移動の自由がない北朝鮮でも進む都市化…農村の生産力に打撃
北朝鮮は、建国前の1946年9月1日、日本の植民地統治下で制定された「朝鮮戸籍令」を廃止、1955年に公民身分登録制度に変更した。その後に行われた登録事業により、個々人やその家族、3代前の先祖、6親等までの親戚の職業などに基づいて「成分」と「土台」――つまり身分制度を決定した。
北朝鮮の人々は、この身分制度に一生を縛られて生きていくことになる。居住と移動の自由も制限され、農村から都会への移動は、軍入隊、大学進学などの特別な理由がない限りは認められない。だが、それはあくまでも原則に過ぎない。
貧しい生活から抜け出したくて、或いは借金などの理由で食い詰めて、日本の近代以前に起こっていた「逃散」(ちょうさん)のように、違法を承知で農場を去り、儲け話のある都会などに移っているのだ。
農村の労働力不足の深刻さに気づいた当局は、都会に出た農民を強制的に連れ戻したり、都市部の若者に農村行きを嘆願させる「嘆願事業」、兵役満了後の兵士を集団で農村などに移住させる「集団配置」などで対応しているが、あまりうまく行っていないようだ。
国連の資料でも、北朝鮮で今後、都市化が進むとの展望が示された。
国連人間居住計画が最近発表した「2022世界報告書」は、北朝鮮の都市人口が、2015年には総人口の61.8%にあたる1546万9000人だったのが、2020年には62.4%の1612万人に増加、2035年には67.6%の1822万人に達するとの見通しを示している。つまり、今後の十数年間で、約200万人が農村を去る見通しなのだ。
日本の91.8%、韓国の81.4%(いずれも2020年の数字)や、2020年の61.%から2035年には73.9%まで増加する、北朝鮮と同様の住民登録制度を持った中国ほどではないものの、北朝鮮でも離農現象が本格化するということだ。
上述の通り、当局は許可なく都会に出て働いている農民を、無理やり農村に連れ戻してはいるものの、いずれ追いつかなくなるだろう。他国では、減少した農村人口の穴埋めを機械に頼り、生産性を維持しているが、北朝鮮農業は機械化が非常に遅れており、未だに人海戦術に頼っている。
北朝鮮では、首都・平壌、地方都市、農村間の経済格差が極めて大きい。また、何らかの過ちを犯した人を農村送りにするという一種の「流刑」が未だに存在することから、農村のイメージは極めて悪い。
金正恩総書記は農業第一主義を掲げ、農業生産高の向上を訴えているが、6割程度にとどまっていると言われている食糧自給率が、向上する見込みは薄いと言えよう。
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