強い心で、次へ次へと進みたい【舩越園子コラム】
2024年12月30日(月)12時0分 ALBA Net
家族とともに年間王者戴冠を喜ぶスコッティ・シェフラー(撮影:GettyImages)
2024年シーズンにおいて、私が一番苦笑させられたのは、「マスターズ」でジェイソン・デイ(オーストラリア)がオーガスタ・ナショナルのドレスコードに引っかかり、着ていたベストを「脱いでくれませんか?」と言われてしまった、あの出来事だった。
マスターズ2日目の朝、デイはウェア契約を結んでいるマルボンのベストを着てプレーしていた。しかし「Malbon Championship Golf」という英語の文字が、ほぼ全面に大きく入れられていたそのベストは、ゴルフファンの目を引いたものの、伝統と格式を重んじるオーガスタ・ナショナルには、あまりにも不自然に感じられた。
SNSでも「デイのベストはひどすぎる」「オーガスタ・ナショナルに叱られるぞ」といった投稿が相次ぎ、そうした予想通り、デイは「オーガスタ・ナショナルのオフィシャルから、『そのベストを脱ぐことはできますか』と聞かれたので、僕は素直にイエスと答えて脱いだ」。
メジャー・チャンピオンが試合会場でドレスコードに抵触して着替えさせられることは、きわめて異例だったが、私が興味深いと思ったのは、その出来事の“その後”だった。
問題のベストはマルボンのオンライン販売で248ドルで売れ続け、デイが実際に着ていたベストはオークションに出品され、約250万円で落札された。
そうした売り上げの全額が、デイ夫妻が設立した「ブライター・デイズ財団」を通じて、貧困や傷病で苦しんでいる人々のために役立てられたという後日談は、2024年の何よりの温かいニュースだった。
さて、2024年に一番驚かされたニュースは、世界ランキング1位のスコッティ・シェフラーが逮捕・連行された出来事だった。
「全米プロ」の2日目の朝、シェフラーは交通整理の警官の指示に従わず、無理矢理、前進して警官を負傷させたとみなされ、その場で手錠をかけられ、拘置所へ連行された。
しかし、数時間後に釈放され、警官の護衛付きで試合会場に大急ぎで戻り、遅延していたスタート時間になんとか間に合って、動揺もほとんど見せることなく、好プレーを披露。そんなシェフラーのメンタルの強さは、さすが世界ナンバー1の王者だと思わされた。
この出来事の“その後”もなかなか興味深い。米国内のあるゴルフ場では、警官の人形を運転席の外側にぶら下げたまま、駐車場へと進んでいく1台の車の様子を収めた動画が、SNSで大きな話題になった。さらに、今年のハロウィンでは、シェフラーとポリスに見立てたコスチュームが大流行したというから、大いに驚かされた。
警官の人形やハロウィンのコスチュームが世間ですぐさま登場するあたりは、日本とは異なる米国の国民性なのかもしれない。だが、すでに起こってしまったことにくよくよするのではなく、スパッと割り切って笑いに変える姿勢は、山あり谷ありの人生を強い心で乗り切るためには、ときには必要なことではないかと私は思う。
実際、シェフラーは前代未聞の逮捕劇を精神面でプラスに作用させた様子で、8月の「パリ五輪」では金メダルを獲得。PGAツアーでは今季7勝を挙げ、年間王者にも、プレーヤー・オブ・ザ・イヤーにも輝いた。
そうやって最強の王者の2024年は最高の形で締めくくられるはずだったが、シェフラーは12月25日、クリスマス・ディナーの支度中にガラス片が右手のひらに刺さるケガを負い、手術が必要となって、2025年は開幕戦から数週間の欠場を余儀なくされてしまっている。
しかし、シェフラーなら、その出来事さえも「ケガの功名」となしてくれるのではないだろうか。ゴルフ界の王者だからこそ、たとえ困難に遭遇しても、絶対に乗り越え、次へ次へと進む姿を見せてくれるはずである。シェフラーのような強い王者がいてくれることは、混沌としている現在のゴルフ界の何よりの幸運である。私自身も、彼のように強い心を抱き、前を向いていきたいと願いつつ、新年を迎えたい。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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