強さは冷静な判断力と理解力。5度目の王者獲得に邁進する“アイスマン”ディクソン

2018年7月27日(金)0時2分 AUTOSPORT web

 スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)がトロントでのインディカー・シリーズ第12戦でシーズン3勝目を挙げた。勝ち星でジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)に追いつき、今シーズンの最多タイに並んだ。


 ポイントリードはすでに第10戦終了時からディクソンのものになっている。しかも、今回彼が優勝したのに対し、ニューガーデンは9位フィニッシュ。ふたりのポイント差は33点から62点に開いた。ディクソンは5度目のチャンピオンに着々と歩みを進めている。


 ニュージーランド出身のディクソン。元イギリス領とあって目指したのはF1だったが、「通貨レートが厳しく、渡欧しての活動は難しいと判断し、アメリカを目指した」と1999年、元F1ドライバーのステファン・ヨハンソンがオーナーのチームからインディライツに出場し1勝を挙げた。


 翌2000年はパックウェスト・レーシングに移籍してインディライツに引き続き参戦、12戦6勝の圧倒的パフォーマンスでチャンピオンに輝いた。そして、その活躍によってチーム内でインディカーへと昇進。


■チップ・ガナッシで歩んだ17年


 デビュー3戦目にして当時のCART史上最年少ウイン(20歳9カ月14日)を達成。しかし、大富豪がオーナーのチームだというのに存続が危うくなり、2002年シーズン途中からパックウェストはガナッシに吸収されたようなカタチになって、ディクソンはケニー・ブラック、ブルーノ・ジュンケイラとともにガナッシの一員という扱いになった。


 この時、ディクソンの才能に高い評価を与えていたのがエンジンサプライヤーだったトヨタだという。「おかげでガナッシで走り続けることができた。感謝の気持ちは今も忘れない」とディクソンは後に話していた。

2003年のインディ500を戦うスコット・ディクソン


 2003年にガナッシはインディ・レーシング・リーグに完全スイッチし、ディクソンが初タイトルを獲得。今年で彼らの関係は17年目になる。彼らはこの間にインディカー史上3番目にランクされる44勝を共に挙げてきた。


 この数字はどこまで伸びるだろう。彼は今週末のミド・オハイオでの第13戦を前に38歳を迎えた。

2008年にはインディ500を初制覇


 ディクソンがチームを移る話は一度だけあった。チーム・ペンスキーでインディカー・チャンピオンになり、インディ500でも優勝したブラジル出身のジル・ド・フェランがアキュラ(ホンダ)とスポーツカーレースを戦うために作ったチームが、インディカーにも進出しようという時だ。


 2009〜2010年の話。ディクソンは耐久レースに彼らのマシンで出場していた。しかし、最終的にディクソンはガナッシを離れることを思い止まった。それは正解だった。マクラーレンが来年以降にインディカーへと進出するが、その時にはディクソンを獲得する……なんて噂もあるが真実味は薄い。


 ブルース・マクラーレンと同じニュージーランド出身ということだけでこしらえられた情報という気がする。フェルナンド・アロンソがアメリカでレギュラーとして戦うのか、インディ500だけのスポット参戦を続けるのかはわからないが、彼のトリプルクラウン達成にディクソンは利用されるべきではない。


■通算44勝を挙げる“アイスマン”


 ディクソンの強さはどこにあるのか? それは、バトルすべき時とそうでない時の判断が冷静かつ的確であるところだ。


「ディクソンは脅かせば引っ込む」など口にする者もあるが、必要な時に驚異的な集中力と実行力を発揮してきたからこそ、44勝もして4回もチャンピオンを獲得している。常にアグレッシブに走っていればいいというものではない。


 元チームメイトで、今はガナッシのフォード・チームでGTマシンを走らせているライアン・ブリスコはIMSAライムロックでディクソンの強さの源について聞いて見た。


「まず、鍛え抜かれたアスリートである。次にインディカーのコースを知り尽くしている。ガナッシで長いこと走っているからチームを熟知しているし、チームも彼のことを深く理解している」


「そして、彼はコース毎にどんなマシンが速いのか、どんなドライビングスタイルが適しているかを知っている。マシンが変わっても、それらの点でライバルを上回る理解度があるから、コースだけでなく、様々な状況に合わせた戦い方を展開することが可能なんだ」とブリスコは説明してくれた。

トロントで通算44勝目を挙げたディクソン


 トロントがまさにその通りのレースになっていた。ニューガーデンはリスタートでタイヤかすを拾ってクラッシュしたが、その時2番手を走っていたのがディクソン。彼はまんまとトップに立つと、2位以下を突き放して優勝した。


 序盤に無理なアタックを仕掛けてニューガーデンを抜く必要はなく、トップに立った後は単独走行でもプッシュ・トゥ・パスをストレートなどで短く使いながら後続との距離を、相手がアタックして来ようなどと考えない距離に保ち続けるスマートな戦いぶりでゴールまで走り切った。


 今のディクソンの弱点はチームメイトだ。インディカー2年目のエド・ジョーンズではクォリティの高いフィードバックは期待できない。チーム・ペンスキーが3人なのに対し、ディクソンは孤軍奮闘ということ。それでも彼は今年のタイトル獲得の現在最有力候補だ。


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