パンデミック期間に味わった“遠さ”の記憶が薄れる今、「遠距離現在 Universal / Remote」が問いかけるもの

2024年3月8日(金)13時30分 マイナビニュース

東京・六本木の国立新美術館で、「遠距離現在 Universal / Remote」が始まりました。世界的な緊急事態だったパンデミックの3年間で、リモートによって遠距離でも容易につながれるようになった私たち。一方で実体のあるつながりは希薄となり、分断や孤立も加速。そして今、あの時期の記憶がものすごいスピードで薄れていく中、この展覧会ではあらためて、私たちの暮らしや労働の形といった様々な事象を、現代美術を通して問いかけています。
○忘れ始めたパンデミックの記憶を、現代美術を通して振り返る
全世界が新型コロナウィルスの感染拡大の渦中にあった2020年に、国立新美術館 特定研究員の尹志慧(ユンジヘ)さんによって、同展は企画構想されました。
「今の時代を生きる私たちにとって、‟遠さ”を感じることは困難なことです。しかし、地理的な遠さというのはけっして打ち消すことができません。コロナ禍で設定された‟2メートル”という距離は、飛沫が届かない遠さを確保するためのものでした。あるいは、入国制限や渡航禁止によって、国家間の遠さも露呈しました。リモートワークの定着によって遠さを“隠ぺい”し、それを解消することにも成功したし、コロナ禍が沈静化すると、私たちは遠さの感覚を早くも忘れてしまいました」。
昨年5月にマスク着用が解除になってすぐに、「コロナのことをすごいスピードで忘れ始めた」という尹さん。しかしパンデミックの期間に感じた社会の矛盾や不条理、感じ取った孤独や日常の大事さなどについて、「それを絶対に忘れたくない」というのが、この展覧会の構想の出発点となったそう。
○全世界規模の「Pan-」と、非対面の遠隔操作「リモート」
タイトルの「遠距離現在 Universal / Remote」は、本来は‟万能リモコン”を意味する「universal remote」という単語の間をスラッシュで分断することで、その万能性にくさびを打ち、ユニバーサルな世界と、遠隔・非対面のリモートで点在する個々人の暮らしを露呈させるために作られた造語です。
展示は、グローバル資本主義や社会のデジタル化という現代美術における従来のテーマを、「Pan- の規模で拡大し続ける社会」と「リモート化する個人」という2つの視点から、世界が注目するアーティストたちの作品を通して新たに捉えなおすという試み。前者は過剰な監視システムや精密なテクノロジーのもたらす滑稽さを、後者は人間の深い孤独を感じさせる作品群が、9つの部屋で紹介されています。
といっても出展作品の多くは2019年までに制作されたもので、必ずしもパンデミックの3年間に生まれたというわけではありません。でも、作品が発表された当時とコロナ禍を経験した今とで、それらを同じように見て、同じように感じることはできるでしょうか? コロナの前と後で、私たちに見えている世界はどのように変わったのでしょうか?
○世界が注目するアーティスト8名と1組の作品を展示
出展アーティストは、日本初の紹介となる作家をはじめ、海外を拠点に活動する8名と1組。ニューヨークと北京を拠点に世界的に活躍する徐冰(シュ・ビン)をはじめ、多様なメディアにおける芸術制作に‟ハッカーの哲学”を応用するエヴァン・ロス、フォト・ジャーナリズムとアート・アクティヴィズムの領域を横断するデンマークの写真家ティナ・エングホフ、同展で「Pan- 」と「リモート」の2つのキーワードをまたがる地主麻衣子、同展のために作品を再構成した井田大介、そして日常の何気ない風景をやさしく軽やかに描く鹿児島在住の木浦奈津子らの新作を含む10年間の作品群を通じて、ポストパンデミック社会と個人の在り方を読み解きます。
国立新美術館では5年ぶりとなる現代美術のグループ展「遠距離現在 Universal / Remote」は、6月3日まで開催です。
■information
「遠距離現在 Universal / Remote」
国立新美術館 企画展示室 1E
期間:3月6日〜6月3日(火曜休館、ただし4月30日は開館)
時間:10:00〜18:00(金土は20:00まで) 最終入場は閉館30分前まで
料金:当日券一般1,500円、大学生1,000円、高校生、18歳未満および障害者手帳持参の方(付添の方1名含む)は無料

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