ピアニストのホロヴィッツはピカソをどう眺めていたのか?「空間」で見せる一歩踏み込んだ展覧会
モネ、セザンヌ、藤田嗣治、岸田劉生など、古今東西の名品が集結。石橋財団コレクションを「空間」をテーマに紹介する「空間と作品」展がアーティゾン美術館にて開幕した。
文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部
144点の名品を新しい手法で見せる
展覧会名はシンプルに「空間と作品」。この情報社会において、なんとてらいのない、漠然としたタイトルだろうか。この展覧会名であれば、どんな作品でも収まってしまいそう。それだけに、かえって何が出品されているのか、どのような構成になっているのか、興味をそそられる。
出品作は古今東西、時代や分野を決めずに集められた石橋財団コレクションから選りすぐった144点。円空の仏像、モネ、ピサロ、セザンヌら印象派・ポスト印象派の絵画、岸田劉生、佐伯祐三らの日本近代洋画、琳派による作品、ジャクソン・ポロックをはじめとする抽象絵画。さらに豊臣秀吉の書翰まである。質量ともに充実した名品展として満喫できる内容だが、今回の楽しみはそれだけではない。
今回の最大の見どころは展覧会名にある「空間」だ。来場者がその作品がどのように鑑賞されてきたのか、イメージを膨らませることができるよう、展示空間に凝った演出が施されている。
ホロヴィッツが愛したピカソの絵
具体的に例をあげながら、見どころをいくつか紹介していきたい。まずはパブロ・ピカソ《腕を組んですわるサルタンバンク》。サルタンバンクとは縁日などで芸を披露する大道芸人。各地を放浪しながら不安定な生活を送ることから、故郷スペインを離れパリで極貧生活を送ったピカソが自身の姿を重ね合わせて描いたと考えられている。
《腕を組んですわるサルタンバンク》は1923年の制作。1980年に石橋財団コレクションに加わったが、その約60年の期間は誰がこの絵を所有していたのだろうか。本作は自動車産業クライスラー一族のガービッシュ夫妻をはじめ、錚々たるコレクターの手を渡ってきた。20世紀を代表するピアニストのウラディーミル・ホロヴィッツもそうした所有者のひとり。彼はニューヨークの自邸の居間に飾り、招いた友人や客人とともに鑑賞を楽しんだという。
「空間と作品」展の展示会場では《腕を組んですわるサルタンバンク》のためにひとつのスペースが用意され、作品と向き合う形でソファが置かれている。ソファに腰をおろし、ホロヴィッツになった気分で、しばし想像する時間を楽しむことにする。「ホロヴィッツはキーウ(当時はロシア、現在はウクライナの首都)の出身。ロシア革命と戦争の影響で母国を去り、アメリカへと渡った。もしかするとピカソと同じく、放浪するサルタンバンクに自分を重ねていたのかもしれない」。そんな空想が頭の中に広がっていく。
畳敷きの小上がりで襖絵を鑑賞
円山応挙《竹に狗子波に鴨図襖》は、9匹の小さな子犬たちが描かれた応挙の人気作。なで心地のよさそうなふさふさとした毛並み、ぱっちりとした優しい目……これはワンちゃん好きにはたまらないだろう。この作品のために、本展では最高の展示環境を用意。展示室の一室に柱を立て、畳敷きの小上がりをつくった。来場者は靴を脱いで畳の上にあがり、脚を崩して、襖絵を眺めることができる。
この畳敷きの小上がり、照明家・豊久将三が手がけた照明デザインも空間づくりに一役買っている。美術館では “上から”の照明が一般的だが、本展では作品に“横から”照明が当たるように工夫。つまり、美術館に展示された美術作品としてではなく、江戸時代の家屋に外光が差し込み、その光が襖絵を照らしているような感覚で作品を鑑賞することが可能だ。しかもその照明は美術館がある場所のリアルな太陽の動きに合わせて光量が変化。晴れの日は晴れっぽく、曇りの日は曇りっぽく。訪れた日の天気によって、作品から受ける印象が異なる。
アート作品とインテリアデザインの共演
こうした空間の再現展示のほか、美術館側が「こういう部屋づくりはいかがですか」と提案する夢想空間のコーナーも用意。インテリアスタイリスト・石井佳苗の協力により、様々なアート作品を現代のインテリアと組み合わせて紹介している。
例えば、イタリアのデザイン界を代表するエットレ・ソットサス《サイドボード(Model MS. 180)》と山口長男の油彩画《累形》の組み合わせ。ソットサスの機能的でありながらモダンな人間味を感じさせる家具と、山口長男の鋭くもあたたかみのある抽象表現の共演。この2つの作品は1959年(ソットサス)、1958年(山口)と制作年代が近いこともあり、同一空間に相性よくすっと馴染んでいる。
額縁をあなどるなかれ
作品と空間をつなぐ存在である「額縁」や「表装」に注目した展示コーナーも興味深い。青木繁の代表作として名高い《海の幸》。幾度鑑賞しても作品がもつ力には唸らされるばかりだが、額もまた不思議なパワーをもっている。魚と波を幾何学的に表したデザインがユニーク。額をあなどってはいけないと改めて気づかされる。
藤田嗣治は額縁に強いこだわりを見せた画家。《猫のいる静物》《ドルドーニュの家》の額は自身の手で制作したものだ。一方で、野見山暁治は額をつけないことにこだわった画家だという。《あしたの場所》というが展示されているが、もし額があったなら、見え方が大きく変わるだろう。
「空間」と「作品」の関りをテーマに、奥へ奥へと踏み込んでいく展覧会。単なる名品展ではない。これは、おもしろい。
筆者:川岸 徹
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