「北朝鮮からの脱出は不可能」韓国の政府当局者が認める
2025年5月3日(土)4時54分 デイリーNKジャパン
韓国統一省のまとめによれば、2024年末時点で韓国に入国した脱北者の数は236人であった。2003年から2011年にかけては年間2,000〜3,000人に達していたが、金正恩政権が発足した2012年以降、1,500人台に急減した。
その後も減少傾向が続き、コロナ禍により年間2桁台に落ち込んだが、コロナ明けには3桁台に回復した。しかし、2025年第1四半期の入国者数はわずか38人であり、このまま推移すれば今年は昨年比で減少する見通しだ。
脱北者数の増減には、北朝鮮と中国の国境警備強化が大きく影響している。米政府系メディア「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」によれば、韓国統一省は「北朝鮮から中国への脱出は。現状では不可能」だとの見解を示した。
統一省によると、2025年第1四半期に韓国へ入国した脱北者38人の大半は第三国で長期滞在していた者たちであり、その多くは中国に10年以上滞在していたか、北朝鮮の海外公館で勤務していた外交官や貿易関係者であった。一方、北朝鮮から直接韓国に入国した、いわゆる「直行脱北者」の数はごくわずかである。
また、かつて主流ルートの一つであった中国経由の脱北も、現在では極めて困難になっている。統一省の当局者は23日、外国人記者団との懇談の場で、「コロナ禍以降、国境監視体制が大幅に強化されたため、北朝鮮から中国への脱出は現実的に不可能な状況にある」と述べた。
さらに、ロシアからの脱北者数も近年では少なくなっている。コロナ禍において、ロシア滞在者が脱北者の多くを占め、韓国入国の主要ルートの一つとなっていたが、現在はその数も減少傾向にある。
韓国に入国した脱北者が社会適応教育を受ける「ハナ院」の入所者数も、大幅に減少している。女性が入所する京畿道・安城(アンソン)ハナ院には1期あたり約10人、男性が入所する江原道・華川(ファチョン)ハナ院には1期あたり一桁台にとどまっている。なお、もともと脱北者は女性の割合が高く、2024年の実績では女性が210人、男性は26人に過ぎなかった。
統一省の当局者は、「仮に年間200人が入国した場合、1カ月に20人程度がハナ院に在籍している計算になるが、月ごとの入国者数には大きなばらつきがある」とし、脱北者の流れが一定していない現状を指摘した。
一方、ウクライナで拘束された北朝鮮軍捕虜の韓国移送に関して、当局者は「彼らが韓国行きを希望している点に注目している」と述べ、ウクライナ政府と緊密に連携し、韓国入国の実現に向け最大限の努力を続けているとした。
ただし、捕虜たちが入国した後の定着支援や関連プロセスについては、現在のところ具体的な検討は進められていないという。これについて当局者は、「彼らが軍人であるため、通常の脱北者とは異なる手続きが必要になると見られる」と説明した。
一般的な脱北者は、韓国入国後、国家情報院による一時保護措置と調査を受けた後、「ハナ院」に移り、12週間の社会適応教育を経て社会に出ることになっている。しかし、元高官や軍人など、特別な情報を持つ脱北者については、通常とは異なる特別なプロセスが適用される。
なお、今年2月、ウクライナを訪問した韓国野党「国民の力」のユ・ヨンウォン議員との面談において、捕虜となっている北朝鮮軍兵士の一人は「私は必ず韓国に行きたい。親に会うためにも必ず行きたい」と述べた。