箱根を爆走した青学大・太田と黒田が語る、アディダス〝世界新モデル〟の実力

2024年2月8日(木)13時0分 JBpress

文・撮影=酒井政人

 正月の箱根駅伝は青学大がひたすら強かった。なかでも素晴らしい走りを見せたのが太田蒼生(3年)と黒田朝日(2年)だ。

 太田は箱根駅伝に滅法強く、黒田は昨年の出雲駅伝と全日本大学駅伝で活躍した。今大会でも快走が期待されていたが、そのパフォーマンスは想像の〝斜め上〟だった。

 なぜ2人はこれほどまでに強かったのか。その秘密を紐解いていきたい(全2回の1回目)。


太田蒼生は履くと決めていた

 第100回大会に出場した選手は全230人。そのなかで太田と黒田は、ある特別なモデルを履いていた。アディダスの『ADIZERO ADIOS PRO EVO 1』 だ。

 昨年9月のベルリンでティギスト・アセファ(エチオピア)に2時間11分53秒という驚異の女子マラソン世界記録をもたらした〝スーパーシューズ〟になる。

 衝撃の世界新記録ニュースは瞬く間に世界中をかけめぐった。同じアディダスを履く太田にとってもサプライズだったが、同時にチャンスだと感じていたという。

「アセファ選手はレベルの高い方だと思うんですけど、そんなに凄いシューズができたの? とまずは驚きました。世界記録が出たときは日本にはまだ入っていなくて、世界でも数が少ないと聞いていたんです。でも入手できたら『絶対に履こう』と決めていました」

 その後、国内では8万2500円(税込)で限定抽選発売されたが、噂のモデルはすぐに〝蒸発〟した。太田がADIZERO ADIOS PRO EVO 1(以下、EVO 1)を手にしたのは12月中旬だった。箱根駅伝の約2週間前になる。

 太田は迷うことなく、正月決戦での使用を決意。しかし、ファーストトライは、微妙なかたちで終わっている。

「ウォーミングアップは別のシューズで行い、一度も試し履きすることなく、5㎞×2本を走りました。でも見事に撃沈したんです」

  インフルエンザ明けということもあり、設定タイムを10秒ほどオーバーしたのだ。

「体調も悪かったし、履き慣れてないのもあったと思います。でも、すごく軽くて、クッション性があって、反発もある。最初から履きやすいなという感覚はありました」

 2回目は本番最後のポイント練習で履き、3回目はレース前日刺激の1000mで使用。徐々にシューズの〝感覚〟をつかんでいった。

 EVO 1は太田がレースで着用していたADIZERO ADIOS PRO 3をベースにしたモデルで、約40%の軽量化に成功。中足骨をヒントに調整された5本のカーボンスティックを搭載した厚底モデルながら約138g(27 cm片足重量)しかない。太田はPRO 3との違いをこう説明する。

「軽さが抜群に違っていて、履いていても、シューズ(の重さ)がまったく気になりません。走った感触としては、PRO 3はどちらかというとクッション性がやや少なくて反発がある感じなんですけど、EVO 1は沈んだ分、反発が強く返ってくるんです」

 そしてEVO 1を着用した太田が箱根駅伝3区で〝爆走〟する。10000mで日本人現役学生最高の27分28秒50を持つ駒大・佐藤圭汰(2年)を22秒差で追いかけると、7.6㎞付近で並ぶ。10㎞を27分26秒という驚異的なペースで通過しながら、終盤に佐藤を突き放した。

「僕はなかなか凄いペースでいったんですけど、後半に何回も仕掛けることができました。脚に余力があったのは、シューズのおかげでもあるのかなと思います」

 太田は3区の日本人最高記録を1分08秒も塗り替える59分47秒で突っ走り、駒大の2年連続3冠の野望を打ち砕いた。


花の2区で区間賞に輝いた黒田朝日

 黒田も太田と同じタイミングでEVO 1を受け取ると、まずは軽さに驚かされたという。

「最初の印象はやはり軽さですね。出雲と全日本はADIZERO TAKUMI SEN 9を履いたんですけど、それと比べても軽いのかなと感じました」

 TAKUMI SEN 9の靴底はヒール33 ㎜、前足部27㎜で、27 ㎝の片足重量が180g。より厚底になるEVO 1(ヒール39 ㎜、前足部33 ㎜)の方が42gも軽いのだ。

 黒田もインフルエンザ明けだったこともあり、最初に履いたポイント練習の感覚は良くなかったという。それでも箱根前のポイント練習で2回使用したことで、EVO 1の威力を感じていた。

「TAKUMI SEN 9とは系統が違うので、別物という感覚でした。ただクッション性と反発力はこれまでに履いてきたシューズのなかで突出しているのかなと思います。でも本番はどうしようかな、という気持ちでした」

 最高峰モデルの使用を悩んでいた黒田だが、「俺はEVO 1でいくよ!」という太田の言葉に背中を押された。

「せっかくだし、僕も箱根で履いてみようかなと思いました。履くなら、覚悟を持ってやろう、と。そこからは迷わずにいくことができました」

 初めての箱根駅伝、黒田はEVO 1を着用して鶴見中継所に立った。最初に駒大・鈴木芽吹(4年)が飛び出すと、35秒差の9位で走り出す。腕時計をしない黒田は自分のリズムで刻んでいった。

 鈴木は10㎞を28分09秒で通過して、権太坂(15.2㎞地点)の通過タイムは個人トップ。一方の黒田は権太坂の通過タイムが個人7位で、駒大との差を1分05秒に広げられていた。

「沿道から『前と1分差だよ』という声が聞こえてきたときは、優勝はちょっと無理そうだな、と一瞬思ったんです。でも権太坂の上りくらいから、自分のなかで動きが良くなったというか、上がってきた感覚がありました。その後は、タイムや順位の意識はあまりなくなって、本当に自分の走りに集中できたのかなと思います」

 黒田は後半が強かった。歴代のエースたちを苦しめてきた〝戸塚の坂〟で駒大・鈴木に急接近。最後は13秒まで詰め寄り、区間歴代4位の1時間06分07秒で区間賞に輝いた。

「結果として前半から自分の思い描いたようなペースで走れたことと、後半に上げられたのが大きかったのかなと思いますね。ラスト3㎞を切ってから駒大が見えてきたので、1秒でも縮めたいという気持ちだけで走りました。終盤まで余力を残して走れたのは、シューズの恩恵があったのかなと思いますし、反発力は凄く感じました」

 10000m27分30秒前後のタイムを持つトリプルエースを1〜3区に配置した駒大に対して、青学大は10000m28分15秒82の黒田と同28分20秒63の太田で逆転に成功。女子マラソンで驚異的なタイムをもたらした〝世界新モデル〟のEVO 1が箱根路でも圧倒的な攻撃力を発揮したかたちになった。

筆者:酒井 政人

JBpress

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