【復興へのプレーボール(3)】門前高校 球児たちの震災と能登半島の今

2024年4月22日(月)11時30分 スポーツニッポン

 甲子園の名将として知られる星稜の山下智茂元監督(79)が「野球指導アドバイザー」を務める石川県輪島市の石川県立門前高校野球部に20人の新入生が加わった(4月19日現在)。能登半島地震の復旧、復興に向ける地域にとっては願ってもいない入部希望者で、2、3年生を含めると60人が「地域おこし軍団」として甲子園出場へのスタートラインに立った。スポーツニッポンでは密着動画とともに、チームをクローズアップする。

 門前高校入学式(4月8日)の前日、震災時に大規模な火災が発生した輪島市朝市周辺を取材した。同じ市内門前町から車ならば30分足らずの場所だが、通行止めが解除されていない国道249号を迂回しなければならず、たまたま前を走っていたのがパトカーだったこともあり安全運転を心掛けたら1時間近くかかった。

 輪島市の市街地に入ると透き通った海と焼け焦げた街の風景が同時に目に飛び込んでくる。火災に巻き込まれた車両はすでに錆びはじめ、店があったであろうそれぞれの区画には花束が手向けられていた。喪服姿の家族連れもいた。大勢の犠牲者を出した場所は、まだ発生直後と何も変わらず、時折冷たい潮風が肌を突き刺した。

 いまだにこれからの生活をどうしたらいいか分からず、苦しんでいる人たちがたくさんいる。復興と言うよりはむしろ復旧に向け必死に戦っている被災地の今、その現実はちょっと離れた金沢市まで車を走らせるだけで感じさせることはなかった。

 山下氏の3シーズン目を目前に発生した能登半島地震は容赦なく選手たちの日常も奪った。犠牲者は出なかったが、自宅が全壊し現在でも親戚や知人宅などから通学する選手もいる。選手たちが集まって練習を再開できたのは3月中旬からだった。校舎の一部や使用中だった輪島市門前野球場の改修が進まないなど震災の影響はまだあるが、生徒寮に関しては断水も解消され、同市や関係者たちが一体となって入学式に間に合わせた。

 そんな中で20人の新入生が入部した。札幌から入寮した横田智哉選手は「震災のニュースを見て本当に野球できるのかなとは思ったが自分がボランティアなどできることをやりたいと思った」。母・みきさん(49)も「元日のニュースを見たときはショックが大きかったが、このような状況で野球を頑張ることで人間的にも成長してくれると思う」と愛息の活躍を期待する。

 山下氏は「今年の一年生は技術的にはまだ下手だが精神的にはいいものもっている」。強豪ひしめく石川での戦いは決して平坦ではないが「地域おこし軍団」が被災地の夢を背負い、野球と向き合う準備は整った。(写真映像部 高橋雄二)

スポーツニッポン

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