三者三様の心理が現れたスタートの”スリーワイド”バトル【F1メキシコGP決勝分析】

2017年10月31日(火)12時1分 AUTOSPORT web

 2017年F1第18戦メキシコGPは、スタートで逆境に見舞われながらも9位入賞したルイス・ハミルトンが4度目の戴冠。ニッポンのF1のご意見番、今宮純氏がメキシコGPを振り返り、その深層に迫る──。 


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 1周遅れの9位で4冠王となったルイス・ハミルトン、けして格好悪い決め方ではない。ミハエル・シューマッハも2003年日本GPでは最下位から8位に上がり、6冠を決めている。


 あのレース展開とはやや異なるがハミルトンは最下位の逆境からよじ登って行った。いままでの3冠とは全く違う「恐ろしいレース」に、彼は冷静で落ち着いてポジションを取り戻した。


 それを強く感じたのはセバスチャン・ベッテルと接触してから何度かオンエアされた無線の肉声トーンだ。


 放送禁止用語で叫ぶとか、感情的にはなっていなかった。マシンの現在情況を冷静にエンジニアに伝え、逐一戦況を確認しながら必要十分なペースを保とうとした。『今年のハミルトンは変わった』と、とくに夏休み明けから(個人的に)そんな印象を持って見てきたがこのレースがまさにそうだった。


 勝ち気満々なマックス・フェルスタッペンと、もう勝つしかないベッテルと、勝つより決めればいいハミルトン。


 その3人の心理がスタートから1コーナーでの“スリーワイド”に露わになった。イン側にベッテル(ここは自分のコーナーだぞ)、センターにフェルスタッペン(ブレーキングで獲るぞ)、アウト側にハミルトン(ニアミスだけは避けたい……)。

2017年F1第18戦メキシコGP スタートでセバスチャン・ベッテルと接触しパンクを喫したルイス・ハミルトン

 1次接触はベッテルとフェルスタッペン。フェラーリのフロント・ウイング左翼端板が欠けて飛ぶ。2次接触はベッテルとハミルトン。アウト側にいたハミルトンの右リヤタイヤは、“凶器”と化したベッテルの翼端板に切られる。パンクダメージを負ったメルセデス、フロントウイングを破損したフェラーリ。どちらも傷ついた。


 これらの危うい瞬間プレーに3人が大きく乱れず、スピンしないまま切り抜けたのはさすがだ。もしも一人でもそうなっていたら、後続車を巻き込む多重接触事故が発生しレースは赤旗中断……。
 タイトル決定戦は運命的結末に一変していったかもしれない。


 この数舜を最も安全に切り抜けたのがフェルスタッペン。以前から何度も指摘しているように、彼の“見切り”は天性の鋭さがある。ほぼダメージが無いままかわすと完全独走ドライビングに集中。


 際立っていたのはセクター2だ。S字コーナー区間で毎周同じクリッピングポイントをかすめ、きれいな“4ホイール・ドリフト”で通過する。絶えず前後が滑っていてもそのスライド・アングル(角度)がバランスされているから、4本のタイヤはまっすぐ直進状態に見える。

2017年F1第18戦メキシコGP マックス・フェルスタッペン

 終盤からクルージングに移行するまで彼はF1らしい、ダイナミック・ドリフトでずっとレッドブルを操っていた。時々TVに映るピット内にいた父親ヨスさんが、ほれぼれするような表情で見とれていたのが印象的だ(息子は父を超えたと失礼ながら、そう読みとらせていただく)。


 2周目19位からベッテルはカルロス・サインツJr.、フェリペ・マッサ、ピエール・ガスリー、ロマン・グロージャン、ブレンドン・ハートレー、ストフェル・バンドーン、フェルナンド・アロンソ、ケビン・マグヌッセン、ランス・ストロール、エステバン・オコンを安全・安心な方法で抜いていった。

2017年F1第18戦メキシコGP セバスチャン・ベッテル

 絶望の境地になりながらつらぬいた4位と最速ラップ、彼にすれば価値あるものではなかったかもしれない。それでも見る者としては、追走する4冠王の意気地がくみとれるものであった。


——どういう決まり方になるにせよ、戴冠戦はシーズンを凝縮するような『レース・オブ・ザ・イヤー』になるものだ(と自分は思う)。ウイニングランでは4冠王ベッテルが、4冠新王ハミルトンに寄り添うようにサイド・バイ・サイドで称えた。


 ここに完全勝利した新鋭フェルスタッペンもいて“スリーワイド”で並び、互いに祝いあうシーンを見てみたかった。

2017年F1第18戦メキシコGP 優勝はマックス・フェルスタッペン、2位バルテリ・ボッタス、3位キミ・ライコネン


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