【復興へのプレーボール(2)】門前高校 山下智茂氏の人間教育は健在!

2024年4月22日(月)11時0分 スポーツニッポン

 甲子園の名将として知られる星稜の山下智茂元監督(79)が「野球指導アドバイザー」を務める石川県輪島市の石川県立門前高校野球部に20人の新入生が加わった(4月19日現在)。能登半島地震の復旧、復興に向ける地域にとっては願ってもいない入部希望者で、2、3年生を含めると60人が「地域おこし軍団」として甲子園出場へのスタートラインに立った。スポーツニッポンでは密着動画とともに、チームをクローズアップする。

 午前4時45分、まだ車のヘッドライトなしでは歩くことさえできない早朝に、1年生17人が生活する輪島市門前町の寮から山下氏が出てきた。両手を大きく動かしながらストレッチすると、早足で1時間以上たっぷりとウォーキングした。「60年間4時45分に起きている。朝が勝負ですからね」。車で追いかけようとした記者が途中見失うほど軽快な足取りだった。

 80歳を目前にしているとは思えない体力とオーラを放つ。自宅のある金沢市から門前町に来て週3日、4日は選手と同じ寮に宿泊しながら指導を行う。普段は2、3年生中心のAチームを指導する山下氏のアドバイスを1年生が受けようとするためには、やはり朝が勝負だった。今年は札幌や長野など県外にもおよび新たに17人が入寮したが、午前5時半、寮から眠い目をこすりながら外に出てきた選手たちは誰に言われるまでもなく黙々とバットを振り続け、その時を待った。満開のサクラの木の中から聞こえてくるウグイスのさえずりとバットが空を切る鋭い音が、周囲の山々に心地よくこだまする。そして山下氏の足音が聞こえてきた瞬間、道路側に一番近いところで素振りしていた選手が「おはようございます」と第一声を上げた。この日自主練習に出てきていたのは6人。選手は続けて深々とおじぎをして、山下氏が自分のところに回ってくる時を待った。

 体の使い方、バットの振り方、スタンスの取り方、身振り手振り、時には選手の頭や腕を優しくリードしながら熱血指導が始まった。「山下先生に教えてもらいたくて門前に来ました」。そう口をそろえていた選手たちにはまさに至福の時間なのだろう。選手たちの眠そうだった目はギラギラと輝いていた。円陣の中心にいた山下氏の言葉が響いた。「甲子園に出るチームはどんぶりを毎日10杯は食っている。1日に(バットを)1000本振っているよ。だから体が大きいやろ」師は続けた。「人間っていうのは全部成功なんてことは絶対あり得ない。だから失敗した後が大事。どういうふうに自分が変化するか」。

 一生懸命の1年生たちが寮に戻ると山下氏は私の耳元でささやいた。「早く甲子園に行って町おこししなければいかんな」。照れ笑いの中に鋭く光った眼差しがまぶしかった。取材がすべて終わった時に私の時計は午前6時20分を回っていた。「朝が勝負だから」。ウグイスがまた1羽やってきた。重なり合うさえずりが門前高校ナインの応援歌に聞こえていた。(写真映像部部長 高橋雄二)

スポーツニッポン

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