チーム状況は大きく変化。喜び方にも現れた「一丸となってやる姿勢」/マクラーレン今井エンジニアインタビュー(2)

2021年9月20日(月)7時0分 AUTOSPORT web

 2021年シーズンよりマクラーレンへ移籍し、第14戦イタリアGPで3年ぶりの勝利を挙げたダニエル・リカルド。ここまで僚友ランド・ノリスに後れを取ってきたが、その理由のひとつとして、マクラーレンのダイレクターレースエンジニアリングを務める今井弘は「クルマが求めているものと、リカルドの元々のドライビングの差が大きかった」点を指摘した。


 また9年ぶりの優勝を飾ったマクラーレンでは、この数年でチームの状況は大きく変わっており、今井エンジニア曰く「チームとして一丸となってやろうという姿勢がはっきりしている」という。イタリアGPのレース後も、マクラーレンは今回のレースで学んだことを次に活かすべく遅くまでデブリーフィングを行っていた。


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──今シーズン移籍してきたダニエル・リカルドは、シーズン序盤に苦しんでいるように見え、本人も思いのほか慣れるのに苦労していたと語っていました。具体的にどの辺りで彼は苦労し、マクラーレン側も時間がかかっているなと思っていたのでしょうか?


今井弘ダイレクターレースエンジニアリング(以下、今井):彼のドライビングスタイルとマクラーレンのクルマを速く走らせるための要求がなかなかマッチしていなかった。もちろん、最初はなかなかうまくいかないことは、事前に想定はしていましたが……。


──それは具体的にどんなエリアですか?


今井:ブレーキングしてからターンインして切り込んでいくところの一連の動作です。もちろんF1のクルマを速く走らせるためにはエアロが重要なわけですが、いまのフェーズ、具体的にはブレーキングからターンインしていくところのエアロのパフォーマンスを最大化するためのベストな走らせ方が、クルマによって違う。そのあたりでこれまでダニエルが乗ってきたクルマと我々のクルマが違っていて、そのアジャストに時間がかかっていたんです。それはカルロス(・サインツ/現フェラーリ)がマクラーレンに来たときも同じで、最初の何レースかはいろいろ試行錯誤することがあったわけですが、ダニエルの方がおそらくクルマが求めているものと彼の元々のドライビングの差が大きかったんだと思います。(F1マシンというのは)考えながらドライビングしていると、どうしても遅くなります。ナチュラルに操れるようにならないと。


──この週末のリカルドのドライビングはどうでしたか? 優勝したという状況を考えると、もうかなり慣れてきていると思いますが、それでもまだナチュラルまでには至っていない?


今井:このコースは影響は出にくいサーキットだと思うんですよね。


──チームとしては2012年以来、9年ぶりの優勝になるわけですが、今井さんは2009年にマクラーレンに入って今年で13年目。ここまでチームを見ていて浮き沈みがありましたが、今はどのくらいの状況にありますか? 2012年の頃と比べて、いまの状況はどうですか。当時に近いと思っていいのか、まだもうちょっと足りないのか。


今井:比較できないです。全然違いますね。

2009年にマクラーレンに加入した今井エンジニア


──チームがここまで挽回してきたのにはいろいろな要因があると思いますが、そのひとつにはアンドレアス・ザイドル(チーム代表)が入ったことが挙げられると思います。彼が入ったおかげでスタッフたちの仕事のやり方が上手くいってるのかなと思うのですが。


今井:いいですよ。チームとして一丸となってやろうという姿勢がはっきりしてます。今日の喜び方も非常にワンチームな雰囲気が出ていたと思います。

9年ぶりの勝利を喜ぶマクラーレンF1チーム


──確かにチームが優勝して記念撮影した直後に、ザイドルがスタッフに向かってバンザイして、スタッフ全員がそれに応えていました。見ていて、本当にワンチームだなと実感しました。


今井:マネジメント、エンジニア、メカニック、サポートクルー、ケータリングスタッフも含めてワンチームという感覚が出ているんだと思います。

2021年F1第14戦イタリアGP レース後に記念撮影。チーム代表のアンドレアス・ザイドルが撮影を盛り上げた


──今井さんはコロナ前にお会いしたときはチームレースエンジニアでしたが、いまの役職は?


今井:昨年から、ダイレクターレースエンジニアリングになりました。


──組織でいうとチーム代表のザイドルがいて、その次にレーシングダイレクターのアンドレア・ステラがいて、その次になるわけですか?


今井:そうですね。

チーム代表アンドレアス・ザイドルとレーシングダイレクターのアンドレア・ステラ(写真はオランダGPで撮影したもの)


──これは少し伺いづらいのですが、日本のファンを代表して聞きます。マクラーレンは2017年までホンダと組んで苦しい経験をしました。いまはそのホンダがレッドブルと組んでチャンピオン争いをしています。しかしながら、ホンダのスタッフはいまでも「マクラーレン時代があったからいまがある」と言っています。マクラーレンにとって、ホンダと組んだ3年間はどんな時間でした?


今井:我々も勉強させてもらいました。特にパワーユニット(PU)に関しては密接に仕事をしていたので、ホンダのみなさんにそう言ってもらえるのはうれしいですし、僕らとしてもいろいろと勉強したところはあります。そのあとルノーのPUを使って、現在はメルセデスのPUで、いま我々はおそらくそれなりに(PUに関して)理解度があると思っているのですが、それはやっぱりあの時代にいろいろ勉強させてもらったことが効いていると思います。


──記念撮影の後、どこか遠くを見つめていました。何を考えていたのでしょうか。


今井:喜ぶのはいいですけど、ここから学んで、学んだ結果を次に活かしていかないと次がないと思っていました。

撮影を終えた今井エンジニア


──モンツァでは、ずいぶん遅くまでデブリーフィングをしていましたよね。


今井:デブリーフィングの前に、そういうことをみんなに伝えてじっくり話をしたところです。学ばなきゃダメよと。うまくいったからといって同じことが起こることはないので、今日何がよかったか、何が悪かったか、もっとできることはなかったのかを時間をかけてじっくり考えようね、とね。


──ドライバーも残って、一緒にデブリーフィングをしていました。ドライバーからエンジニアに感謝などありましたか?


今井:もちろん(笑)。


──今後のターゲットはなんでしょうか? 今シーズンのチームの最終目標は?


今井:もちろんいいポジションでシーズンを終えたいですが、昨年(コンストラクターズ選手権)3位でしたので、できることならそこで勝負したいです。ただ、今回のレースでコンストラクターズ選手権で逆転したフェラーリもまだ接近しており、かつ今回も非常にいい結果を残しています。したがって、まだまだレースが残っていますので、残り8レース、簡単にはいかないと思います。


──お忙しいなか、突然のインタビューのお願いにも関わらず、ありがとうございました。


今井:では、またソチで。

今井弘ダイレクターレースエンジニアリング


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今井弘(マクラーレンF1チーム ダイレクターレースエンジニアリング)
2008年までブリヂストンでエンジニアを務め、2009年にマクラーレンへ移籍。その後、マクラーレンでチーフレースエンジニアに抜擢され、2020年から現職に就き、レースチームのトップであるアンドレア・ステラ(レーシングダイレクター)を支えているチームの大黒柱。

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