替えられているのを目の当たりにしたと伝えた。新しいスローガンは次のようなものだ。
「敬愛する金正恩同志を首班とする党中央委員会を死守しよう!」
会議室にかけられていたスローガンはほとんど変更されたが、今のところ永世塔はそのままになっている。しかし、情報筋はこちらも間もなく消されるだろうと見ている。
「当局は、先代の首領様がた(金日成氏、金正日氏)を否定し、総力を上げて(金正恩)総書記を祭り上げようとしている」(情報筋)
この流れが続くのならば、金日成花、金正日花など二人を神格化するアイテムも次々に消されていくだろう。
金日成氏は建国の父であるが、様々な失策を犯してきた。税金を廃止したこと、工業化に向けた設備の購入のための借款を導入し、それを踏み倒して国の国際的信用を貶めたこと、農業生産を増やすため全国の山を段々畑にしたことで災害が多発し、その後の大飢饉「苦難の行軍」を招いたことなど、枚挙にいとまがない。
しかし、「遺訓政治」が国是であったため、金正恩氏と言えども、父や祖父の間違った政策を正面切って否定することができず、足を引っ張られ続けた。父や祖父の否定は、そこからの脱却を図る目的もあるのだろうが、年配者や先祖を否定することは北朝鮮に色濃く残っている儒教的価値観に真っ向から反する。
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