U-21日本代表MF山本理仁 スランプ乗り越え“ヴェルディっ子”が取り戻した最高の笑顔と喜び

2022年3月30日(水)20時27分 サッカーキング

表彰式後、喜びを見せた山本 [写真]=松尾祐希

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 楽しそうにボールを蹴る山本理仁を見たのはいつ以来だろう。とにかく練習中も試合中も笑顔が絶えない。自信に溢れる生粋の“ヴェルディっ子”はプレーする喜びを噛み締めながら、最後までピッチを縦横無尽に駆け回っていた。

 U−21日本代表は大岩剛監督就任後初の海外遠征となるドバイカップで3連勝を飾り、無失点で優勝という最高の結果で帰国の途に着いた。クロアチアとの初戦とサウジアラビアとの優勝決定戦でキャプテンマークを巻いたMF藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)や、最終戦で決勝ゴールを挙げたFW細谷真大(柏レイソル)など、印象に残った選手は多い。ただ、誰よりも楽しそうにボールを蹴っていたのは山本だった。だからこそ、最高のパフォーマンスが引き出されたのだろう。

 山本はパリ五輪世代の主軸候補として、早くから注目を集めた逸材だ。各年代で世代別代表に常時招集され、昨年5月に開催予定だったU−20ワールドカップ(新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止)でも中盤の柱として期待されていた。ただ、周囲の期待とは裏腹にプロ入り後の歩みは苦難の連続。東京ヴェルディのトップチームに昇格を果たした高校3年生の時から出場機会を得た一方で、本来の良さが見られる場面が徐々に減った。左足のキックを生かした展開力、ゲームの流れを読む眼、アイデアに溢れる一本のパス。自由でクリエイティブなプレーが持ち味だったが、ほとんど見られなくなってしまったのだ。

「正直、悩んでしましたね。サッカーをやっていても楽しくなかったし、守備に対する悩みもあった。アンカーとして守備はやらないといけないけど、自分の持ち味である攻撃面を発揮するためにはそうすればいいか悩んでいた」

 一言で括ってしまえば、プロの壁に当たっただけなのかもしれない。だが、当時は解決する術が分からなかった。

 昨季の途中まではチーム事情で本職のアンカーやインサイドハーフだけではなく、左SBやCBを務める試合も少なくなかった。求められる役割はポジションで異なる。さらに苦手な守備に対する意識を高め過ぎたが故に、思い通りのプレーができなくなってしまう。噛み合わない時期が続き、山本から笑顔が消えた。

 何をやってもうまくいかない。負の無限ループに陥った山本は昨年の代表活動でも険しい顔が目立っていたように思える。

「去年までの代表活動では『なんか代表できっかけを掴んでやろう』という想いが強くて…」

 藁をもすがる想いでプレーし、きっかけを掴むためにもがき続けた。だが、浮上しようとすれば、その分だけ深みにハマっていく。そんな日々を過ごす中、スランプを抜け出すヒントは身近なところにあった。

 きっかけは昨季の終盤だ。アンカーのポジションに固定され、真ん中でプレーすることで以前の感覚を呼び起こしていく。実戦の中で一つずつ確認すると、その積み重ねは今季に入って爆発した。開幕からレギュラーとして起用されると、水を得た魚のようにプレー。攻撃を牽引するだけではなく、課題の守備でも献身的に振る舞う姿が見られ、プレーヤーとして一皮剥けた。

「最近は(攻守において)すごく良いバランスでやれるようになった。ヴェルディでボールが持てるようになり、より攻撃に絡めるようになってさらにサッカーが楽しくなってきた。今ならゴールが取れそうな気がするし、ラストパスの感覚もすごくいい。やっていて本当に楽しいですね」

 充実した状況で参加した今回のドバイカップ。初出場となったカタールとの第2戦では途中出場ながら、周囲の度肝を抜くジャンピングボレーを突き刺した。

「(カウンターに対して)リスクがあるポジションだったので、とりあえず打って終わる。もし打てなくても相手を潰す。そう割り切ったのが良かった」

 悩んでいた去年までの山本であれば、こんなにも思い切ったプレーはできなかっただろう。先発したサウジアラビアとの第3戦でも、山本は凄まじいパフォーマンスだった。攻撃はもちろん、守備でも成長した姿を披露。とりわけ、印象的だったのは終盤だ。チームメイトの足が止まり、サウジアラビアに押し込まれる。誰もが帰陣が遅くなり、それぞれのポジションに戻れない。それでも山本は疲れた身体に鞭を打って走り、最終ラインの前で防波堤となり続けた。

「当たり前にやっただけ」。涼しい顔で言い切った山本にとって、今までの積み重ねが確信に変わった瞬間でもあった。

「自然体でプレーするのが一番良いんですよね。サッカー選手をやっている以上、うまくいかない時はあるけど、気にせずにやればいい」

 リヒトという名前の由来は、ドイツ語で“光”を意味する『Licht(リヒト)』。パリ五輪、その先のA代表に続く道は険しいが、ドバイで得た手応えは揺るがない。出口の見えないトンネルの先にあった光はきっと飛躍の道標になる。

取材・文=松尾祐希

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