速度戦の果てに――孤児たちを飲み込む北朝鮮・炭鉱の闇
2025年5月29日(木)12時46分 デイリーNKジャパン
人民の命を顧みない構造のしわ寄せは、最も弱い立場の人々に向かう。
北朝鮮・平安南道(ピョンアンナムド)の炭鉱で今月19日、坑道が崩落し、多くの労働者が生き埋めになる事故が起きた。27日の時点でも安否の確認が取れていないが、行方不明者の多くは孤児だった。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、事故が起きたのは道内の徳川(トクチョン)にある南陽(ナミャン)炭鉱だ。資料によると、朝鮮が日本の植民地下にあった時代には、朝鮮無煙炭、西山炭鉱など日系企業による経営だった。つまり、施設の老朽化が進んでいることは想像に固くない。
炭鉱側は今年4月中旬、10年以上放置されていた坑道に、3月に中等学院を卒業したばかりの若者を送り込んでいたが、19日夕方に突如として坑道が崩落し、6人が生き埋めになった。
中等学院とは孤児院に中学校を併設した施設で、卒業生は「困難で骨の折れる」職場に送り込まれる。家族がいないことから、労災事故で亡くなったとしても、後腐れがない「都合の良い」労働者なのだ。
彼らは今年3月に中等学院を卒業し、「集団嘆願」の名簿に登録されて炭鉱に配属された。「嘆願」という形を取っているが、実際は強制されたものだ。炭鉱の朝鮮労働党委員会は、「党中央の呼びかけに応えた青年嘆願者には困難な場所を任せる」として、放棄されていた坑道を彼らに割り当てたという。
彼らは、安全点検もまともに行われていない坑道に入り、坑木を設置しながら掘り進める作業を行っていたが、その最中に坑道が突如として崩落し、生き埋めになったのだ。
情報筋は、「事故当時、坑道内には小隊長を含む11人がいたが、このうち3人は自力で脱出し、2人は救出された。残りの6人については生死の確認ができておらず、炭鉱側では酸素不足により死亡した可能性が高いと見ている」と述べた。
さらに、「現場の救助隊が夜を徹して救助作業を続けているが、埋没範囲が広い上、10年前に掘削を中断した区域であるため地形図などの資料も不正確で、坑道内に進入することすら容易ではない。あらゆる面で埋まっている人々を救うのが非常に困難な状況だ」と語った。
身寄りのない若者が事故に遭ったとの知らせを聞きつけた近隣住民は胸を痛め、「名もなき坑道に、若い孤児を追いやった」「整備もされていない区域に若者を押し込んだ」などと批判の声を上げている。
また一部からは、「坑木が3回以上割れていたにもかかわらず、計画(ノルマ)超過達成への圧力から作業が続けられた」「事故の前日にも坑木がグラグラしていたという報告があったが、炭鉱側は『石炭が先か、坑木が先か』などと言って作業を継続させた」といった証言も出ており、炭鉱側が生産拡大に目がくらみ事故を招いたとの指摘もなされている。
中央は炭鉱にノルマを割り当て、それをできるだけ早く超過達成することを強いている。そのため、安全を度外視して速度と結果だけを求める「速度戦」が横行する結果を招いたのだ。
速度戦は北朝鮮の悪弊で、大規模な労災死亡事故や、完成後のマンションの崩壊など様々な事故の原因となっている。金正恩総書記は一時、このような風潮を諌める発言を行ったことがあったが、「ノルマをできるだけ早く超過達成する」というプレッシャーをかける指示を自ら下すなど、最高指導者からして徹底していない。
炭鉱側は「無理に作業をさせたわけではない」と弁明し、責任を回避しようとしている。情報筋は、「南陽炭鉱の安全部(警察署)と青年同盟が事故原因と責任追及に乗り出したが、調査は坑道責任者と小隊長への聞き取り程度にとどまっている」と述べた。
責任を認めれば重罰を受ける。そのため事実を曖昧にすることが、かえって処罰を免れる唯一の手段となる——それがこの体制の現実なのだ。かくして、孤児6人の命を奪った事件の責任は問われることなく、闇に葬り去られることだろう。