ヴィッセル神戸、黄金時代に突入か。天皇杯優勝へ突き詰めた細部【現地取材】

2024年11月27日(水)11時0分 FOOTBALL TRIBE

ヴィッセル神戸 写真:Getty Images

第104回天皇杯(JFA全日本サッカー選手権大会)の決勝が11月23日に行われ、ガンバ大阪とヴィッセル神戸が対戦した。


両チーム無得点で迎えた後半19分、神戸GK前川黛也による自陣からのロングパスに、味方MF佐々木大樹が反応する。その後敵陣ペナルティエリア手前でボールを回収した同クラブFW大迫勇也、FW武藤嘉紀の順でパスが繋がり、後者のクロスボールのこぼれ球をFW宮代大聖が押し込んだ。この1点を守り抜いた神戸が最終スコア1-0で勝利。5大会ぶり2度目の天皇杯優勝を成し遂げている。


G大阪に攻め込まれる時間帯が長かったなかで、神戸は如何にして勝利を手繰り寄せたのか。ここでは国立競技場(東京都新宿区)にて行われた今回の決勝戦を振り返るとともに、この点を中心に論評していく。現地取材で得た神戸DF酒井高徳の試合後コメントも、併せて紹介したい。




ガンバ大阪vsヴィッセル神戸、先発メンバー

神戸劣勢の原因は


試合開始直後の両チームの基本布陣は、G大阪が[4-2-3-1]で神戸が[4-1-2-3]。神戸は空中戦を得意とする大迫や武藤へのロングパスを多用したものの、G大阪の最終ライン手前に落ちるものが多かったため、同クラブの4バックや中盤の選手により跳ね返され続ける。ゆえにG大阪にボールが渡り、そこから速攻を何度も浴びた。


今年のJ1リーグで12得点を挙げているFW宇佐美貴史を負傷で欠いたなか、G大阪はMFダワン(ボランチ)を起点にパス回しを組み立てる。迎えた前半9分、ダワンが神戸の最前線と中盤の間でボールを受けると、ここから敵陣左サイドへパスが繋がる。DF黒川圭介(サイドバック)とMF倉田秋(サイドハーフ)の左サイドコンビで神戸陣営の右サイドを攻略すると、MF山田康太のクロスボールにダワンがヘディングで反応。ダワンのシュートは神戸GK前川の好セーブに阻まれたが、パス回しそのものは円滑だった。


神戸は相手ボール時に大迫とMF井出遥也が最前線に残り、[4-4-2]の守備隊形を敷いたものの、この際にG大阪の2ボランチ(ダワンとMF鈴木徳真)を誰がどのタイミングで捕捉するのかがはっきりせず。ゆえに神戸2トップと中盤の間でダワンが度々フリーになり、不自由なくボールを捌く場面が多かった。


こうした状況を受け、神戸陣営はハイプレスを諦め撤退守備へ移行する。大迫と井出の2トップも帰陣し、チーム全体で自陣のスペースを埋めようとしたが、今度はG大阪の2センターバック(福岡将太と中谷進之介の両DF)へのプレスがかからず。前半12分には福岡にボールを運ばれ、攻め上がった黒川へのパスを許したほか、この直後には中谷に正確な縦パスを繰り出されていた。


山川哲史 写真:Getty Images

劣勢の神戸が施した工夫は


前半16分に繰り出されたDF山川哲史のロングパスを皮切りに、神戸の攻め方が変わる。それまではG大阪の最終ライン手前へ落ちるロングパスが多かったが、この場面以降は最終ラインの背後を狙うものを織り交ぜるように。これによりG大阪の4バックは後退しながらのヘディングを強いられ、ゆえに弾き返したボールの飛距離が伸びず。先述の山川のロングパスも、G大阪のサイドバック黒川の背後を狙ったものであり、同選手のクリアボールに武藤が反応できている。黒川による後退しながらのクリアボールはタッチラインを割り、神戸はこの直後のスローインから攻勢を強めた。


ロングパスの落下地点に選手を密集させ、こぼれ球の回収に全力を注ぐ。至ってシンプルな攻め手だが、こぼれ球の回収率を上げるには先述の通り、ロングパスの送り先に工夫が必要である。この細部の突き詰めが実を結んだのが先制ゴールの場面だった。


ここでは神戸GK前川がG大阪の最終ラインを後退させるロングパスを繰り出したため、中谷が自陣後方へ下がりながらの守備を強いられている。途中出場の神戸MF佐々木との競り合いの末、中谷のクリアが不十分になると、このこぼれ球に大迫、武藤、宮代が反応しゴールに結びつけた。


試合全体を通じ、G大阪は神戸のロングボール攻勢に概ね対処できていたが、失点シーンで最終ラインと中盤が間延びしてしまったのが悔やまれる。前川や山川をはじめとする、ロングパスの出し手へのプレスも不十分だった。




酒井高徳 写真:Getty Images

「チームとして同じ絵を描けている」


試合序盤こそ最前線からの守備(ハイプレス)の段取りが不明瞭だったものの、神戸は前半途中からG大阪の2センターバックへのプレスを強めたほか、フリーになりがちだったダワンをMF扇原貴宏が捕捉するように。試合の流れを大きく変えるには至らなかったが、劣勢のなかでも守備を修正し、無失点で切り抜けたことが今回の優勝に繋がった。


チーム全体としての粘り強さや一体感への手応えを口にしたのが、神戸のDF酒井高徳。試合後の囲み取材で、自軍に漂うポジティブなムードを明かしてくれた。


「選手層が凄く厚くなったと思いますし、出場した選手が同じような絵を描きながら、チームとしてやりたいことをできているのは間違いないです。だからこそ結果がついてきていると思います」


「若手に関しても、(ベテランである)自分たちが伝えているものであったり、良い意味でのエゴを持ってやっている点は、チームにとって間違いなくプラスになっていると思います。ベテランと若手のうまい共存ができていますね。誰が出場しても、安定した試合をできるだけの層が増えたというのが大事ですし、長く結果を残すチームになるには、それをしっかりやらなければならないので今は良い段階に来ていると思います」


昨年のJ1リーグに加え、今年の天皇杯も制した神戸。劣勢に陥っても冷静に勝機を見出す強かさ(したたかさ)を身につけた同クラブが、黄金時代へ突入しつつある。

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