北朝鮮の考える「文学不振」の的はずれな理由
北朝鮮の作家・白南龍(ペク・ナムリョン)氏の小説「友」。米国の図書館員向け雑誌「ライブラリー・ジャーナル」が毎年発表する「ベストブックス」に、2020年度の144冊の中の一冊として選ばれた作品だ。
世界的には存在そのものが知られていない北朝鮮文学とその作者の作品が選ばれたことで、話題を集めた。だが、もちろん北朝鮮にも文学も文学者も存在する。しかし、ここ最近は、今ひとつぱっとしないのが実情だ。
そんな現状に不満を持った北朝鮮当局は、文学者や芸術家を批判し、とある措置を下した。平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
北朝鮮政府は、「文学芸術部門が変化・発展する時代の雰囲気とは異なり、発展できておらず足踏み状態だ」「時代と歩みを合わせられないのは、現実とかけ離れた感覚を捨てられず、情熱が足りないから」などとして、朝鮮作家同盟、4.15文学創作団、万寿台(マンスデ)創作社、三池淵(サムジヨン)創作者など、文学者や芸術家が所属する団体を強く批判した。
実際のところ、北朝鮮文学の不振の背景には、昨今の経済難と食糧危機がある。
北朝鮮で作家を目指す人は、朝鮮作家同盟に加入、文学通信員の肩書を得て、労働の現場で様々なものを見聞きして作品の土台とする。作品を文芸雑誌などで発表、コンクールで受賞してようやく、正式な作家の肩書を得ることができる。
だが、北朝鮮社会の現実は、そんな余裕を与えない。コロナ鎖国下での食糧危機で、生き抜くだけでも精一杯な状況で、作品を書けるわけがない。また、最高指導者と朝鮮労働党の政策を宣伝、鼓舞するための活動を強いられる北朝鮮の作家が、飢餓に苦しむ人民の姿をありありと描くなど、考えることすらできない。かくして人材は枯渇し、優れた作品も生まれなくなってしまったのだ。
だが、当局が作家たちに命じたのは、「現場体験創作路線」というプロレタリア文学の基本に戻ることだった。数十人でグループを組ませて、各地の建設現場に送り込んだのだ。先月下旬、首都・平壌で行われている和盛(ファソン)地区での住宅1万戸建設の現場に、多くの文学者や芸術家が送り込まれてきたと、情報筋は伝えている。
当局は、建設現場を散歩して文章を書くのではなく、レンガやブロックなど重いものを運び、その重さを肌で感じ、或いは農場で鍬や鎌を手に持って、その辛さを体験しなければならないと強調した。
そうすることで、悲喜こもごもの労働現場、党や祖国に忠誠を尽くす人民の高尚な精神世界を込めた様々な作品が誕生するだろうと主張した。
書斎やアトリエから追い出され、労働の現場に強制的に連れて行かれた文学者や芸術家は、きつい労働や飢えに苦しみつつも、不平不満を口にできずにいるそうだ。
優れた作品が全く生まれてこないとのことだが、北朝鮮の人々は本を読まないわけではない。町中では政治色の薄い漫画本や歴史小説などが多く売られており、人々がそれらを読み耽る様子も目にする。また、ご禁制の地下出版に手を出す人もいるという。
1990年代以降、文学と映画、テレビドラマは最高指導者を称賛し、朝鮮労働党の政策を宣伝する傾向が非常に強くなった。一方でその裏では、韓流ドラマなど質の高いエンタメコンテンツが広く出回るようになった。
北朝鮮で作家を目指すも、脱北後にようやく成功した人が何人もいる。また、現在も北朝鮮に住みながら、密かに韓国で小説「告発」を出版したパンディ氏も高い評価を受けている。そもそも、表現の自由が極度に制限された国で、質の高い作品が生まれることを望むのが間違いなのだ。
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