なでしこ、ノルウェーのシステム[5-4-1]をいかに攻略したか【女子W杯】

2023年8月6日(日)19時0分 FOOTBALL TRIBE

日本女子代表 写真:Getty Images

なでしこジャパンことサッカー日本女子代表は8月5日、2023FIFA女子ワールドカップ(W杯)オーストラリア&ニュージーランド大会ラウンド16でノルウェー代表と対戦。最終スコア3-1で勝利し、準々決勝に駒を進めた。


今大会4試合目にして初失点を喫したものの、落ち着いた試合運びで勝利を手繰り寄せたなでしこジャパン。いかにしてノルウェー女子代表の守備ブロックを攻略したのか。ここではこの点を中心に解説していく。




日本女子代表vsノルウェー女子代表、先発メンバー

攻守で異なったノルウェーの布陣


この日のノルウェー代表は、攻守で異なる布陣を採用。マイボール時はMFイングリッド・シルスタッド・エンゲンを中盤の底に据えた[4-1-2-3]で、ボールを失うやいなや同選手が最終ラインに入り、[5-4-1]の守備ブロックを組んでいた。


ノルウェー女子代表は守備時に[5-4-1]へ隊形変化

お馴染みの[3-4-2-1]の基本布陣でこの試合に臨んだなでしこジャパンは、[5-4-1]の守備隊形を敷いたノルウェー代表に対しボールを保持。ノルウェー代表の面々が自陣へ撤退したため、高橋はな、熊谷紗希、南萌華のDF陣(3バック)がフリーでパスを捌ける場面が多かったほか、長谷川唯と長野風花の両MF(2ボランチ)も相手の1トップの両脇に立ち、攻撃の起点に。このうえで、なでしこジャパンはサイドからの局面打開を試みた。




日本女子代表 MF宮澤ひなた 写真:Getty Images

[5-4-1]崩しのセオリーを実践


ノルウェー代表は5バックと4人の中盤の間を懸命に狭めていたが、この強固な守備ブロックを破るのに一役買ったのが、遠藤純と宮澤ひなたの両MF。この2人がノルウェー代表のウイングバックとサイドハーフの中間エリアに隙あらば立ったため、相手の守備の混乱を引き起こした。


前半6分、左ウイングバックの遠藤が相手DFテア・ビエルデ(右ウイングバック)とFWキャロライン・グラハム・ハンセン(右サイドハーフ)の中間エリアに立ち、宮澤からのパスを受ける。この直後に遠藤が敵陣ペナルティエリアへ低弾道クロスを送ったことで、なでしこジャパンがチャンスを迎えた。


前半15分のなでしこジャパンの先制ゴールも、ビエルデとC・G・ハンセンの間に立って味方のパスを受けた宮澤のクロスから生まれている。ペナルティエリア内にいたMFエンゲンがこのボールをクリアしきれず、ノルウェー代表のオウンゴールとなった。


遠藤と宮澤が、ビエルデとC・G・ハンセンの間を突いた

サイドバック(ウイングバック)とサイドハーフの中間エリアに相手プレイヤーが立つと、この選手のマークをどちらが担うのかの判断が遅れやすく、役割分担も曖昧になりがち。前半6分と15分のノルウェー代表は、まさにこの状態に陥っていた。


[5-4-1]崩しのセオリーとも言える先述の遠藤と宮澤のポジショニングと、ここを起点とするサイド攻撃でゴールを挙げてみせたなでしこジャパン。この理に適った各選手の立ち位置とパスワークは、今後も同代表の武器となるだろう。


南萌華(左)遠藤純(右)写真:Getty Images

勝ち越しゴールのきっかけを作ったのは


前半20分、なでしこジャパンはノルウェー代表のゴールキックのこぼれ球を回収できず、速攻を浴びてしまう。MFビルデ・ボー・リサのクロスにヘディングで合わせたMFグーロ・レイテンに同点ゴールを奪われたが、その後は落ち着いてボールを保持し、相手の隙を窺った。


迎えた後半5分、DF南がセンターサークル内から左サイドの遠藤にロングパスを送る。するとノルウェー代表の5バックと4人の中盤の間が開き、このスペースを宮澤と長谷川が突くと、ボールが敵陣ペナルティエリアに到達。相手MFリサに一度ボールを回収されたものの、同選手の軽率なショートパスをカットしたDF清水梨紗がゴールエリア付近でシュートを放ち、勝ち越しゴールを挙げた。


僅かに開いた相手の5バックと中盤の間を突いた長谷川と宮澤。一時的に左サイドへ流れ、相手の右サイドハーフC・G・ハンセンとDFマレーン・ミエルデの注意を引きつけたMF藤野あおば。相手の安易なパスを見逃さなかった清水。彼女たちも然ることながら、南も称えられるべきだろう。同選手のサイドチェンジのパスによってノルウェー代表の守備ブロックが横に揺さぶられ、陣形のスライドが間に合わなかった。


DF高橋からのサイドへのロングパスは前半からアクセントになっていたが、ここでは同じくセンターバックの南が攻撃の起点となっている。相手が[5-4-1]の布陣での撤退守備を行った場合、センターバックがフリーになるケースが多いが、この現象を活かした攻撃をなでしこジャパンは繰り出せていた。南のロングパスが、勝ち越しゴールのきっかけとなったのは間違いない。




日本女子代表 MF長谷川唯 写真:Getty Images

十八番となったなでしこの堅守速攻


ノルウェー代表が同点ゴールを求め前がかりになった試合終盤、なでしこジャパンは今大会グループステージから磨き上げてきた[5-4-1]の布陣での撤退守備へ移行。後半36分、相手のロングボールの回収から始まった速攻を宮澤が結実させ、試合の趨勢が決した。


[4-1-2-3]の布陣を軸にボールを保持したノルウェー代表に対する、なでしこジャパンの前線からの守備は概ね機能。FW田中美南が相手センターバックから中盤の底エンゲンへのパスコースをまめに塞いだほか、相手の強引な縦パスへの長谷川と長野の2ボランチの反応も素早く、中央突破を許さなかった。


堅守速攻の完成度が高く、自陣に引きこもる相手の攻略も苦手としない。多彩な戦術で8強入りを果たしたなでしこジャパンが、今大会でさらなる飛躍を遂げるかもしれない。

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