実験室で培養した「ミニ脳」に意識が芽生える恐れ… 断頭した豚の脳からも脳波が

2023年1月23日(月)7時0分 tocana

 体外で作製された三次元脳組織「脳オルガノイド」は、今や医学や科学の発展に欠かせないツールとしてさまざまな実験に利用されている。しかし、実験範囲を拡大するべく、より生体に近い構造を持つ脳オルガノイドの開発が期待されている一方で、多くの科学者らは”意識が芽生える可能性”について懸念を抱いているという。


 人間の脳、そして意識の謎を解き明かすためには、動物と人間の意識をどのように定義し、選別するべきか? 人間の意識が生じる基準とは? 細胞の提供者から同意書を取る必要があるのか? といった多くの問題がつきまとうため、現在ガイドラインの作成が検討されている。


 最近ではマウスの脳に移植された人間の「ミニ脳」が神経接続を確立し、視覚刺激に反応したことが報告されている。人間のようにモノを見て理解しリアクションするマウスが登場するのも時間の問題かもしれない。


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※こちらの記事は2020年11月6日の記事を再掲しています。


 ヒト幹細胞を成長させて作成する「脳オルガノイド」は、今や脳を研究するうえで重要なツールとなりつつある。新型コロナウイルス研究においても、脳や神経系への影響を調べるために脳オルガノイドを使った実験が行われている。だが、実験室で脳細胞を培養、成長させることについては大きな懸念がある。培養された脳細胞に意識や感覚が芽生える可能性はないのか? もしも意識が発生してしまったら? というものだ。


・Can lab-grown brains become conscious? (Nature)


 2019年8月、米・カリフォルニア大学サンディエゴ校の神経科学者アリソン・ムオトリ氏のグループは、ヒト幹細胞から作成した脳オルガノイドに電気信号のパターン——つまり脳波らしきものが生じているのを確認した。この「脳波」は未熟児のそれとよく似た特徴があるといい、実験が終了するまでの数か月間発生し続けたという。


 脳オルガノイドは脳の機能や疾患、精神病、脳細胞への薬物の影響などを研究するため世界中で培養、さまざまな実験に用いられている。今や医学や科学の発展に欠かせないツールであるが、その研究を進めるうえで、多くの科学者らが懸念している問題が「脳オルガノイドに意識は芽生えるか?」というものだ。


 意識をどう定義するべきかは非常に難しい問題で、現在でも議論が絶えないが、「世界を感知して応答する認知システム」とシンプルに考えるなら、ムオトリ氏らの見た現象は意識の芽生えの前兆とも考えられる。脳オルガノイドには目や耳などの感覚器はなく、動かす手足もないが、その基礎となり得るごくごく原始的な神経回路である。一般に脳オルガノイドは皮質を再現するだけだが、筋肉細胞などを接続する実験も行われており、その実験範囲が今後ますます拡大するのは間違いないだろう。


 また、このような問題は脳オルガノイド以外の脳研究にも強く関わっている。その一例が、米イェール大学医学大学院神経科学部のネナド・セスタン氏らによる豚の脳を使った実験だ。セスタン氏らは「BrainEX」という脳に人工血液を循環させる特殊な装置を開発、断頭した豚の脳を最大36時間生存させたと発表しているが、その実験のなかで脳波らしきものを確認しているのだ。この実験では脳波らしきものを確認した段階で実験は中止されており、セスタン氏らは「予防」のために実験中の豚の脳に麻酔薬を投与することにしているという。


 改めて言うまでもなく、「意識の有無」は研究を倫理的に進めるうえで重要な観点の一つだ。例えば、近年は動物実験に対する批判が強まり、研究者らはガイドラインに従って、できるだけ苦痛の少ないやり方で実験動物を扱うようになっている。脳オルガノイドについても動物実験のような「倫理的で人道的な」ガイドライン作りが検討されているが、そこには次のような実に多くの問題がつきまとっている。


・研究者は動物の意識、そして人間の意識をどのように定義し、識別すべきか。
・どのくらいの大きさ、複雑さの脳オルガノイドならば、人間の意識を生じさせるのか。
・細胞の提供者から「脳オルガノイドの作成に利用する」と同意書を取る必要があるか。


 とはいえ、マウスなどの脳オルガノイドを扱う際にはここまで厳格なガイドラインは必要なく、ガイドラインの有無が研究者らの活動を大きく妨げることはない。事実、マウスの脳オルガノイドを作成し、そこに生じた脳波が生きたマウスのものとどこまで類似しているか比較するような研究が、世界各地で進められている。


 脳オルガノイドが人間の脳、そして意識の謎を解き明かす鍵となるのは間違いない。ただ、その過程で考えるにもおぞましい事態が発生してしまうことは、一般人はもちろんのこと、当の研究者らも望んではいないのだ。


参考:「Nature」、「Popular Mechanics」、ほか

tocana

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