「リスクを冒すか、否か」。5年ぶりのル・マンに挑むトヨタ平川亮が感じる“難しさ”と、初体験の“驚き”

2022年6月8日(水)10時8分 AUTOSPORT web

 ル・マン24時間テストデーの8時間を、大きなトラブルなく終えたトヨタGAZOO Racing。テストから2日経ち、レースウイークの走行開始を翌日に控えた現地時間の7日昼、チーム代表兼7号車ドライバーの小林可夢偉、8号車ドライバーの平川亮が、リモート形式の会見で日本メディアの質疑に応えた。


■トラブル原因のコンバータは「マレリに持ち込んでチェックした」


 今季から8号車のレギュラードライバーに抜擢された平川は、2016年と2017年にはLMP2クラスからル・マン24時間に出走した経験を持つが、GR010ハイブリッドでのサルト・サーキット走行はこのテストデーが初めて。どんな感触を得たのだろうか。


「自分としては2017年以来、5年ぶりだったのですが、事前にシミュレーターなどで準備をしてきたおかげですぐにコースにも慣れることができました。GR010では初めて走ったのですが、非常に乗りやすくて、乗っていて楽しいなという印象です」


 現在のGR010ハイブリッドはBoP(性能調整)が入っていることもあり、2017年当時のLMP2とラップタイムで見れば近いところにいる。当時のLMP2との比べると、「(GR010は)車重が重たいので、低速コーナーとかは、その当時と比べるとちょっと難しさはある」と平川。


「でも、高速コーナーだったり、トップスピード、ブレーキングなどでは、全然パフォーマンスが高いです」


 これまでも中嶋一貴(現・TGR-E副会長)らトヨタのドライバーは「ここを走ると、『このクルマはル・マン向けに作られているんだなと感じる』という趣旨のコメントを毎年のように口にしてきたが、平川も同様の感触を得たようだ。


「他のサーキットとは全然クルマの印象が違うな、と」平川は感じたという。


「自分が想像していたよりもクルマの限界が高くて、とくにバックストレートでのブレーキングとかの、いわゆるビッグ・ブレーキングでは結構突っ込める、アタックできる印象があり、そこはすごいポジティブに考えています。もちろん、夜だったり、タイヤが減ってきたりすると、少し厳しくなるとは思いますが、そこは結構びっくりした部分です」

6月5日、テストデーでル・マンのサルト・サーキットを走る2台のGR010ハイブリッド


 一方、平川がテストデーで難しく感じたのはトラフィック、とくにLMP2の処理だという。


 テストデーでの最高速ランキングをみると10km/hほどトヨタが速いものの、LMP2首位車両とのベストタイムの差は約2秒。サルト・サーキットの1周が13kmということを考えれば、通常のコースならおよそ1秒以内にいることになる。タイム差が少なければレース中のオーバーテイク回数は減るものの、当然ながら1回1回の追い抜きは困難になる。


「そこはかなり難しいな、という印象です」と平川。


「一般道区間は2車線しかないですし、300km/h以上で走ったりするところもありますし、誰が乗っているかなどを判断して抜く・抜かないを考えなきゃいけなかったりとか……」


「トップスピードは多少こちらにメリット(優位性)があるのですが、なかなか簡単に抜くことはできなくて、少しリスクを冒すか冒さないか、みたいな(判断に迷う)場面はテストデーでもありました。そこに自分がもう少し慣れ、正しい判断ができるように、レースまでには準備していきたいと思っています」


 このトラフィックに関しては可夢偉も同様に感じているようで、「去年の方がちょっと楽だったかなという気はする」と語っている。


「僕らがBoPで遅くなって、タイム差は去年よりも小さくなっているので、それは仕方ないかなというところですね」

自転車でコース下見を行う可夢偉。8号車のクルーが念入りに下見を行ったことで、7号車クルーは下見を完遂することができなかった、という逸話もふたりから明かされた。


 今年からチーム代表を兼ねる可夢偉には、第2戦スパでのトラブルの原因と、その対策についての質問も飛んだ。既報のとおり、この8号車を襲ったトラブルについては、高圧コンバータに関連する故障が原因だったことを、チームのテクニカル・ディレクターであるパスカル・バセロンが明らかにしている。またそのパーツは“ほぼ新品”の状態であった。


「DC/DC(コンバータ。直流から直流へ、バッテリーの高い電圧を低電圧へと変換する)の問題については、開けてみて、原因は分かりました」と可夢偉。


「どちらかというと製造側に不具合があるという問題だったので、TGR-EにあるDC/DC(コンバータ)を全部マレリに持っていって、開けて、再チェックしたものを今回ル・マンに持ち込んでいます」


■まだ秒単位でタイムは上がる。重要なのは“路面の読み”


 テストデーでは7号車のホセ・マリア・ロペスがトップタイムをマークしたものの、2番手グリッケンハウスとは僅差。トヨタは今季開幕戦から続く、フロントのハイブリッド・モーター作動可能領域“190km/h”というBoPが、このル・マンでも継続している。


 これについて可夢偉は、「このサーキットで、コーナリングで190km/以上という面では、スパほど大きなダメージは感じない。ダメージはもちろんあるものの、まだル・マンなら、もうちょっと力出せるのかなという感じはします」と語っている。


「路面がどうなっていくか、雨があるか、他のカテゴリーがどれくらい走るかで路面のでき具合が変わるし、ル・マンでは風向きでも大きく変わる。だから、現段階では予選のタイムは読めません。ただ、秒(単位)で上がるのは間違いないですね」


 ル・マンウイークの戦い方を知る可夢偉は、この“路面の読み”こそが、8日から始まる走行では、大事になってくると強調する。


「路面をしっかり読むことですね。この先どういうふうに上がっていくのか。だから、いまあんまり慌てないっていうのもすごい大事で、早い段階で合わせてクルマが良かったのに、そこからだんだん駄目になっていって、レースのときに全然駄目……というのはまずいので、 路面がどう上がるかを見ながら、クルマを合わせていければなと、僕は思ってます」


 レースウイーク走行初日の8日は、3時間のフリープラクティス1、1時間の予選、2時間のフリープラクティス2(ナイトセッション)が行われる予定だ。

7号車トヨタGR010ハイブリッドをドライブする小林可夢偉。2022年からはチーム代表も兼任
サルト・サーキットでのオートグラフ・セッションに出席する平川亮

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