53歳のDRAGONと56歳の今田信宏がSF19を初ドライブ。そのタイムに周囲からも驚嘆の声

2020年12月23日(水)15時41分 AUTOSPORT web

 12月22日、富士スピードウェイでスタートした全日本スーパーフォーミュラ選手権の合同テスト/ルーキードライバーテスト。エントリーリストは当日の朝まで発表されていなかったが、パドックでも驚きとなったのは、Buzz Racing with B-Maxにふたりのジェントルマンドライバーが登録されたことだ。今田信宏、そしてチーム総代表にしてドライバーとしても活躍するDRAGONのふたりだ。


 F1にも迫ろうかというコーナリングスピードをもつスーパーフォーミュラは、世界からも注目を集めるカテゴリー。国内外の最速ドライバーたちが集い0.001秒を争うカテゴリーで、体力面でも過酷なものが要求されるが、そんなスーパーフォーミュラに、なんと50代のふたりのジェントルマンが乗り込んだ。


 走行前日の12月21日、チームに誰がテストで乗りに行くのかを尋ねにいくと、濁したあげく「記念だよ! 記念!」と笑いながら自身が乗り込むことを教えてくれたのは、ドライバー『DRAGON』としてスーパーフォーミュラ・ライツで活躍する、B-MAX RACING TEAMの組田龍司総代表だ。


 長年全日本F3選手権、そしてスーパーフォーミュラ・ライツに挑戦を続けるDRAGONは、2017年に全日本F3でF3-Nのチャンピオンを獲得。2019年にはマスタークラス王者、そして2020年もスーパーフォーミュラ・ライツのマスタークラス王者を獲得。今季は念願とも言える選手権オーバーオールでのポイント獲得も果たした。そして、その年齢は1967年生まれの53歳。日ごろから非常に過酷なトレーニングをこなし、フォーミュラに耐えうる体力をつけている。

全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権第15戦 マスタークラス優勝のDRAGON(TEAM DRAGON SFL)
DRAGON(TEAM DRAGON SFL)と今田信宏(JMS RACING with B-MAX)


■「想像していた以上に“ライツに近い”」


 そんなDRAGONがルーキードライバーテストに挑むことになったきっかけは、チーム総代表としてのBuzz Racing with B-Maxならではの“事情”があった。


「本来、これはルーキードライバーテストでもあるので、オーディションの意味合いなど、若手ドライバーに経験を積ませたり、オーディションしたりという舞台だと思いますが、我々のチームは今季外国人ドライバーが来日できず、終盤3戦については松下信治選手が乗ってはくれましたが、まだ来年の話まで至っていない。なので、乗る人がいなかったんです」とDRAGONは乗車までの経緯を語った。


「昨年ウチからF3に参戦したエナム(アーメド)からはSFに乗りたいという話があり、かなり早く来日して準備してくれたのですが、もうひとり候補のドライバーはまだ決まっていなかった。だから一台空いていた状態だったんです。そこで『じゃあ、語れるようになるか』と(笑)。一度乗ってみないと語れないですから」


 そこで、今季SFL終盤戦のマスタークラスでDRAGONと争った今田信宏からも「乗りたい」というリクエストがあり、JRP、他チームとの了承をとり、テストに参加したというわけだ。DRAGONはSFL第7ラウンドから2日後、12月22日のセッション2で初めてのスーパーフォーミュラに乗り込んだ。Buzz Racing with B-Maxの長谷川謙一総監督、本山哲監督などが見守るなか、慎重にコースインすると、少しずつペースを上げながら周回。24周を走り、1分25秒580というベストタイムで走行を終えた。


「第一印象は、『とにかく速い』ということです。クルマのクオリティが高く、すべてにおいてスーパーフォーミュラ・ライツと比べると、1ランク上だと感じました」とDRAGONはSF19について語った。


 ただ一方で、体力に関する負担について聞くと「正直、トップからは5秒ほど差があるので語れる立場ではないかもしれませんが、思った以上にコーナリングスピードは、ライツと変わらないイメージがあります」という。


「いかにスーパーフォーミュラ・ライツが速いのかというところではありますが、加速と減速以外はそれほど驚かなかったです。河野駿佑選手もSF19に乗りましたが、おそらく平気だったのではないかと思うんです。もちろんSF19の全開率を上げて走るためには、ジェントルマンでは厳しいかもしれませんが、自分たちが想像していた以上に“ライツに近い”と感じましたね」


「今日は僕と今田さんが乗ったことで、走らせる側としてもスーパーフォーミュラ・ライツの“存在意義”をアピールできたと思いますし、ライツがあってSFに上がれるというのは、段階としてはすごく良いと感じました」

Buzz Racing with B-MaxのSF19をドライブするDRAGON
Buzz Racing with B-Maxからスーパーフォーミュラテストに参加したDRAGON


■「予想をはるかに上回るパワー」と今田


 そしてDRAGONが乗り込む前、セッション1で走行したのが、なんと56歳の今田だ。会社経営者である今田は、まだ本格的なレースキャリアは5年目だというからこれまた驚きだ。ポルシェワンメイクからスタートし、鈴鹿のフォーミュラ・エンジョイでタイトル獲得。2019年はポルシェカレラカップ、フェラーリチャレンジ・アジア・パシフィックに挑戦した。


 2020年もフェラーリチャレンジに挑戦しようとしたものの、コロナ禍のため海外挑戦ができず、今季はフォーミュラリージョナルに挑戦。マスターズ王者を獲得するとともに、後半戦からスーパーフォーミュラ・ライツにも参戦した。ヒストリックF1をドライブした経験もあるとのことだが、本格的なフォーミュラとしては、まだ1年少々のキャリアでスーパーフォーミュラまでドライブしてしまった。


「予想をはるかに上回るパワーで、不用意にアクセルを踏むとすぐリヤが流れてしまいます。そこがライツとの大きな違いでしたね」と今田。


「パワー感は、ハコでも600馬力ほどあると無造作に踏むと流れてしまいます。一方で、軽い車体でのフォーミュラはライツでの経験がありましたから、その組み合わせで乗ったような感じですね。もちろん、若手の皆さんに迷惑をかけてもいけないのでマージンをとって乗りましたが、体はそこまでキツいかというと、100%で走るライツの方がキツさはありました。でも、最高速や減速Gはやはり凄まじかったです」


「例えば、フェラーリでここを走って、ストレートで300km/h近くを出しても、TGRコーナーのブレーキングは160メートルとか、そのレベル。でもスーパーフォーミュラは100メートルを切って減速ですからね。普通ではあり得ない世界だったと思います」


 今田は慎重にペースを上げ、48周を走り1分24秒571というベストタイムをマークした。当然、そのセッションのトップだった山本尚貴からは4秒の差があるが、あのクラスのフォーミュラをたった4秒落ちで走らせたことに、周囲、さらに別チームの多くの関係者からも「あのタイムはすごい」「今田さんは何者なの?」と驚嘆の声が上がった。そして、このスーパーフォーミュラの走行後に行われたライツのテストでも、佐々木大樹からステアリングを受け継ぎドライブしタフネスぶりをみせている。


 これまで、国内トップフォーミュラでは現TEAM KUNIMITSUの高橋国光総監督が、54歳で全日本F3000に参戦していたことはあるが、DRAGONは53歳、そして今田は56歳と上回る。しかも、当時よりもスピードは速い。「ジェントルマンでのSFドライブは初だったと聞いていますし、最年長とも聞いています。こういう機会をいただいて、本当に感謝しています」と今田は笑顔をみせた。


 もちろん実際のレース参戦とまではいかないだろうが、モータースポーツに欠かせない存在であるジェントルマンドライバーにとっては、ある意味“夢の実現”とも言える。テストだから実現できた、非常に夢があるふたりの挑戦となった。

マスタークラスを制した今田信宏(JMS RACING with B-MAX)
今田信宏(Buzz Racing with B-Max)
Buzz Racing with B-MaxのSF19をドライブする今田信宏
SFテストの終了直後、スーパーフォーミュラ・ライツのテストでもドライブした今田信宏

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