星野監督の金言で開眼した松下信治。3台にスペック2エンジン投入を絞ったホンダ陣営の意外な戦略......【GT500予選レビュー】

2021年9月11日(土)23時20分 AUTOSPORT web

 スーパーGT第5戦SUGOのGT500クラスは、ある程度、事前の予想どおりサクセスウエイト(SW)が軽めのチームが上位に来る展開となったが、前回の鈴鹿に続いて今回も路面温度23度という予想より低めの温度でタイヤ選択が分かれるなど、多くのチームにとって難しい展開となった。予選後の各陣営の悲喜交々の声とともに、決勝でのポイントを探った。


●予選2番手 16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT Q2担当:大湯都史樹


 前回の鈴鹿に続いての予選2番手を獲得した16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT。予選Q2を担当した大湯都史樹は予選後、手応えと悔しさの両面を見せた。


「僕がダメでしたね。クルマのパフォーマンスはある程度引き出せたと思いますけど、個人的にもっとできたことがあったなと思うところがあります。ポールを獲れたかはわかりませんが、もう少し詰めることはできたかなと」


 午前のフリー走行では、戸惑いもあった。
 
「午前中の走り走り始めで僕が乗っていたときはほぼ最下位のパフォーマンスで、そこからいろいろ変えていって、いろいろトライしたことがいい方向に行きました。ただ、僕が予選前に走っていたときは1分12秒6〜7くらいだったのですけど、予選Q1で笹原(右京)選手が1分10秒3のタイムを出して、クルマはすごく進歩したのは分かったのですけど、僕が乗っていたときから2秒3、速いクルマが全然想像できなかった(苦笑)」


「いきなりそのクルマにQ2で乗るのに、『どういうフィーリングなんだろう!?』と。2秒とか3秒違うと、全然違うクルマになっている。Q2ではその状態でも悪くないアタックはできたと思うのですけど、もう少しできたかなと」


 前回の鈴鹿の決勝では、タイヤのグリップダウンが激しく、レース序盤にトップを走行しなから9番手まで順位を下げてフィニッシュすることになってしまった。今回のSUGOでも、決勝のロングランが課題になる。


「前回の鈴鹿からスパンが短いので、すぐに改善するのは難しいと思いますが、いい方向に進んでいることを見せられればいいなと思っています」と大湯。16号車にとっては日曜の路面温度、コンディションが大きなポイントになりそうだ。


●予選3番手 12号車カルソニック IMPUL GT-R Q2担当:松下信治


 前回の鈴鹿ではニッサンGT-R勢の表彰台独占から1台だけ外れて、悔しい6位に終わったカルソニック IMPUL GT-R。今回のSUGOでは予選3番手の今季ベストグリッドを獲得した。Q2を担当した松下信治に聞く。


「今回ようやくですけど、(予選2列目は)最低限の結果だと思っています。鈴鹿からだいぶクルマを変えて来て、間違いなくいい方向に行っているのですけど、まだ同じブリヂストンの8号車(ARTA NSX-GT)と比べて足りていない部分がありました」


 クルマの進歩とともに、松下自身にも今回、気づきがあった。午前のフリー走行後、松下は星野一義監督から貴重な金言をもらい、そこから予選の好結果に繋げることができたようなのだ。


「フリー走行が終わって、僕がリヤのグリップが足りないことをエンジニアに伝えていたら、星野監督から、『今はテストもできないし、時間もないから(クルマは大きく)変えられない』、『毎回、良く曲がってリヤのグリップがある完璧なクルマなんてないんだ!』と怒られまして、そのとおりだなと思いました。細かいことよりも、今ある現状でベストを尽くすしかいないと気持ちを切り替えてQ2に行きました」


 そして、GT500で自己最高位の予選3番手を獲得するに至ったが、アタックに完全に満足しているわけではない。


「アタック自体は良かったんですけど、やっぱり8号車比べると、特に前半のセクターで負けている。クルマのキャラクターも分かっているのですけど、それを直す方法をまだ見つけられていません。ですので、悔しいですね」


 日曜のレースに向けては、やはりロングランでのパフォーマンスが鍵になり、2番手の16号車Red Bull NSX、ポールの8号車ARTA NSXと2台のホンダ勢との戦いとなる。


「まずは予選でどう前に行くかで進めてきたので、ロングランに関しては今日はペースはよかったですけど明日、どうなるかですね。明日は優勝を狙っていきます。まずはスタートで1台でも前に出られれば、トップの8号車とは同じブリヂストンのタイヤメーカーなので、そこでなんとか食らい付いて行きたいですね」と松下。


 同じブリヂストンユーザーながら、8号車とどのようなタイヤを選択しているのか。ニッサンGT-R陣営は12号車を含め、23号車を除いた3台に今回、ニューエンジンを投入していることをニッサン陣営総監督の松村基宏氏が明らかにしている。


また、予選5番手の3号車CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(SW56kg)と予選12番手のMOTUL AUTECH GT-R(SW44kg)も同じミシュラン勢ながらタイヤ選択が異なったことが順位の違いに反映されているようで、GT-R陣営としてはレースでのニューエンジンのパフォーマンス、そして後半スティントでのタイヤ選択が分岐点になるのかもしれない。


●予選10番手 1号車STANLEY NSX-GT Q1担当:牧野任祐
 
 土曜日午前中のフリー走行、1周を計測したのち、ガレージ内で馬に上がってセットアップの大変更を施したランキングトップで80kgのSWを搭載しているSTANLEY NSX-GT。予選Q1を担当した牧野に聞く。


「午前中は走り出しからブレーキ周りとかいろいろトラブルが出て、全然周回を重ねられませんでした。きちんと走れたのはGT500の専有走行(10分間)からで、そこからは問題はなかったのですが、もうちょっとセットアップの時間とか取れればな、という気持ちはあります」と牧野。


「結果だけを見ると、前とのタイム差も少なかったので、Q1を通りたかったですね。アタック自体は持っているものは出せたと思います。決勝は重いので大変ですけど、鈴鹿の時のようにチームみんなでいいレースができればいいなと思います」


 ランキングを争う14号車ENEOS X PRIME GR Supraが予選11番手、36号車au TOM’S GRスープラが予選14番手と後方のため。1号車STANLEYにとって今回の決勝はポイント差を広げる絶好のチャンスとなる。


●予選4番手 17号車Astemo NSX-GT Q1担当:塚越広大


 ドライバーズランキング実質4位で、60kgのサクセスウエイトを搭載しながら予選4番手となったAstemo NSX-GT。Q1を7番手で突破した塚越広大が予選日を振り返る。


「午前中に(GT300との接触)アクシデントがあってヒヤッとしましたけど、チームが迅速な作業でコースに戻してくれましたし、クルマも少ない時間のなかでいい方向にアジャストできたので、Q1に向けても、Q2に向けてもいい調整ができたと思います」と塚越。


 決勝に向けては、NSXのレースでの弱点とも言える、前にクルマがいる状態でのフロントのダウンフォースが鍵になる。


「前回の鈴鹿もそうでしたけど、単独の速さはいい感じなので、レースになって集団に入ったときに抜け出すのが難しくなる。そういう部分でのクルマのポテンシャルを高くして、コースを縦横無尽に走れるようなクルマにして決勝に臨みたいなと思います。今回はチャンスですので、結果が出るように頑張りたいです」


 ホンダ陣営は今回、クラッシュしてエンジン交換を余儀なくされた64号車Modulo NSX-GTに加え、17号車Astemo、そして1号車STANLEY NSX-GTの3台にスペック2のニューエンジンを投入したことをGTプロジェクトリーダーの佐伯昌浩氏が明らかにした。その一方、予選トップ2の8号車、16号車はスペック1のままというのが興味深い。


「ニューエンジンは正常進化させたもので、パワーは上がっています。(1号車、17号車への投入に関しては)年間を通して考えた時、上位2台が1点でも多くポイントを稼ぐことが重要と判断して投入しました。今回の予選結果にもニューエンジンの効果が多少なりとも反映されたのではないかなと思っています」と佐伯氏。


 スペック2を搭載したサクセスウエイト60kgで4番手のAstemo、ランキングトップでもっとも重い80kgの1号車が10番手、そしてスペック1の軽量組の8号車、16号車がフロントロウ独占と、予選日の結果を見る限り、ホンダ陣営はまさに理想的な好結果を残すことになった。果たして、このまま明日の決勝も優位なまま進むことになるのか……。


●予選7番手 38号車ZENT GRスープラ Q2担当:立川祐路


 今回のSUGOの予選で低迷したGRスープラ勢。予選Q1ではGRスープラ陣営としては38号車ZENT GRスープラと39号車DENSO KOBELCO SARD GRスープラの2台が予選Q1を突破して前回の鈴鹿でのQ1全車落ちのような事態は避けられたものの、苦しい予選となってしまった。GRスープラ勢で予選最上位となった38号車のZENT GRスープラの立川祐路がアタックを振り返る。


「前回の鈴鹿からクルマのフィーリングは良くて状況的にはよくなったのですけど、周りに対しては足りていませんでした。自分のアタックとしても、もう少し行けたかなと思う部分は多少あります。予選に関してはもう少し、欲しいところがありますね。決勝に関しては鈴鹿のときも悪くなかったですし、今日のロングランのフィーリングも割と良かったので、明日は石浦(宏明)選手が表彰台が見ていると言うので、頑張りたいですね。チームには今回からストラテジストを投入しているので、明日の戦略が楽しみです」と立川。


 39号車DENSO KOBELCO SARD GRスープラは、予選Q1で中山雄一がトップタイムをマークしたものの、Q2ではヘイキ・コバライネンがQ2最下位の8番手と対称的なリザルトとなった。39号車はどうやらQ1をソフトタイヤ、Q2でハードタイヤを選択した模様で、ふたりの順位の大きな違いにつながったようだ。


 また、今回は珍しくトムスの2台がサクセスウエイトが重いことを考慮しても結果が思わしくなく、特に36号車au TOM’S GRスープラはフリー走行で13番手、予選Q1でも14番手と苦しんでいる様子が見られる。auの伊藤大輔監督に聞く。


「今回は選んだタイヤの温度レンジが路面温度に対してギリギリの状態で、グリップが足りなくて曲がっていかない状態です。ただ、予選の一発は苦戦していますが、ロングランではそこまで悪くはないですし、明日は予選日より気温が上がる見込みなのでチャンスは出てくると思います」と伊藤監督。


 前回の鈴鹿では予選12番手でから決勝で5位まで順位を上げた36号車au TOM’S GRスープラ。GRスープラ陣営が予選では低迷気味だったが、決勝でどこまで盛り返してくるのか。今回の予選上位がソフト傾向のタイヤ選択だったならば、日曜の気温がさらに上がれば、勢力図は一変する可能性もある。
 
 各メーカー、各チームにそれぞれ見どころが多いSUGO戦の決勝レース。今回の予選日もクラッシュや赤旗など荒れた展開になったが、FCY(フルコース・イエロー)やセーフティカー導入の可能性も高く、ますます予測が難しい展開になりそうだ。

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