ヤマハ、人材育成を担う新たな試み。若手ライダー5名がファクトリー仕様のYZF-R1試乗に大興奮/全日本ロード
2023年12月12日(火)8時10分 AUTOSPORT web
11月16日、ヤマハ発動機株式会社は宮城県のスポーツランドSUGOで全日本ロードレース選手権JSB1000クラス王者の中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)仕様のヤマハYZF-R1をヤマハライダーに試乗させた。
人材育成を担うbLU cRU活動の一環として、新たな試みとして企画された。その育成を見据えた試乗会で中須賀車にライドしたのはJSB1000から児玉勇太、芳賀瑛大、ST1000から豊島怜、ST600から井手翔太、伊達悠太の5人。ヤマハファクトリーのスタッフがマシンの準備をして、中須賀がマシンチェック、岡本裕生がマシンについてレクチャーするなど本番さながらの環境が用意された。
MS戦略部レース支援グループの担当者は「ライダーは、他のアスリートと同様に“心技体”、そのすべてが求められますが、モータースポーツの特殊性は、これに加えてバイク(道具)が必要になり、その良し悪しが成績を左右します。その中でファクトリーチームのYZF-R1は、チャンピオンを獲り続けており、JSB1000の中では最上級のバイクであるという自負がありますが、それを他のライダーに味わってもらう機会を作りました」と今回の走行会についての経緯と目的を説明した。
「当然ながら、Rシリーズで参戦してくれているライダーの皆さん全員に乗ってもらいたいのですが、ライダーとしての成績、取り組む姿勢、将来性など、さまざまな基準を持って今回は5名を選抜しました」
選抜された5名のライダーが各々、アウト・インラップを含めて1本目は4周、2本目は5周の計9周を走行。そのなかで計5周のタイム計測も行われ、各ライダーはかなり緊張した様子で出走。時折興奮した表情も見せており、貴重な時間を過ごしたようだ。
5名のライダー達は、今回の走行でモチベーションを高め、強い刺激を受けたことだろう。彼らはシーズンオフをどのように過ごし、2024年シーズンはどのような活躍ぶりと成長を見せるだろうか。
■児玉勇太:JSB1000(Team Kodama)
「最初は恐る恐るということもあり、制御の入り方に違和感があったのですが、車速が上がっていくととともにそれは解消されていきました。自分のバイクに重さを感じており、どうにかしたかったのですが、ファクトリーのR1はとてもキビキビ動きます。とにかく入力に対して動きすぎるくらい動くのが印象的でした」
「エンジンについては音から雑味がなく本当にキレイにパワーが出てきます。最高速は特別ではありませんが、コーナーでの向きの変わり方、アクセルの開けやすさがまったく違っていて、本当にしっかり作られています。同じR1ですが『こんなキャラクターになるんだ!』と発見ばかり。トータルでの完成度が高く、これは到底敵わないという感じです」
「ただ、これを速く走らせるのはまた別の問題で、次々とコーナーが来る中で数歩先を見て考えて準備しなければならないので、バイクの動きに対して自分が遅れているのがはっきりとわかってショックでした。同時に今後、自分とバイクをどうすべきか考えさせられるとてもいい機会になりました」
■芳賀瑛大:JSB1000(WORK NAVI Nitro Racing)
「楽しかったのは確かですが、言葉が出ませんね。同じR1で、同じタイヤを履いているのに、車体が違うだけでグリップなどの感じ方がぜんぜん違うんだなと。押し出されるようなパワーもすごかったです。自分のバイクより車体は硬い印象ですが、嫌な感じではなくしっかりしている硬さで、逆に乗りやすかったです。ウイリーなどの制御、ブレーキの精度と安定感、バイクの軽さ、同じ1000ccとは思えないぐらいの加速感……何もかもが違っていて、まったく別の乗り物でした。軽く想像を超えてきましたね」
「自分のバイクと同じ乗り方をしたら、まったくタイムが出ませんでした。自分のバイクは動いてバイクを使わないと曲がりません。ファクトリーのバイクも動かしていく必要があるのですが、バイクの軽さもあってすごい乗りやすかったです。いろいろと習得して早くこのバイクに乗れるようになりたいと改めて思いました」
■豊島怜:ST1000(DOG FIGHT RACING)
「もう別物です。1500ccくらいの排気量に感じた一方で、600ccも比較にならないくらい、まるでミニバイクのように軽くて、シケインで切り替えした時に『速すぎて』逆に倒れそうになりました。中須賀選手や岡本選手のすごさがより鮮明になったというか、こんなバイクを操っているなんてすごいなと……ストックのバイクよりも荷重とか、ブレーキングとか、自分で意識してやらなければならない操作が多いし、体にかかる負担も大きくて、自分がやっていることが2人に比べると何段階も下にあることに気がつきました」
「体を動かすテンポ、もっと速く動かしていくとか、アクセルの開け方を丁寧にとか、ストックでももっと頑張れることがあるし、もっとやらないといけないし、やっていかないと頭打ちしてしまうということを痛感しました。今年の開幕からやり直したい気持ちですが、それはできないので、この経験を来年にしっかりと生かしていきたと思いました」
■井手翔太:ST600(AKENO SPEED)
「マシンの軽さ、制動力、パワー……バイク自体の一体感がすごくて感動しました。制御も無理して開けてスライドしてもすぐに戻ってくる。これまで感じたことのない安心感がありました。僕自身はレーサーに乗ったことがないので、『レーサーってこんな感じなんだろうな』というふうに思いました。1000ccには鈴鹿8耐や鈴鹿2&4で乗っていますが、これとはまったく別物で1300ccみたいな感じ。開けはじめはとても開けやすいのに、パワーが乗ってきた時の力が別格です」
「ファクトリーマシンは、とにかく速くて乗りやすいものと思っていましたが、実際はライダーがマシンと同じレベルに達していないと機能しないんだとわかりました。僕はマシンのレベルに達していないので機能させられないし、まったりしてなくて、ライダーが考えてやり続けないとダメ。めちゃくちゃ仕事量が多いです。人生で一番疲れた3周になりました。でもめちゃくちゃ楽しかったです。ずっとファクトリーを目指してやっていますが、改めてこのマシンに乗りたい、このチームにいくべきだと再確認できたし、今後、練習内容を変えていかないといけませんね」
■伊達悠太:ST600(AKENO SPEED)
「直線はもちろん速くて、ちょっと戻したのははじめてです。こんなに曲がるんだとも思いました。ぜんぜん攻めることができず、最初は不安な感じがありましたが、おそらく攻めてないからそう感じたのだと思います。タイムも出ませんでしたが、これを乗りこなせたら楽しいだろうなと思ったし、ずっと乗っていたいです」
「そもそも、ファクトリーマシンに対して具体的なイメージがありませんでした。ただ今回乗ってみて、止まるし、曲がるし、進むし。自分の想像をはるかに超えたバイクが存在することに気づくことができました。ただ、これ走らせるにはまだまだ成長していかなければなりません。簡単ではないし、超難しいですが、自分なりにこうしてみたいというアイディアは湧いてきましたし、いつか、これに乗ってレースができるようにがんばろうと思いました」