金正恩氏の肝いり「国営米屋」、オープン直後から経営難航
北朝鮮当局は、市場に奪われたコメなど穀物の流通、価格決定の主導権を取り返す目的で、市場での穀物販売を禁じ、国家食糧販売所だけで販売する仕組みを導入。先月から運用が始まった。
穀物価格の変動は、市民の不満を招きやすく、主導権の奪還は体制の安定のために欠かせないと考えているようだ。「失敗に終わるだろう」という見方が示されていたが、早速そのような兆しが現れている。
両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、国家食糧販売所ではコメ、トウモロコシに加え、砂糖、調味料、小麦粉、食用油など多くを輸入に頼り、価格変動が激しいものも扱っている。しかし、入荷量が少なく、たまに品物があるときだけに売る程度に留まっているという。
デイリーNK取材班が取材した結果、これらは国家食糧販売所が販売するように定められたものではなく、収益のノルマを達成するために、独自の判断で販売していることが明らかになった。つまり、コメやトウモロコシの販売だけでは儲かっていないということだ。
国家食糧販売所は市の人民委員会(市役所)が運営し、月刊の販売量を朝鮮労働党に報告する仕組みになっている。人民委員会は販売ノルマが達成できたかのように装うために、コメやトウモロコシ以外の商品にも手を出したという。
国家食糧販売所は市内の洞(日本の町に相当)にも設置されている。両江道の恵山(ヘサン)市の場合には、城後洞(ソンフドン)、恵江洞(ヘガンドン)、恵山洞(ヘサンドン)などに、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)市では、南門洞(ナンムンドン)、遊仙洞(ユソンドン)など、地域ごとにオープンしている。
さて、半ば虚偽とも言うべき報告を受け取った中央党(朝鮮労働党中央委員会)は、国家食糧販売所について肯定的に評価していると、情報筋が伝えている。うまく定着させられれば、商業を含めた経済に対する国の統制力を回復できると期待しているというのだ。
しかし、現場の実情を知る中間幹部からは異論が出ている。かつてのように、国が大量の穀物を一手に買い集めるのは難しいとの主張だ。また、現場の農民から不満の声も聞かれる。
平安南道(ピョンアンナムド)のある農民は「一生腰が曲がるまで百姓仕事をしても、白飯にありつくことすら難しい」「(当局は)貧乏な農民に、コメを安値で売り渡すように強いており、あちこちから不満が噴出している」と述べた。また、前年の収穫で得た収入で、翌年の営農資材や農薬を買い込む自転車操業状態で、収入が減ると農作業に影響が出かねないと懸念する声も上がっている。
消費者はと言うと、そもそも国家食糧販売所を利用したことがない人が多く、穀物価格に影響を与えているとは感じていないとのことだ。販売量が少ない上に、栄誉軍人(傷痍軍人)、除隊軍官(引退した将校)、軍関係者の家族にだけ安めに穀物を販売する「軍人専用米屋」のような状態になってしまっている。
当局は、市場に対する統制力を強化するために、従来の総合市場を食料品の品目別に細分化し、市場での衣類や家電などの販売を禁止、国営商店だけで販売できるようにする方針を示したが、世論の強い反発で撤回を余儀なくされた。
国家食糧販売所に関しても、同じ道を辿ることが予想される。金正恩総書記と言えども、市場をコントロールすることは極めて困難なことが改めて示された形となりそうだ。
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