WRCスペインの明暗分けた“午後のグラベル”。トヨタの同門対決は最終戦モンツァへ

2021年10月29日(金)17時17分 AUTOSPORT web

 スペインでの戴冠ならず。タイトル決定の可能性を持って臨んだWRC世界ラリー選手権第11戦スペインで、セバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)とTOYOTA GAZOO Racing WRTはいずれも王座を獲得することができなかった。優勝はヒュンダイのティエリー・ヌービル(ヒュンダイi20クーペWRC)。選手権首位のオジエは総合4位にとどまり、トヨタ勢の最上位はエルフィン・エバンス(トヨタ・ヤリスWRC)の総合2位だった。


 2年ぶりに開催された『ラリー・スペイン』はヌービルの速さが印象的な1戦だった。全17ステージのうち10ステージでベストタイムを記録。最終的には2位エバンスに24.1秒差をつけて勝利を手にした。まさに圧勝と言える内容だが、ラリー開始直後はエバンスが3ステージ連続でベストタイムを刻むなど、勢いは彼にあった。


 流れが大きく変わったのは初日金曜日の午後。再走ステージが始まってからだ。午前中の3本のステージは路面が比較的クリーンで、そのような路面にエバンス駆るトヨタ・ヤリスWRCのセッティングは合っていた。
 
 しかし、午前中のループステージが終わるころには、各車のインカットにより路面がダーティになり、泥や砂利がかなり多く出ていた。そして、午後の再走ステージは午前中とはまったく違う、非常にトリッキーな路面に。そこでエバンスはスピードがやや鈍った。


「路面がダーティなセクションで苦労している。グラベルに乗ってしまい、かなり危ない瞬間もあった」とエバンス。


午後の2本目、SS5でエバンスはコントロールを失いかけ、大幅にタイムを失った。それでも午後は3ステージすべてで2番手タイムと、極端に遅かったわけではない。SS5を除けば、午後のステージをすべて制したヌービルとは僅差だった。


 エバンスとは逆に、午前中のヌービルはまったく曲がらないクルマに苦戦していた。「とにかくアンダーステアが強い。とくにコーナーの真ん中で前輪が外に逃げていく。ハンドブレーキを使って、無理やり曲げなければならないことも多かった」とヌービルが言うように、たしかにヒュンダイi20 WRCは総じてターン中盤までが相当厳しそうに見えた。


 しかし、昼のサービスでヒュンダイのエンジニアはヌービル車のセッティングを大きく変更。ニュートラル〜オーバーステア傾向のハンドリングと変えた。それが奏功し、アンダーステアはほぼ解消。インカットによりダーティになった路面ではオーバーステアも出たが、ヌービルは「アンダーはどうにもならないが、オーバーなら自分でコントロールできるから、こっちのほうが断然いい」と、自信を取り戻していた。


 翌日の土曜日は7ステージのうち6ステージでベストタイムを刻み(うち1ステージはオジエとベストをシェア)、そこで勝負をほぼ決めた。

ヌービルはSS5で総合トップに立った後、その座を明け渡すことはなく、今季2勝目
WRC第11戦スペインで今季2勝目を挙げたティエリー・ヌービル(ヒュンダイi20クーペWRC)


■ミスが目立つ今年のオジエ。最終戦に向け、17ポイント差はあるが……


 一方、エバンスは初日の午後にヌービルがいきなり速くなったことを警戒し、路面がダーティな午後のステージでのハンドリングを何とか向上させようと、2日目に向けてセッティングを大きく変更。


 グラベル対策という点ではたしかに効果も見られたが、副作用としてクルマ全体のいいバランスが崩れ、むしろ自信を持ってアタックすることができなくなってしまった。その結果、2番手タイムを刻むことすら難しくなり、首位ヌービルとの差はどんどんと広がっていった。


 エバンスにとって救いだったのは、24ポイント差で選手権をリードするオジエのペースがエバンス以上に上がらなかったことだ。オジエは初日、ヌービルにもエバンスにもついていけず、総合3番手につけるのがやっとだった。
 
 土曜日にはセットアップを大きく変更して臨んだところ、午後のステージでは2本のベストタイムを記録するなど、改善に成功。「ようやくいいセットップを見つけることができた。これなら最終日は行ける」と意気込んでいたが、直後の市街地ステージでまさかのエンスト。これは完全にドライバーのミスだったようだが、そこで大きくタイムを失い、最終日は総合3位の座までヒュンダイのダニ・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)に奪われてしまった。


 ここ数戦、オジエはライバルに純粋な速さで負けている。それは有利な出走順の今回も同様だった。タイトルを最優先した保守的なアプローチによる部分もあるだろうが、じつは今回のエンストのようなミスや不注意も今年はかなり多い。


 最終戦『ラリー・モンツァ』を前に、選手権2位のエバンスには17ポイントのリードを持っているが、最後まで集中力をしっかり保たなければ逆転で通算8度目のタイトルを逃すことも考えられる。そう、昨年エバンスがオジエに対する14ポイント差の選手権リードをワンミスで失い、涙を飲んだように。

オジエは最終日最初のSS14でソルドと僅差の4番手にダウン。そこから3番手に戻ることはなかった。オジエは11月7日バーレーンでのWECルーキーテストに参加予定。それに向けて、TGR-Eでシート合わせとシミュレーターテストを行なった
モンツァでのエバンスは優勝25点+パワーステージベスト5点の計30点獲得がほぼマスト
auto sport No.1563


※この記事は本誌『オートスポーツ』No.1563(2021年10月29日発売号)からの転載です。

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