J1リーグ2025シーズン新監督8名の期待度

2025年1月11日(土)18時0分 FOOTBALL TRIBE

写真:Getty Images

2025シーズンの明治安田J1リーグは、2月14日に開幕する。


今季J1では8クラブで新監督を迎えた。中にはJ1を知り尽くす名将から、海外で実績のある外国人監督、さらには無名指導者の“大抜擢”もある。ここではこれら新監督のキャラクターとともに、その期待度を検証したい。




鬼木達監督 写真:Getty Images

鹿島アントラーズ:鬼木達監督


期待度:★★★☆☆


鹿島アントラーズでは、2024年10月にランコ・ポポヴィッチ監督解任により、中後雅喜前監督がコーチから昇格する形で就任。同時に、コーチに羽田憲司氏、アカデミースカウトに本山雅志氏、フットボールダイレクターに中田浩二氏が就任し、この時点で既に近5年で5度目の監督交代となっていた。


その際、オーナーであるフリマアプリ大手の株式会社メルカリ小泉文明社長は「中長期的な視点で強化する」と述べていたものの、その舌の根が乾かぬうちに鹿島OBでもある鬼木達監督の川崎フロンターレ監督勇退の報を聞きつけると、即アプローチ。2025シーズン再びの監督交代となった。


鬼木監督にとっては、現役時代プロの門を叩いたクラブに26年ぶりの帰還となったが、鹿島には6シーズン(1993-1999)在籍しながら、その間のリーグ戦出場はわずか24試合。古参の鹿島サポーターでも鬼木氏の現役時代のプレーを見た者は少ないだろう。


コーチには柳沢敦氏、GKコーチに曽ケ端準氏といった大物OBを登用しサポーターを納得させようとする試みが垣間見えるが、鹿島のライバルであるジュビロ磐田OBの田中誠氏もコーチに名を連ねている。田中氏は2024シーズン、J2栃木SCの監督に抜擢されたものの、大失敗に終わり途中解任。チームはJ3に降格した。この人選には鹿島サポーターも疑問を持っているのではないだろうか。


鬼木監督自身は、自ら何から何まで決めるタイプの指揮官ではなく、コーチに意見を仰ぎながら采配を振るうタイプ。昨季8位に終わった川崎の低迷は、物申せるコーチが不在だったことが要因の1つだった。鬼木監督の能力は疑うべくもないが、脇を固めるコーチ陣の経験不足が今季の鹿島の不安要素だ。




リカルド・ロドリゲス監督 写真:Getty Images

柏レイソル:リカルド・ロドリゲス監督(←井原正巳)


期待度:★★★☆☆


リカルド・ロドリゲス監督は、2017年当時J2の徳島ヴォルティスに「スペイン人指揮官路線」の第1弾として招聘された。2020シーズンJ2優勝とJ1昇格を置き土産に浦和レッズに引き抜かれ、2021シーズンの天皇杯優勝をもたらした。しかし、リーグ戦では優勝に届かず、2シーズンで退任している。


1年間のブランクを経て、2024シーズンに中国スーパーリーグの武漢三鎮の監督に就任。しかし、オーナー企業の武漢尚文グループが、資金難からクラブ経営から撤退し、弱体化していたチームは残留争いを強いられる。ロドリゲス監督の手腕で残留に成功するも、武漢に同監督を引き留める財力はなく、フリーとなったところに柏レイソルがオファーした形だ。


柏はJFL時代からブラジル人監督路線を敷き、ゼ・セルジオ監督(1994)、アントニーニョ監督(1995)、ニカノール監督(1996-1997)、マルコ・アウレリオ監督(2002-2003)、ミルトン・メンデス監督(2016)らが指揮をとってきた。


最も成功したのは、2009年に就任し、降格した2010シーズンにJ2優勝、翌2011シーズンにはJ1昇格即優勝という偉業を成し遂げたネルシーニョ監督(2009-2014、2019-2023)だろう。74歳という高齢とあって、本人もリタイアしていることから3度目の就任はならなかったが、間違いなく柏の歴史の中で最高の指揮官だ。サポーターも未だ、彼の幻影を追い求めている節がある。


ロドリゲス監督はクラブ初のスペイン人指揮官となるが、Jに精通しており、日本サッカーにアジャストするには適した人選といえる。問題は選手補強だ。FW細谷真大の引き留めには成功したが、MFマテウス・サヴィオが浦和に移籍し、未来の柏を引っ張る逸材であるFW升掛友護と、DF関根大輝も海外移籍を前提にクラブから離脱した。


16人の選手を放出し、17人が新加入したものの、サヴィオの穴を埋めるような外国人助っ人の獲得発表は未だにない。彼の代役を浦和から獲得したMF小泉佳穂に負わせるのは少々荷が重い印象だ。もちろん舞台裏ではロドリゲス監督からのリクエストはあるはずだが、その要望にフロントが応えることができるのか。このままの体制では今度こそJ2降格が現実のものになってしまうだろう。




松橋力蔵監督 写真:Getty Images

FC東京:松橋力蔵監督


期待度:★★☆☆☆


FC東京でJ参入以来最も長期政権を築いた監督は、原博実監督(2002-2005、2007)まで遡る。2021シーズン途中の長谷川健太監督の辞任以来指揮官の交代を繰り返し、その人選の一貫性の無さも目立つ。2022-2023シーズンに指揮したアルベル・プッチ・オルトネダ監督に続き、今シーズン再びアルビレックス新潟からの松橋力蔵監督を新指揮官に据えた。


新潟では、アルベル監督(2020-2021)が持ち込んだパスサッカーを松橋監督(2022-2024)がブラッシュアップさせ、相手が嫌になるほどボールを繋ぎ倒すスタイルを完成させた。しかし、得たタイトルは2022シーズンのJ2優勝と、昨2024シーズンのルヴァン杯準優勝のみだ。披露するサッカーは魅力的だが、タイトル奪取という目標にフォーカスすれば、FC東京のフロントは松橋監督の力量を少々買い被り過ぎているのではないだろうか。


引退したFWディエゴ・オリヴェイラの穴は、サガン鳥栖から獲得したFWマルセロ・ヒアンで埋めたものの、昨季のチーム得点王でアシスト王でもあったMF荒木遼太郎(レンタル元の鹿島に復帰)の穴は今のところ埋まっているとは言い難い。中盤の顔触れは、MF俵積田晃太やMF遠藤渓太、ブラジル人FWのエヴェルトン・ガウディーノと、突破力が武器のウインガーばかりだ。


14人もの選手を放出した割には、選手補強で出遅れている印象のFC東京。そもそも、松橋監督が志向するサッカーを司るパサーがいない点がネックとなりかねない。監督が理想とする戦術と在籍している選手とのミスマッチが目立つ。


このままの体制で2025シーズンに突入すれば、アルベル監督時の二の舞いとなることは容易に想像できる。そして、低迷した暁にはまた監督のクビをすげ替えるのだろう。「首都クラブ」としての存在感を示さなければならないFC東京だが、2020年天皇杯優勝以来のタイトル奪取への道は遠いと言わざるを得ない。




長谷部茂利監督 写真:Getty Images

川崎フロンターレ:長谷部茂利監督


期待度:★★★★★


2024シーズン大詰めの10月末にアビスパ福岡監督を勇退することを発表してから、水面下で争奪戦が繰り広げられていた長谷部茂利監督。新天地に選んだのは、今やJ屈指の強豪となり、タイトル奪取が義務付けられている川崎フロンターレだった。


現役時代の1997シーズン、当時JFLだった同クラブにヴェルディ川崎からレンタル移籍していたクラブOBなのだが、在籍はわずか半年間。その頃と比べた現在のクラブの立ち位置の違いに、長谷部監督本人が一番驚いているのでがないだろうか。


福岡では堅守を売りにしたチーム作りで、クラブ初のタイトル(2023ルヴァン杯)をもたらした長谷部監督だが、川崎で求められているものは正反対のサッカーだ。川崎は2012シーズン途中から風間八宏監督が築いた攻撃サッカーを鬼木達前監督が引き継ぎ、4度のJ1優勝(2017、2018、2020、2021)、2度の天皇杯制覇(2020、2023)、ルヴァン杯(2019)でも優勝し、黄金期を過ごした。実に8シーズンにも及んだ鬼木政権を受け継ぐタスクは簡単なものではないだろう。


しかし早くも長谷部監督は、川崎の問題点を「失点数の多さ」と指摘し、これを修正するべく3バックの採用も示唆している。また、ヘッドコーチにOBの長橋康弘氏を据えた一方で、元日本代表FW大黒将志氏をコーチとして入閣させるなど、新風を感じさせる。


現在のところ移籍市場では活発な動きを見せず、外国人補強もブラジル人DFセサル・アイダルのみだが、毎年のように続いていた主力の海外流出がなかったことで、戦力的には十分に優勝を狙える布陣だ。持ち前の攻撃力に、長谷部監督仕込みの守備力が加われば、川崎が再び優勝戦線に加わる期待感が高まる。


スティーブ・ホランド 写真:Getty Images

横浜F・マリノス:スティーブ・ホランド監督


期待度:★★★★☆


横浜F・マリノスでは、昨2024シーズン途中で解任されたハリー・キューウェル元監督の「代行」でジョン・ハッチンソン前監督が指揮をとり、新監督招聘は既定路線だった。同クラブが属するシティ・フットボール・グループのネットワークを見せ付けた格好で、スティーブ・ホランド監督がその任に就いた。


ホランド監督は、プレミアリーグの名門チェルシーではジョゼ・モウリーニョ元監督(現フェネルバフチェ監督)やアントニオ・コンテ元監督(現ナポリ監督)の下でヘッドコーチを務め、昨年まではイングランド代表ヘッドコーチとして、ガレス・サウスゲート前監督の右腕となり、2022年のカタールW杯や2024年のUEFA欧州選手権を戦った。


トップリーグでの監督経験のなさは気になるものの、その指導歴はJ史上屈指とも言えるキャリアを誇っている。指導してきたチームのレベルが高すぎて、日本のレベルに合わせられるのか心配になるほどだ。一方で、コーチ陣の多くは残留させる方向で、2018シーズンに就任したアンジェ・ポステコグルー元監督(現トッテナム・ホットスパー監督)から始まった「アタッキング・フットボール」は継承されるだろう。


昨2024シーズンは優勝争いどころか負け越して9位に終わった横浜FM。しかし一方で、AFCチャンピオンズリーグエリート2024/25では、グループA(東地区)首位を走っている。2月14日のJ1開幕に先駆け、2月12日に上海申花をホームに迎え撃つ。


DF畠中槙之輔やエドゥアルド、FW西村拓真ら16人が移籍していく一方で、これまで発表された新戦力は、川崎フロンターレから獲得したFW遠野大弥、サガン鳥栖からの出戻りとなるGK朴一圭くらいで動きが遅い印象だが、そこはシティ・グループの一員。とんでもないビッグネームが加入してくる可能性もあるだろう。


ACL2023/24で決勝進出しながらアル・アイン(UAE)に合計スコア3-6の惨敗に終わった悔しさを晴らすためにも、今季からスポーティングダイレクター(SD)に就任した西野努氏の手腕にも注目だ。




アルビレックス新潟 写真:Getty Images

アルビレックス新潟:樹森大介監督


期待度:★☆☆☆☆


アルビレックス新潟を魅力的なチームに仕立てた松橋力蔵前監督の後任として指名された樹森大介監督。この名前を聞いて「誰?」と感じたのは新潟サポーターだけではないだろう。


それもそのはず、樹森監督の現役時代のJ1での実績は、2000-2002に所属した湘南ベルマーレのみ。しかもレギュラーを奪取できずに、キャリアのほとんどをJ2(水戸ホーリーホック、ザスパ群馬)で過ごし、群馬県リーグ1部のtonan前橋で引退した。その間にはオファーがなく浪人生活も経験している。


2012年から水戸の育成年代の指導を任され、S級コーチライセンスを取得し、昨季までトップチームのコーチを務めていた樹森監督は、就任会見で「突然のオファーにビックリした」と正直な感想を口にした。


寺川能人強化部長は「育成を経験した新しい監督を日本サッカー界に出したかった」と大抜擢の意図を説明。樹森監督も「選手を成長させ、チームを成長させることが一番のストロング」と胸を張ったが、何しろ監督初経験がいきなりのJ1クラブだ。どんなサッカーをするのかも、開幕してみないと何も分からないというのが正直なところだ。


昨季、レンタル先のJ2藤枝MYFCで16得点を上げたFW矢村健や、オーストラリア代表DFジェイソン・カトー・ゲリアら13人もの新戦力を揃えた強化部門は満点に近い仕事をしたが、この戦力を新米監督が使いこなせるかは未知数だ。場合によっては大コケの危険性をはらんでいるが、その際の“保険”として、昨季、高知ユナイテッドをJ3に導いた吉本岳史氏をヘッドコーチに据えたという見方もできる。




アーサー・パパス監督 写真:Getty Images

セレッソ大阪:アーサー・パパス監督


期待度:★★★★☆


セレッソ大阪に就任したオーストラリア人指揮官のアーサー・パパス監督は、横浜F・マリノスでヘッドコーチ(2019-2020)を務め、2021年、当時J3の鹿児島ユナイテッドで監督に就任したものの、家族の体調不良とコロナのパンデミックによって帰国を余儀なくされた過去を持つ。


その後も母国のニューカッスル・ユナイテッド・ジェッツや、タイを代表するビッグクラブのブリーラム・ユナイテッドの監督を歴任。ブリーラムは現在タイ・リーグ1の首位で、AFCチャンピオンズリーグエリート、タイFAカップ、ASEANクラブチャンピオンシップ(ACC)にも出場しているが、C大阪の熱烈なオファーに応えた形だ。


チームの顔だったMF清武弘嗣をはじめ、FWレオ・セアラ、MFカピシャーバなど15選手を放出した一方、横浜FMからDF畠中槙之輔を完全移籍で獲得、J2のベガルタ仙台からFW中島元彦をレンタルバックさせるなどツボを押さえた補強で、虎視眈々とタイトル奪取を狙う。


パパス監督は、ジェフユナイテッド市原(1997-1998)を指揮したオランダ人指揮官のヤン・フェルシュライエン監督に師事しており、「プロアクティブ(先手を打って能動的に行動すること)であれ」という哲学を持っている。まだ44歳ながら、「16歳からサッカー指導者の勉強を始めた」という知将でもある。


梶野智統括部長が「9番と11番のポジションにも新外国人選手を獲得する」と語り、さらなる補強を明言しているC大阪。歯車が嚙み合えば“大化け”の可能性を秘めている。




金明輝監督 写真:Getty Images

アビスパ福岡:金明輝監督


期待度:★☆☆☆☆


まだ1試合もしていないにも関わらず、就任の噂の段階でこれほどまでに叩かれるケースは前代未聞だろう。それほどまでに、アビスパ福岡の金明輝新監督就任は論争を引き起こした。


最大のサポーターズグループ「ウルトラオブリ」の反対声明に始まり、大手スポンサーの明太子メーカー「ふくや」の契約満了、果ては運営資金面でサポートしている福岡市にまで抗議の声が届くなど、J史上、前例がないほどの嫌われっぷりだ。


その原因は、金監督が昨季“ヒール”としてJの話題を独占した町田ゼルビアのヘッドコーチだったことに加え、隣県のライバルのサガン鳥栖監督時代(2018-2021)、トップチームのみならずユース選手にまで暴力を振るっていたことが明るみになり、日本サッカー協会(JFA)初となるS級コーチライセンス剝奪(A級への降格)と1年間の研修、社会奉仕活動の処分が下されたことにある。


フロントはこうした声を跳ね除け、金監督就任を正式決定。さらに強化部門は、鹿島アントラーズからMF名古新太郎、東京ヴェルディからMF見木友哉を獲得。加えてU-18チームから、陸上100メートルと200メートルで日本歴代2位の記録を持つサニブラウン・アブデル・ハキームの弟であるFWサニブラウン・アブデルハナンを昇格させ話題を呼んだ。


クラブからこれほどまでのバックアップを受けた以上、言い訳は通用しない。「6位以上を目指す」と宣言したことで、金監督は結果で見返すしかないだろう。


しかし、チームの始動早々報道陣の目は、選手ではなく金監督の一挙手一投足に注がれ、新加入選手への取材でも監督の印象についての質問が集中した。金監督はこうした取材に対しても殊勝に対応したが、内心穏やかではなかったはず。因果応報とはいえ、サッカーに集中できない環境に置かれたことで、チーム作りへの悪影響も心配される。


長谷部前監督がルヴァン杯制覇という偉業を達成したことで、自ずとサポーターからの要望も高くなっている中、このオファーを受けた金監督の向上心には感心させられるが、反対を叫び続ける一部のサポーターや、何かにつけて選手や監督から暴力事件についてのコメントを引き出そうとするメディアとも闘わなければならない。チームの成績どうこうの前に、メンタルが先に潰れてしまう可能性もある。

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