約350kmのロングドライブで見えたマツダ SKYACTIV-Xの真骨頂

2020年8月19日(水)13時10分 AUTOSPORT web

 万全のコロナ対策のもと、マツダ CX-30価値体験型取材会が開催された。横浜にあるマツダR&Dセンターから長野県奈良井宿までの、高速道路と一般道を組み合わせた約350kmのルートが用意され、長時間/長距離運転することで、マツダ CX-30の価値を発見してもらおうという主旨のイベントだ。


 長く接すれば接するほど、SKYACTIV-Xを搭載するCX-30のさまざまな良さが見えてきた。


■激戦区のコンパクトSUVに投じたマツダ期待のニューカマー


 マツダのコンパクトクロスオーバー CX-30が好調だ。日本自動車販売協会連合会(自販連)によると、2020年上半期(1月〜6月)の新車販売台数は、1万5937台(乗用車ブランド第24位)。


 24位かよ! と思うかもしれないけれど、クロスオーバー/SUVにカテゴリーを絞ると、トヨタのRAV4やC-HR、ホンダ・ヴェゼル、ダイハツ・ロッキーにつぐ、5番目の販売台数を誇る。


 マツダの車種ラインアップのなかでは2020年上半期で一番売れている。ニューネームプレート(新規車種)ということもあり、認知度とともに今後さらに伸びていくと予想され、これからマツダの屋台骨となる主力車種への期待度も高い。


 そのマツダ CX-30人気の理由は、同社の代名詞でもある“魂動デザイン”による、流線形を基調としたデザイン性の高さもさることながら、“ちょうど良いサイズ感”が市場のニーズにミートしたことだ。


 いや、マツダの開発陣が徹底的に実用性にこだわってミートさせたといったほうが正しいだろうか。


 CX-30の車体寸法は、全長4395mm、全幅1795mm、全高1540mm。同社が国内販売するクロスオーバー/SUVは、CX-8(全長4900mm)、CX-5(全長4545mm)、CX-3(全長4275mm)がラインアップしており、CX-5とCX-3の間に位置するサイズとなる。

マツダ3と同じプラットフォームながら、全長4.4m以内に抑えるために、ホイールベースは70mm短縮されている。


 全長4.4mを超えないのはヨーロッパの街中でスマートに縦列駐車ができることを、全高の1540mmは日本の立体駐車場を利用できる想定の高さだ。


 そして、全幅は世界のどの国の交通環境においても、持て余さないサイズとして決められている。このスリーサイズは1mmも超えることは許されなかったという。


 マツダ CX-30の開発コンセプトは、『家族に向けてジャストサイズなクルマ』であり、ターゲットカスタマーとして、カップルやヤングファミリー層を想定している。


 そこに対しては狙いどおりミートさせながら、同社のCX-8やCX-5といった大きいサイズ、さらには輸入車から乗り替えを検討する、子育てを終えたシニア層にも受け入れられているそうだ。


 都市部の道幅が狭く、渋滞が多い日本の交通環境でも、誰もが無理なく操作しやすいサイズに仕上げながら、大人4名乗車でもしっかり座れて、430リッターの荷室容積を確保した、巧みなパッケージングが評価を得たカタチだろう。


 まさにジャストサイズSUVと言える。

ボディサイドの滑らかな曲面は書道の筆使いから着想を得ている。エッヂをたてたデザインが多いSUVのなか、マツダは引き算の美学でクルマに生命感を与えている。


■ピストンの圧縮によって自己着火させる世界初のガソリンエンジン『SKYACTIV-X』


 マツダ CX-30は、2.0リッターガソリンエンジン『SKYACTIV-G 2.0』、ディーゼルエンジン『SKYACTIV-D 1.8』、新世代ガソリンエンジン『SKYACTIV-X 2.0』の3つのパワートレインを設定する。


 G2.0が261万5000円、D1.8が288万7500円、X2.0が329万4500円(いずれも消費税込。PROACTIVEモデルでの比較)の価格順となる。


 今回、試乗したのはモデルの最上級となる、世界初のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)に成功し、話題を呼んだSKYACTIV-Xエンジンを搭載したモデル(2WD)。


 ひと言でいえば、ガソリンとディーゼルの両方の長所を兼ね備えたような新世代エンジンだ。

エンジンカバーを外したエンジンルームの状態。燃費消費率は、SKYACTIV-Gに比べて最大で10〜20%改善し、燃費の良好なゾーンが広がっている。


 なぜ、マツダがこのエンジンの開発する必要があったのか? それは年々厳しさを増していく排ガス/燃費規制への対応だ。


 自動車メーカーとして避けて通れない条件で、いまグローバルで急速に増えているハイブリッド車(HEV)や電気自動車(BEV)はそのひとつの手段に過ぎない。


 マツダはハナから電気に頼るのではなく、原点に立ち返ってパワートレインのあるべき姿、エンジンの効率を高めることで、クリーン&燃費改善を目指した。


 将来的に電気デバイスを使ったとしても、熱効率の高いエンジンをベースにできれば、依存する度合いは小さくできるメリット(例えば、大量のバッテリーを搭載せずコストを抑えるなど)があると考えているからだ。


 ガソリンエンジンの熱効率を追求しようとすると、圧縮比を上げるか、比熱比を上げるかという選択肢になる(オットーサイクルの理論熱効率の式を見ればわかる)。


 マツダはファーストステップとして、ガソリンエンジンSKYACTIV-Gで、2011年に14.0という高圧縮比化を実現している。


 SKYACTIV-Xは、そのSKYACTIV-Gに対して、さらなる高圧縮比化(国内仕様は15.0、欧州仕様は16.3)したことに加えて、比熱比の向上に取り組んだマツダ流のセカンドステップとなる。


 マツダに言わせると「高圧縮比化の取り組みは比熱比を高めるための前段階」ということだが。


 では、比熱比を上げるには、どうすればよいか? 


 その手段が「リーン(希薄)燃焼させること」である。燃料と空気が過不足なく燃焼する質量の比は14.7:1で、理論空燃比(ストイキオメトリー)という言葉を聞いたことがあるだろう。


 これに対して空気を2倍以上に増やし(NOx排出量は大幅に抑制できる)混合気を薄く(リーン)することで比熱比は上がる。すなわち熱効率が向上する。


 ただし、混合気をリーンにしていくと、着火しにくくなる課題がある。この課題をクリアするため、これまで完全圧縮着火のHCCI(均質予混合圧縮着火)がさまざまな自動車メーカーで研究されてきたが、この手法が成立するのは筒内温度範囲が限定的ということもあり、圧縮比で温度と圧力を制御するのは非常に困難なため、まだ量産化されていない。


 技術的に高いこのハードルを、マツダのSKYACTIV-Xは、スパークプラグによる火花点火を圧縮着火のトリガー(SPCCI=火花点火制御圧縮着火)にすることでコントロールすることに成功。


 高回転域ではSPCCIの制御領域から外れるが、通常のガソリンエンジンの火花点火(SI)運転との切り替えもシームレスに移行できるようにした。


 余談だが、燃焼室内の混合気が理論空燃比より「リーン(薄い)」状態でも素早く燃焼させる点では、F1などで採用されているプレチャンバー方式も目的は同じである。


 このSPCCIの成功裏には、いくつかのキーテクノロジーがあるが、そのなかでカギを握るのが、各気筒に搭載した筒内圧センサーだ。


 高度な制御管理を行なうために、燃焼状態をモニターしながら、意図と結果のずれをリアルタイムに補正することで、自己着火を精度高く制御している。


 もちろん、機械的容積比も厳密に管理している。容積が1cc違えば、制御が台無しになるからだ。

SKYACTIV-Xのシェアは約5%だが、欧州ではCO2規制のレギュレーションの関係もあり、約50%のシェアを誇る。


■リニアな力の出し入れ感は、昨今の内燃エンジンよりも明らかに一線を画している


 さて、あいにくの雨の中、マツダR&Dセンター横浜からSKYACTIV-Xを搭載したCX-30を走らせた。ルートは、首都高(K7)〜東名高速(横浜青葉IC)〜海老名JCT〜圏央道(八王子JCT)〜中央道を経由して、塩尻ICから一般道を走って奈良井宿を目指す。割合で言えば、高速道路8割、一般道路2割といった感じだ。


 試乗をしてみると、この緻密な制御が運転していてすごく繊細に伝わってくる。アクセルの開け方に対する反応がいい。


 靴の中で足の指を曲げる程度のアクセルの踏み加減や戻し具合をそのスピードに緩急をつけながらやってもみたが、しっかりとエンジンの反応が返ってくる。中央道の緩やかな上り坂で、先行車との間隔をキープしながら走らせてみても、追走が非常にラクだ。


 実際の数値的にも、SKYACTIV-Xはさらなる高圧縮比化と比熱比の大幅な向上により、同排気量のSKYACTIV-Gに比べて、全域で10%以上のトルク向上を実現している。


 空気を吸入する遅れがないため、ディーゼル並みに初期応答性が良い。巡航から追い越しをかけるためにアクセルを踏み込んでも、ガソリンエンジン特有の高回転の伸びを備えているうえ、今回、非力なBSG(ベルト・スターター・ジェネレーター)ではあるけれどハイブリッド方式を採用しているので、トルクが必要な状況では“ちょい押し”をしてくれる。6速ATとの相性も良い。


 一般道でも同様で、交通量の多い道路をトロトロ走るような状況でもアクセルワークにより自由自在のコントロールができるからストレスを感じない。


 高速道路も一般道路もある意味、何も考えずに「タラ〜」と走れるのが、SKYACTIV-Xの良さだ。だから、長距離を走っても疲れない。


 そして、この滑らかな走りを昇華させてくれるのが、静粛性の高さだ。


 基本的にノッキングの原因になる混合気の自着火がずっと続いている状態だからエンジン音は大きくなる傾向にある。にもかかわらず、実際に走行すると車両の遮音性が高く、室内はとても静か。


 これはエンジン全体をカプセルみたいに覆っている樹脂製のカバーが大きく貢献しているのだろう。だから、エンジンの音はアクセルを強く踏み込んで加速したときぐらいしか明確に聞こえないし、かといって、ハイブリッドや電気自動車のように電気モーターの音がするわけでもない。


「今、自分がどういうクルマを運転しているかわからなくなる」くらい、とても不思議な感覚に陥った。

SKYACTIV-Xのエンジンルーム。カプセルのように覆っているエンジンカバーは遮音性に優れるとともに、保温効果もある。


■ドライバビリティの評価軸で価格を支払う時代へ


 冒頭で述べたように、CX-30の売上は順調だが、残念ながらSKYACTIV-X搭載モデルは苦戦を強いられている。


 販売からまもなく1年が経とうしているが、国内におけるパワートレインの比率では5%と低調だ。


 その理由は、SKYACTIV-G 2.0より約70万円高い価格設定が影響していると思われる(一部メディアによる風評被害もあると思うが)。スポーツカーのような圧倒的な加速感や、燃費が抜群にいいといった、コストに見合った記号性のあるわかりやすい付加価値が少ないのは確か。


 ゼロ発進からアクセルを踏んでいくと、よくも悪くもガソリンエンジンとディーゼルのちょうど中間の出力特性だし、WLTC燃費モードも16.8km/Lとハイブリッド車のような驚くほどの燃費を発揮するわけではない。


 しかし、CX-30の魅力は、革新的なエンジンだけではない。新しいプラットフォームが実に具合がいい。振動が巧みに抑えられており、何より乗り心地がいい。


 ボディ剛性も高く、コーナリングのトレース感などハンドリング性能は秀逸。まさに「人馬一体」とはこのことで、意のままに操れるシャシー性能とSKYACTIV-Xの組み合わせは、ワンランク上の質感がある。


 いや、こう書くと安い褒め言葉に思われるかもしれない。SKYACTIV-X搭載モデルのCX-30の真骨頂は、あえてドライバーに対して主張をしてこない点ではないだろうか。


 細部にわたってファインチューニングが施されているから、運転をしていてストレスを感じさせない気持ち良さがある。この素晴らしいドライバビリティが充分で、輸入車のそれと比較してもまったくヒケをとらない。


 パワーや燃費にそうするように、これからの時代は、ドライバビリティという評価軸に対してもお金を支払うことの意味を伝えるべきではないか。CX-30とSKYACTIV-Xに乗ってそう思った。

マツダ CX-30の開発主査である佐賀尚人氏。CX-30デビュー後も、さまざまな知見が開発から上がってきているという。マイナーチェンジ(マツダは年次改良と呼ぶ)で、どのようにグレードアップされるから楽しみだ。
この体験会では、道中、さまざまなイベントが仕込まれていた。ふるさと体験館きそふくしまでは、木工体験としてバターナイフを製作。
信州と言えば、蕎麦! 蕎麦打ちはコロナの関係で体験できず残念だったが、蕎麦切りや湯搔きを体験した。


■マツダ CX-30 X PROACTIVE 主要諸元表




























































車体
全長×全幅×全高4395mm×1795mm×1540mm
ホイールベース2655mm
車両重量1490kg
タイヤサイズ 215/55R18
エンジン形式SKYACTIV-X 2.0リッター直列4気筒DOHCスーパーチャージャー+Mild Hybrid
エンジン型式HF-VPH型
総排気量1997cc
ボア×ストローク83.5mm×91.2mm
最高出力180kW(132ps)/6000rpm
最大トルク224Nm/3000rpm
燃料供給筒内燃料直接噴射(DI)
使用燃料プレミアム


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