200万円前後で手に入る”ありそうでなかった“コンパクトSUV/ダイハツ・ロッキー実践インプレッション

2019年12月27日(金)11時5分 AUTOSPORT web

 話題の新車や最新技術を試乗する『オートスポーツWEB的、実践インプレッション』企画。お届けしてくれるのはクルマの好事家、モータージャーナリストの佐野弘宗さん。


 第2回は2019年11月に登場したコンパクトSUV、『ダイハツ・ロッキー』『トヨタ・ライズ』を取り上げます。最大の注目は、新生代プラットフォーム“DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)”を採用したことで、全長4m以下のコンパクトサイズながら、クラストップレベルの室内空間を確保していること。空間使いのマジックを魅せるロッキーに迫ります。 


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■トヨタとダイハツのコンパクトカーづくりの変革


 ロッキー/ライズは顔のデザインだけを変えてダイハツとトヨタの両方で販売されるが、クルマそのものを開発・生産するのはダイハツだ。トヨタ名義の小型車をダイハツが供給する商売は以前からおなじみで、たとえばダイハツ・ブーンとトヨタ・パッソ、あるいはダイハツ・トールとトヨタ・ルーミー/タンク(そしてスバル・ジャスティ)も同じ構図である。


 ロッキー/ライズは軽自動車のタントに続く、2例目の“DNGA商品”という。DNGAというネーミング自体、ダイハツの親会社であるトヨタが標榜するTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)をもじったものだ。


 DNGAの具体的な内容はTNGAとは別物だが、「クルマの大変革期に向けて、基本ハードウェアだけでなく、組織、商品企画プロセス、開発手法、購買活動など、商品づくりにまつわるすべてを見直す」という大意は、DNGAとTNGAで酷似する。

トヨタ・ライズのリヤスタイル


 DNGAはダイハツにとどまらず、トヨタグループ全体で大きな意味をもつ。トヨタは現在、製品群ごとに社内分社化したカンパニー制を敷く。


 そのひとつである“新興国小型車カンパニー”は、トヨタとダイハツが一体となった組織であり、純トヨタで新型ヤリスを手がける“トヨタ・コンパクトカーカンパニー”とは別である。新興国小型車カンパニーの技術開発は事実上ダイハツが主導だから、DNGAはトヨタの新興国戦略そのものでもあるわけだ。


 そんなロッキー/ライズは1.0リッターターボエンジン以外、プラットフォームやサスペンションを含む骨格構造、変速機、4WDシステムにいたるまで、それこそ「ネジ以外はすべて新しい」という。このクルマは国内専用だが、そのハードウェア技術は今後グローバルに展開予定だ


■ 小回りが利いて軽快な走り、5ナンバー規格のメリットを活かした設計


 ロッキー/ライズの新しさは一般道と高速道路をチョイ乗りしただけでも分かる。クルマ全体の剛性感やしっかりした高速直進性は、旧世代のブーンやトールとは別物だ。


 そして、高速道路で100km/h巡行での車内の静粛性も印象的。クルマの静粛性は吸音材や遮音材の物量作戦がもっとも効果的なので、今回のように軽量化と静かさが両立しているのは、いかにも最新技術のDNGAの恩恵っぽい。


 このようにロッキー/ライズのハードウェアは、最新のクルマとして普通によくできているが、飛び抜けて優秀か……というとそれほどでもない。これは悪い意味ではなく、このクルマの最大の魅力は、やはり「ありそうでなかった」というちょうどいいツボを突く商品企画だということだ。

ロッキーのインパネまわりはスポーティな印象。『G』と『X』グレードの内装は細部に赤の加飾が差し込まれている


 ロッキー/ライズは「5ナンバーサイズのSUVである」というだけでも価値がある。コンパクトSUVは世界的に人気があるので日本でも選択肢は多いが、国際商品があるがゆえに、日本特有の5ナンバー枠におさまる例はじつは数えるほどしかない。数ある5ナンバーの条件でも、とくに“全幅1.7m未満”という部分が、商品性や安全性の面で海外で売るのは難しいのだ。


 実際、5ナンバーSUVはこれまで、ジムニー シエラ、イグニス、クロスビーを並べるスズキの独壇場だった。ロッキー/ライズはスズキの3台よりは少しだけ立派で見栄えもするのに、5ナンバー幅に加えて全長も4m以下。日本のだれもが「小さい」と直感するサイズに落とし込まれている。


 ダイハツの担当技術者によると、ロッキー/ライズの開発テーマは「小さくて、広くて、カッコエエ」だったそうだ。大阪拠点のダイハツがいうとおり“カッコエエ”かどうかは個人の主観に任せるにしても、エンジンルームが最小化されたプラットフォームに四角四面のボディを載せたパッケージレイアウトは、なるほど素直に小さくて広い。


 さらに前席間には立派なセンターコンソールが鎮座しているが、これは全幅の狭い軽自動車ではありえないデザインで、これだけで「あえて小型車を買ううれしさ」になりえる。


 トランクやシートアレンジにも特別なギミックがなくとも、本来はスペアタイヤ用の空間にまでカーペットを張りめぐらせて、それこそ「ゴルフボール1個でも余計に積んでほしい」というバカ正直(失礼)な態度には素直に共感がもてる。

ロッキーの荷室。床下には80リッターのアンダーボックスを用意


■ライバルのスズキ・クロスビーと比較検証「4WD車に差が出る」


 前記のスズキでも真正面からライバルとなるのはクロスビーである。両車は技術的にもよく似ており、FF車ではクロスビーとロッキー/ライズそれぞれに一長一短がある。ただ、4WD車の走りについてはロッキー/ライズが一歩リードする。


 というのも、クロスビーの4WDのリヤサスペンションは簡素なリジッド式で、4WD機構も単純なビスカスカップリング式だからだ。


 クロスビーではリヤサスが半独立トーションビーム式になるFFに対して4WDではリヤの高速安定感がわずかに劣っており、またビスカス4WDは主駆動輪(クロスビーの場合は前輪)がはっきり空転して初めて4WDになる。この種の4WDはスタック防止には役立つが、完全に滑り出す以前の安心感にはほとんど寄与しない。

スズキ・クロスビー。ワゴンとSUVの要素を融合させたクロスオーバーモデル


 対してロッキー/ライズのリヤサスペンションはFFも4WDも同じ半独立トーションビームで、4WDでも高速安定性が見劣りすることがない。しかも、その4WD機構は「トヨタRAV4のノウハウが伝授された」ともウワサされる電子制御カップリング式。基本FFで走るのはクロスビーと同様だが、発進や登り坂、滑りやすい路面では、実際にスリップする以前に先回りして4WDになる。


 いずれにしても、200万円前後で買えて、これだけあっけらかんと明るいデザインで、実用的なのに「生活臭くない」クルマは貴重だ。アラフィフの筆者が若いころはそういうクルマがたくさんあったものだが、安全性や環境性能、日本市場の縮小など、1台あたりのコストがかさむいっぽうの現代には、こういうクルマは「ありそうでなかった」のが現実である。


 ロッキー/ライズは発売1カ月時点で月販目標の8倍(ロッキーが1万5000台、ライズが3万2000台)を受注したという。この絶妙な商品企画なら、売れるのも分かる。

ロッキーの荷室容量は369リッターを確保。6対4分割可倒式の後席を倒せば、長尺物の積載にも対応


■ダイハツ・ロッキー『G』主要諸元








































































































車体
車名型式DLA-ZVW52-AHXHB
全長×全幅×全高4645mm×1760mm×1470mm
ホイールベース2700mm
トレッド 前/後1530mm/1540mm
最低地上高130mm
車両重量1530kg
乗車定員5名
駆動方式2WD(FF)
トランスミッション電気式無段変速機
ステアリングギヤ形式ラック&ピニオン
サスペンション前/後ストラット式コイルスプリング/ダブルウイッシュボーン式コイルスプリング
ブレーキ 前/後ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ 195/65R15
エンジン/モーター
エンジン/モーター 型式2ZR-FXE/1NIM 1SM
エンジン形式水冷直列4気筒DOHC
エンジン排気量1797cc
内径×行程80.5mm×88.3mm
圧縮比13.0
エンジン モーター最高出力72kW(98ps)/5200rpm 53kW(72ps)/23kW(31ps)
エンジン モーター最大トルク142Nm(14.5kgm)/3600rpm 163Nm(16.6kgm)/40Nm(4.1kgm)
使用燃料無鉛レギュラーガソリン
タンク容量43L


■Profile 佐野弘宗 Hiromune Sano


1968年生まれ。独自の視点と執筆力で、多数の自動車雑誌、週刊誌、WEBに寄稿するアラフィフのモータージャーナリスト。国産の新型車の取材現場で必ず見かける貪欲さも武器。


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