動くか、動かざるか。日曜『いきなりアタック』勝負の極めて難しいアプローチ【SF第3戦SUGOプレビュー】

2020年10月17日(土)20時42分 AUTOSPORT web

 土曜日の走行は午前、午後ともにウエット&ダンプコンディションで、ドライタイヤで走行できたのは午後のセッションのわずか数周のみ。日曜日の予選、決勝はドライコンディションが確実な状況で、どのドライバーも十分な手応えを掴みきれないまま、土曜日のセッションを終えることになった。スーパーフォーミュラ第3戦SUGOは今季もっとも難しい形で日曜日を迎えることになった。


 改めて言うまでもないが、コース幅が広くないSUGOは追い抜きが簡単なコースではない。つまりは予選順位が決勝の順位に限りなく大きな影響を及ぼすわけだが、土曜と日曜で大きくコンディションが異なることが確実で、日曜朝の最初のセッションである予選への一発勝負、出たところ勝負の感がさらに高まることになってしまったのだ。


 前回の岡山での戦いを振り返ると、土曜と日曜は同じドライコンディションながら日曜日は風向きが大きく変わり、そのコンディション変化で予選の各車の勢力図も一変。前日の土曜日で圧倒的な速さを見せていた平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)が危うく予選Q1でノックアウトしかけるという、ギリギリの順位で予選を通過することになった。


 結果的に平川は予選Q1を最下位で突破し、そこから予選ポールポジションを獲得するになったわけだが、予選Q1から予選Q2に向けてセットアップをアジャストし、さらに予選Q3に向けてセットを詰めるという平川と担当の大駅俊臣エンジニアの状況に合わせた修正力が原動力になったと言える。


「いやいや、あれは純粋に亮の腕ですよ。すごかった」と、SUGOの現場で前戦の予選について謙遜する大駅エンジニア。もちろん、最後はドライバーの技量が大きい部分もあるが、日曜朝のコンディション、そして平川の走りを見て、細かくセットアップを変えていった大駅エンジニアの力も当然、大きな後押しとなったはずだ。


 そしてここでもうひとつ興味深いのが、坪井翔(JMS P.MU/セルモ・インギング)のアプローチだ。前回の岡山の予選、実は坪井はクラッシュするまで平川と同じくらいの速さを見せていたのだが、坪井は予選Q3のアタックで突風を受けてコントロールを失いクラッシュ。結局予選は8番手となったが、そこからクルマと自身の速さを活かしてスーパーフォーミュラ初優勝を果たした。


 坪井がクラッシュしてしまうまでの予選Q3のタイムは平川と同等だったが、その坪井陣営の日曜のアプローチのポイントは、担当の菅沼芳成エンジニア曰く「何も変えなかった」ことだった。


「岡山の予選はセクター1のタイムを見たら(トップに)行けるかなと思った瞬間に、クラッシュしてしまった。『決めて来いよ!』とは言いました(苦笑)。クルマのセットアップはまだ完璧ではなかったです。もうちょっと、という部分がありましたが、あの状況ではみんなそうだったと思います」と、前回の予選を振り返る菅沼エンジニア。


「日曜日、いきなりの予選はキツイですね。ドキドキします。ドライバーも朝イチでコンディションがわからないままアタックに行くのは嫌だと思いますし、この予選では予選中のセットアップの修正はできないですね。岡山でも何も変更しませんでした。ドライバーとも話していましたが、怖くて変更できないです。問題があるところはわかっていても、変えたところでもしかしたらハマってしまうかもしれない。よほどクルマで気になる部分があるとかじゃなかったら、今の状態で頑張った方がいいんじゃないかと変えませんでした」(菅沼エンジニア)


 動いた平川陣営、動かなかった坪井陣営、コンディションに合わせて修正してくことだけが、予選、そして決勝で上位にいく正解ではないことを坪井陣営が証明することになった。


 翻って今回の第3戦SUGO、雨上がりで低気温、そして10月のSUGOのデータはどのチームもなく、ひと言で言えば前回の岡山よりも難しい状況になりそうだ。このSUGOで昨年、一昨年と2連勝を果たしている山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)が、今回の日曜日の難しさと迷いを話す。


■SUGO戦に必勝態勢で臨む山本尚貴、前戦で初優勝して勢いに乗る坪井翔


低気温のダンプコンディションでスピン、クラッシュが続出した第3戦SUGOの土曜日

「明日の朝のコンディションに対してはなるようになるしかないんですけど、僕は今年は予選が常にQAなので(予選Q1で最初にアタックするグループ)、QAはあまり得意じゃないというか、自分のクルマは路面にラバーが乗ってきてタイムが上がってきたときにベストな状態になるようなクルマになっているので、QAよりはQBの方がいいなと思っています(苦笑)」


「そして、わざわざそのQAのコンディションに合わせてセットを変えて、またQ2に向けて本来のセットに戻してとやれるほど、今はまだ十分にデータが揃っているわけではない。ギャンブル的な要素が高くなってしまうので、今日(土曜日)の調子がいいから、そのセットのままQAに行った方がいいのか、路面コンディションが上がりきっていないのを見越してセットを変えて行った方がいいのか、そこはもう少しエンジニアとも話し合って明日の朝までに決めようと思います」と、予選への難しさを話す山本。


 山本にとっては、このSUGOは今シーズンのチャンピオンを狙う上で重要な一戦になる。今季は2戦を終えて5ポイント獲得のランキング10位に留まっている。


「これまでの2戦で大きな得点を獲れていないので、ここで大きなポイントを獲らないといけない。今季は有効ポイント制で7戦中5戦が有効になりますが、もう2戦はすでに落としたつもりでいるので、ここから全部勝つつもりでいかないと、タイトルは獲れないと思っています。そういう意味では、今回のSUGOは絶対獲らないといけないという気持ちはあります」と、SUGO戦へ背水の陣で挑む山本。


 予想が付けづらい今回のSUGO戦。そのなかでも注目したい若手ドライバーが前戦でスーパーフォーミュラは初優勝を果たし、スーパー耐久でも優勝、スーパーGTでもランキングトップと、ノリに乗っている坪井だ。この難しいコンディションのなかでの手応えはいかがなものか。そして、初優勝を果たしてからの変化はあるのだろうか。


「ドライ、ウエットともに感触は悪くないと思っています。赤旗が出たり、他のクルマのタイヤの状況がわからないので一概には言い切れないですし、セルモチームとしてもSUGOはちょっと苦手としているサーキットのひとつなのかなという印象がありますが、ちょっといい兆しが見えているのかなという手応えを感じられる練習走行でした」と、土曜日を振り返る坪井。


 前回の岡山で1勝を挙げたことで早速、自分自身の変化も実感しているようだ。


「やっぱり1勝することで自信になるし、視野が広がって落ち着いてアプローチできるようになったり、落ち着いて分析できるようになりました。一度成功すると、その成功を元に今までやってきてよかったもの、ダメだったものがハッキリする。今までは失敗しかなかったので(苦笑)、『トライ、トライ』という感じで、ドライコンディションでも去年はまったく予選Q3に進むことができなかった。成功を知ることで、失敗したときに『ここに戻らなきゃいけないんだ』という、戻る位置が明確に見えるようになった。そこはすごく大きいなと思います」と坪井。


 日曜の予選にむけては「前回は予選Q3でクラッシュしてしまったので、まずは予選Q3まで残って、そして予選Q3でタイム出しをきちんとできるように。予選のパフォーマンスをしっかりと見れるような状態を作っていかないといけないなと思います」と、抱負を話す坪井。


「決勝でもSUGOはなかなか抜けないと思うので、当然、予選のグリッドは重要になるので、予選Q3に行けば自ずと決勝でもいいレースができるようになると思うので、まずは予選Q3だと思います」と、予選の重要性を強調する。


 予想以上の低気温に、雨上がりでどのドライバーも未経験の日曜日朝イチの予選アタック。その時のコンディションに向けて、動くのか、動かないのか。ドライバーとエンジニアたちのアプローチがその運命を大きく分けることになる。

前回の第2戦岡山でスーパーフォーミュラ初優勝を飾った坪井。SUGOでも好調さを見せる


坪井とともに今季のスーパーフォーミュラを盛り上げる新人フェネストラズ

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