「最初で最後」とスパ24時間に臨んだ富田竜一郎「日本より深く追求する」姿勢の影響と、“後輩”たちの未来

2021年8月12日(木)11時36分 AUTOSPORT web

 スーパーGTやスーパー耐久といった日本国内のレースに留まらず、2020年にはベルギーのチームWRTから、アウディR8 LMSを駆ってGTワールドチャレンジ・ヨーロッパのスプリント・カップへ初挑戦した富田竜一郎。2021年はスプリント・カップに加えエンデュランス・カップにも活動の場を広げ、先日はGT世界最高峰ともいわれるトタルエナジーズ・スパ24時間レースへ念願の初出場も遂げている。


 そんな富田に、ヨーロッパを舞台に戦う心境や今後の目標を聞くことができた。

WRTからスパ24時間に参戦した富田竜一郎


■WRT派遣エンジニアの“忘れられない一言”


──念願だったスパ24時間レースを終えてのご感想をひとことお願いします。


富田:WRTというファクトリーチームに限りなく近いチームに日本人が所属し、このスパ24時間レースに参戦するということは非常にハードルが高く、それを実現させてくれた周りの方々にとても感謝をしています。シルバークラスとはいえ、リードドライバーとして参戦できたことは非常に良かったと思っています。


──激しいレースを無事に完走。来年はさらに上位を目指してリベンジする予定でしょうか?


富田:来年参戦できるかどうかは、正直のところいまは分かりません。今回が最初で最後という気持ちで挑んでいただけに、完走できたことは喜ばしいですが、その一方ではすごく残念な気持ちでいっぱいです。


 ただ、このスパを迎える前のシリーズ戦のなかでトップドライバーたちと互角に戦えていたことは間違いないので、スパへ来てもちゃんと戦えるペースを示せたことは、自分にとっての大きな自信につながりました。

GTワールドチャレンジ・ヨーロッパ第6戦ミサノのレース2でシルバーカップ初優勝を飾った富田竜一郎/フランク・バード組(チームWRT)


──メーカーサポートのない日本人ドライバーとして、このスパ24時間レースで感じたことは?


富田:日本人としての挑戦が、僕で終わって欲しくないですね。仮に僕がいつかレースを辞めたとしてもヨーロッパや世界へ挑戦する日本人の後輩たちが続いてくれることを願ってやみません。


 日本国内のレースに出続けることもとても魅力的ですし、素晴らしいことには間違いありません。しかし、もう少し広い視線を持ってレースに出ることによって、世界が広がるのではないかと思います。なぜなら僕自身がとてもそれを感じたからです。


 スーパーGT500やスーパーフォーミュラのドライバーを目指すというのは凄いことで、僕にはなし得られないことです。しかし、たとえそのシートを得ることができなくとも、他にも違った大きな道があることを、僕が示せたらいいなと思っています。


 僕のような活動をするドライバーはあまりいないと思いますので、後輩たちがその道を辿れるようにするためにも、僕がきちんと軌跡を残すことが一番大切なのではないかと思います。


 今季はGTワールドチャレンジのスプリント2戦、エンデュランス2戦が残っていますので、よいレースをして結果を出せるようにしたいと思います。


──昨年から主にヨーロッパへと活動の拠点を移されましたが、レースに対する気持ちは変わりましたか?


富田:気持ち的には「まったく変わった」と言ってもウソではないと思います。


 言葉でうまく表現をすることが難しいのですが、いままではひとつひとつを無理やり自分ひとりでまとめ上げようとしていたところがありますね。自分がやりたいこととチームが目指すことが、必ずしも一致する時ばかりではありませんでした。


 しかし、ヨーロッパのレースに参戦したことによって、レースを楽しむ、チーム全員でレースをするという考え方ができるようになったのは大きな収穫でした。こうなれたのは、やはりWRTに所属しているおかげですね。


──富田選手が影響を受けたWRTのチームの雰囲気とは?


富田:スーパーGTで所属していたチームにこのWRTから派遣されていたサポートエンジニアがいて、彼が「トミタは笑顔でいようと努力しているが、実はそれはとても大切なことなんだよ」と僕に言ってくれたことを忘れられずにいます。


 シリアスなシチュエーションになった場合に、厳しい顔つきをしていると、それによってよくないことが起こり得るので、レースには笑顔が必要だということを彼から教わりました。それによって気持ち的にも救われていますし、自分でも心掛けるようにしています。


 そのエンジニアが僕にアドバイスしてくれたように、実際に僕がWRTに所属してみて、チーム全体が自然に笑顔に包まれていることを実感しました。チームの雰囲気がとても良いのです。


 自分たちの機嫌を悪くするも良くするのも結局は自分たちなので、笑顔の大切さというものを彼らから多く学びましたね。ですから組織としてのレース、チームであり、ミスをした特定の人物を責めるのではなく、誰かのミスは自分たちのミスという風に考えられるようになったのも、ヨーロッパへ出ての大きな収穫のひとつです。


■この先は「今季のGTワールドチャレンジの結果次第」


2021年スパ24時間レース チームWRTのピット内の様子

──他にも心境的にご自身が変化されたと感じることはありますか?


富田:レース中のモチベーションの保ち方が変わりました。


 以前は感情に影響されることが多く、何かが起こるとイラっとして走りにも出てしまう方でしたが、いまは自分がフラットでいられるようになり、何かに影響されることなくドライブできるようになりました。それにより、日本に戻ってレースに出る際にはすぐに順応できるようになりました。


 また、エンジニアリングの面では、WRTでは日本のレースよりもより深いところまで追求しますので、セットアップやレースウイークの組み立て方等を、いままで以上にチームから学び取り、繊細に対応できるようになったと思っています。ドライバー自身も(その組み立てを)意識しないと強くなれないんだなと感じました。


──念願だったスパ24時間レース参戦という目標を叶えられましたが、次なる目標は?


富田:僕がレーシングドライバーを始めた時の目標は、どんなカテゴリーであろうが世界の人々から「コイツ凄いな」と思われるようなドライバーになることでした。これは当時もいまも変わっていないのですが、一時期その目標を見失っている時がありました。


 そんな時に僕のスポンサーをしてくださっているグランバレイ株式会社の大谷泰宏代表取締役や周りの方々に、「日本に拘らずに、一度海外に出てみたらいいのでは?」とアドバイスを頂いて、このWRTへ加入することになりました。


 それまでは日本でスーパーGTのGT300クラスに参戦していたのですが、ヨーロッパの多くの人はその存在をまったくと言ってよいほど知らない。それがとても悔しく、日本でどれだけやってこられていたのか、ヨーロッパでも日本と同様に活躍できるドライバーになりたい、と強く思いました。


──今後の活動ビジョンをお聞かせください。


富田:ル・マン24時間レースに参戦することなのですが、いまの状況を考慮すると難しいとは充分理解しています。


 とはいえ、自分の未来がどうなるのか毎年まったく先が読めない状況で、まさか今年はGTワールドチャレンジのスプリントとエンデュランスの両方に出られるとは夢にも思っていませんでしたから、この先も何が起こるのか分かりません。可能な限り、自分ができることを準備しておきたいとは思っています。


 また、アジア人初のアウディスポーツのファクトリードライバーになりたいと願っていますが、年齢的にも厳しいと理解しています。どの方向に進むのにせよ、今年のGTワールドチャレンジの結果次第だと思いますので、残りのレースをしっかり準備して戦っていくつもりです。


 スプリントとエンデュランスの予選では、アウディのファクトリードライバーのポジションに限りなく近いポジションをキープすることが大切だと思いますし、そこを目指しています。

2021年スパ24時間レース

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