カーリング界が「テクノロジー」で変わる?女子チーム・フォルティウスを支える「仕掛け人」が描く2026年五輪までの航海図

2022年12月14日(水)11時0分 ココカラネクスト

 近年、スポーツ界において、様々な技術を取り入れることが競技や選手のパフォーマンス向上の促進に繋がっている。

 だが、一方で、中にはまだその技術の発展が浸透していないスポーツもある。

 その一つと言えるのが、カーリングだ。

 そんなカーリング界に新たな道を切り拓くべく参入したのが、スマートフォン・タブレットを中心としたモバイル端末の販売、買取、レンタルを行うほか、テクノロジーを駆使したアプリ開発等を行う、株式会社ニューズドテックだ。

 今回は、代表の粟津浜一氏と、これまで数々のスポーツに携わりスポーツ界の発展に貢献しているスポーツアンカー・田中大貴氏とのスペシャル対談をお届けする。

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培った技術をカーリング界へ

田中:まずは簡単にニューズドテックの事業内容を教えて頂けますか?

粟津:中古スマートフォンの買取販売と、「スマホカルテ」という、スマートフォンの健康診断(バッテリー診断)ができるアプリを開発、そしてバッテリーが劣化したら交換できる「トリカエスマ保証」というサービスを展開しています。

田中:なるほど。ニューズドテックのルーツといいますか、どういったところから始まっていったのでしょう?

粟津:2009年に創業したんですが、当時は、ガラケーの買取・販売からスタートしました。仕入れルートがなかったので、友達などから集めて、最初は3、4台からのスタートでした。

田中:本当に身の回りの人からもらって始めたという感じなんですね。

粟津:そうですね。当時は、セドラー(市場に存在する既製品を安く購入して、高く売るビジネススタイル)みたいなことをやっていました。ヤフーオークションなどで売っていました。

田中:それをどんどん法人から買いとって大きくしていった形ですね。

粟津:元々、自分は研究者だったので、店舗やWEBのノウハウもありませんでした。今のようにWEBから買い取りとか、サイトを作るということはできなかったですし、自分が店舗を運営して店舗から買取などもできませんでした。「では、どうしよう」と考えた時に、当時の知識で、フランチャイズをやろうと。フランチャイズって、よく考えたら店舗運営の知識がないのでできないんですけど、何を考えたのかそういった形で始めたんです。

 当時の知識を詰め込みながらフランチャイズの説明会をやったんですが、当然のことながら人は集まらなくて。そこで、名前を変えようと思って、「提携店」という形に変えました。提携店に必要なシステムを作りますということで、システムを作り、そこでまた説明会をおこなって広げていってもらいました。

 ただ、ポッと出の得体の知れない人がなかなか話を聞いてもらえない、というのはあったので、コメンテーターになればいいと思ったんです。じゃあどうしたらコメンテーターになれるかと考えた時に、テレビは無理なので業界紙だと思いました。

 リサイクル通信というものがあって、それにコラムを書けば、第一人者だと思いました。じゃあどうしたらそのオファーが来るかと考えた時に、誰よりも詳しくなることだと考えました。それで北海道から沖縄までいろいろなところへいって、分析をして、最終的にコラムを書くことに繋がりました。

田中:本当にすごく努力されたんですね。

粟津:そういうエビデンスがあったので、業界内でも、「こいつ、誰よりも詳しいぞ」というブランディングができて、業界に参入する人が、まず僕のところへ来るというようになりました。

田中:なるほど。元々は研究者とおっしゃっていましたが、どんな研究をおこなっていたんでしょうか?

粟津:ブラザー工業という名古屋の会社でメーカー、ハード、ソフト、エレキ全部をやらせてもらったので、バランス良く能力がつきましたね。

田中:そこからどうして携帯の中古販売に転じたんでしょう。

粟津:小さい頃は、宇宙エンジニアとか宇宙飛行士になりたかったので、大学院まで進んで、将来JAXA(宇宙航空研究開発機構)に入りたかったんです。ですが、JAXAに落ちまして……。それで、私は中日ドラゴンズが好きなので、会社が終わったら電車1本で名古屋ドームに行けるところと思い、条件に当てはまるブラザー工業に入ったんです。野球を見る至福の時間を過ごしていたのですが、研究という同じことをずっとやり続けることは僕には合わないなと感じていたある日、居眠り運転で車が大破する自損事故を起こしたんです。その時に「宇宙事業をやると決めて起業しよう」と決意したのです。ただ、ビジネスのことは何もわからなかったので、30個くらいビジネスモデルを考えていくうちに、今の中古販売にたどり着きました。

田中:そんな中で、私が初めて粟津さんにお会いしたのが、女子カーリングチーム・フォルティウスのトップスポンサーになられるという記者会見の時でしたが、なぜカーリングだったんでしょうか。

粟津:2002年のバンクーバー五輪で日本代表の試合を見てから、なんて面白いスポーツなんだとずっと見ていました。

 カーリングは色々なエッセンスが入っていて、チームワークも必要ですし、アイスの状態を読んで一投一投(内容が)異なる。そして、相手もいるということで、こんな面白いスポーツはないなと。

 あとは、野球と同じくらい時間もかかりますし、静と動のスポーツなので、野球と非常に似ていると思い興味をもちました。

田中:競合チームを含め様々なチームがあるなかで、なぜこのチームと契約してスポンサードをしようと思ったんでしょうか。

粟津:フォルティウスの歴史のなかで、チーム青森とか前のチームからずっとオリンピックに出ていて、今も現役でやられているレジェンドの船山(弓枝)選手がいたんですが、その選手がいたというのが一つ大きかったですね。

田中:そうだったんですね。

粟津:「シムソンズ」というカーリングの映画にもなっているんです。

田中:その主役のルーツが船山選手なんですね。

粟津:そうです。船山さんと、もう引退しましたが、小笠原歩さんですね。フォルティウスは山あり谷ありのチームなんですよ。私も色々あったので、それに自分を重ね合わせたというのもありました。

田中:強かった時代もあったけど、今は苦しい状況にあり、また上がっていってもらいたいというところに、協力したいと思ったんですね。

粟津:そうですね。

「感覚の競技」カーリングがデータ化で変わる?

田中:トップスポンサーなので、相当な額だとは思いますが、携帯のリユース事業とフォルティウスがどうリンクするのかなというところは気になっています。

粟津:カーリングは、スポーツの中でもかなりデータ分析が遅れていて、IT化が遅れています。我々はデバイスをたくさん持っているので、将来的にはそのデバイスからの情報やセンサーからの情報を分析して、そこから新たに商品やマーケティングに繋げたいという思いがあります。その中で、スポーツの中でもデータ分析がまだ進んでいないカーリングに着目をしました。1990年代のヤクルト・野村監督のID野球みたいなことを、カーリングでもやりたいなと思ったんです。

田中:IDカーリングですね。ということは、カーリングはあれだけ競技中に間があって作戦を立てられるのに、アナログというか、自分たちの感覚の中でやっているんでしょうか?

粟津:そうなんです。世界における戦いも同様でオリンピックなどを観ていても、選手が腰からストップウォッチをぶら下げていますよね。

田中:ありますね。あれって何に使っているんでしょう?

粟津:ストーンから手を離してから止まるまでの時間を測っているんです。

田中:その時間を使って作戦を立てているわけなんですね。

粟津:そうなんです。

田中:なるほど。ということは、これまでは洗練された感覚と経験値によって勝ち負けが決まっていたカーリングが、これからは、データやパワーでという時代になってくるんですね。

粟津:そうですね。

田中:「デジタルによるデータ化」は日本ではフォルティウス以外はまだ着手をしていない。そこを、ニューズドテックが協力していこうということなんですね。まずはじめにどんなことをやりたいですか?

粟津:まずは足をおいて蹴る部分で、圧力をはかりたいなと思っています。押す力ですね。あとは、足と指先との距離が離れていくと、スピードや精度にも関わってくるので、肘のあたりにセンサーをつけたりして測っていきたいですね。

田中:まずは動きを可視化していくところからスタートしていくわけですね。そうすることによって、カーリング界はどう変わっていくと感じていますか?

粟津:今までは感覚だったので、感覚値が、なかなか他の選手や次世代の選手に伝わらなかった。それが、データを見ることで、次の一投にも繋がるし、次の育成にも繋がると思うんです。やり方が大幅に変わるなと思います。

田中:相手の傾向も分析できそうですよね。そこで、ニューズドテックの資産であるデバイスもそうですし、データを使う会社でもあるので、そこをリンクさせていくわけですね。

粟津:そうですね。

田中:もう着手は始まっているんでしょうか?

粟津:今ちょうどしようとしているところです。

田中:では、もうすぐ時代が変わる時がくるかもしれないんですね。

粟津:そうですね。2026年のミラノ・コルティナ五輪は、データ分析した後のカーリングがみられると思います。今まで五輪中継などで見られてきたカーリング中継も変わるんじゃないでしょうか。

田中:野球や卓球、そしてカーリングも、一投一投に間があるので、必ずデータをもう一度見直したりして作戦を立てられる。大いに可能性がありますよね。あとはこれからデバイスを使っていくわけですが、そこに組み込んでいくデータやアプリ、サービスはどういったものを考えていますか?

粟津:今は先にお話したような「スマホカルテ」など、スマホ内のデータを作っています。

田中:そのスマホカルテというのは、カルテのように、今のスマホを診断できるものかと思いますが、それはどういった項目があるんでしょうか?

粟津:今は26項目あって、液晶の状態や、マイクやスピーカーの状態、それから加速度センサーなど、センサーが動いているかどうかの診断もできます。

田中:ユーザーの皆さんや世間の反応はいかがでしょうか?

粟津:思った以上にダウンロード数がのびました。スマホが壊れているかどうかって、回線の問題なのか、端末の問題なのかって切り分けができないみたいなんです。そこで、スマホカルテを使って、その切り分けをはっきりさせることに用いてもらったりしています。

テクノロジーはスポーツを「届ける」側にも身近に

田中:現代は、スマホやタブレットなどがないとスポーツがみられないような時代まできました。テレビではなく、それらが「ファーストモニター」になっている。そこの需要というのは、チャンスだと思っていらっしゃいますか?

粟津:めちゃめちゃチャンスだと思っています。スマホに関しても1人1台あるいは2、3台使うような時代になりましたし、今までよりもスマホを使う時間が伸びているので、その分スマホやバッテリーに対するダメージも残ります。バッテリーの保証だったり、診断というのも需要が出てくると思います。

田中:なるほど。今回、粟津さんにインタビューさせてもらいたいなと思ったのは、今僕が様々なスポーツ中継で実況をする中で、PCやタブレットを使ったペーパーレスでできないかと思っているんです。今、野球中継だと、携帯を2台おいて、野球速報を開いて右側を守備位置が出ている画面、左側をランナーなどが出る画面。そしてPC端末はゲームの流れが追えるようなデータが全部入っているという感じになっています。インターネット検索ができるようにしていたり、昨日、今月、先月のデータなどを全部並べていて、紙1枚だけ、今日のポイントを自分の中で準備しておいています。今は解説者の方たちも端末を使いながら行う時代になってきていますしね。

粟津:そうだったんですね。やっぱり、スポーツとデバイスって親和性が非常に高いと思います。まだ満たされていない欲求がたくさんあると思うので、そこに参入して、ニーズを掘り起こして行きたいなと思いますね。

田中:今って、大人だけでなく、子供も端末を使ったり、それでスポーツを見ることが増えていますよね。街中でも親子で端末を使いながらスポーツ観戦している様子もよくみます。ただ、端末ってすごく値段が高いじゃないですか。なので、スポーツをやっているお子さん向けの端末として安価にできるものがあったら面白いですよね。

粟津:それいいですね。面白い。すぐやってみますか。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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