ソン・フンミンも鎌田も“被害者”に…サッカー界にはびこる差別の数々

FOOTBALL TRIBE2024年11月25日(月)16時0分
ソン・フンミン(左)鎌田大地(右)写真:Getty Images

 クリスタル・パレスに所属する日本代表MF鎌田大地が、11月9日のホームでのフラム戦で相手選手へのタックルで一発退場した際に、フラムのサポーターから人種差別発言を浴びるという出来事があった。本人は「今までも散々言われてきている。僕自身は聞いていなくて、全然知らなかった」と語った。


 また、今年6月には、トッテナム・ホットスパーに所属するウルグアイ代表MFロドリゴ・ベンタンクールが、母国のテレビ番組で司会者から同僚の韓国代表FWソン・フンミンのユニホームを求められた際、「ソニー(ソン・フンミン)の?ソニーのいとこのものかもしれないよ。みんな同じように見えるから」と発言。これが人種差別的だとされ、イングランドサッカー協会(FA)から7試合の出場停止処分と罰金10万ポンド(約1,900万円)を課された出来事があった。


 ソンはベンタンクールから直接謝罪を受けこれを受け入れたのだが、FAは規則E3項1条に基づく「フィールド内外での侮辱的、攻撃的、または不適切な言動などの悪質な違反」に抵触するとして処罰に踏み切った。さらに規則E3項2条では「人種、性別、宗教、性的指向などを理由とした差別行為は、加重違反としてさらに厳しい処分が科される」とあり、当事者同士では問題が決着しているにも関わらず、重い決定が下された。


 ソン・フンミンも鎌田も海外でのキャリアが長いため、“差別慣れ”してしまっているかのような反応だ。しかし、、スタジアムのみならずSNS上における人種差別的な行為は増加の一途を辿り、黒人選手に加え、日本人や韓国人選手に向けられたものも目立ってきている。


 それだけプレミアリーグにアジア人が進出していることの証しともいえるが、同リーグが25年にわたって非営利反人種差別団体「Kick It Out」とのパートナーシップを結び、2019年には「No Room for Racism(人種差別に余地なし)」をスローガンに掲げ厳しい規則を設けながら、なぜスタジアムから差別がなくならないのか。


 洋の東西を問わず、子は親の姿を見て育つ。かつては”ならず者”の巣窟であったスタジアムは、彼らのストレスのはけ口であり、差別のみならず暴力にまみれていた。そうした時代を知る親世代が過去を子に伝え、“伝承”されてしまっていることも原因として挙げられるだろう。


 また、英国においてサッカーは一番の人気スポーツであると同時に「労働者階級のスポーツ」から脱せていない現状がある。ゴール裏席でも日本円で1万円を超えるチケット代金であるにも関わらずだ。上流階級はもっぱらクリケットやラグビーに流れ、サッカーを下に見る風潮がある。Fワードを連呼し、タトゥーが入ったいかつい男たちが集うサッカーファンを軽蔑し、サッカーそのものを“差別”しているのだ。


 差別は連鎖を生み、周囲から蔑まれたサッカーファンは“自分より下”の対象として、アジア人や黒人に対し差別することで、憂さを晴らしているのではないか。英国でプロサッカーが誕生してから100年以上。社会背景が生んだこうした差別の連鎖を失くしていくには、同じ程度の長い時間が必要だろう。


 黒人選手を標的にサルの泣き真似をする「モンキーチャント」やバナナを投げ付ける差別行為が常態化しているスペインやイタリアでも、差別を助長する右傾化した社会背景が存在し、良識あるファンをスタジアムから遠ざけている。リーグ側がいくら対策しようとも、差別反対のスローガンや抗議の意思を示す片膝をつくポーズでは効果など期待できない。


 欧州5大リーグでこうした問題が表面化しないのが、最もチケット代金の相場が安いドイツのブンデスリーガというのも皮肉な話だ。日本人選手がまず、ドイツに渡りたくなる一因ともいえるだろう。


 カズことFW三浦知良(アトレチコ鈴鹿)がイタリアの地を踏んでから30年が経ち、多くの日本人選手が欧州に渡った。その間、有形無形の差別と闘ってきた歴史がある。しかし時代は変わり、黙って我慢することなく声を上げることによって、状況を変えることも可能となってきている。


 仲間を許したソンの優しさや、差別を受けていることに気付かなかった鎌田の“鈍感力”も、時には必要だろう。しかし、後進に道を作る立場のアジア人選手が、はびこる差別に対し、ハッキリと「NO!」と表明することが必要なのではないだろうか。

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